第43話 説得
バラッド子爵は、アリシアの手を掴む。
「アリシア、帰るぞっ」
「いや、離してお父様っ」
アリシアはグイッと食い下がる。
「お前は貴族子女、こんな所で土汚れていたらヨハーソン家の気品が汚れてしまう。お前は自分を磨いて、婚約者を見つけていれば良いんだっ」
バラッド子爵の言葉に、宗平の癇に障る。そしてアリシアの手を掴むバラッド子爵の手首を掴む。
「ちょっとおっさん、農家をこんな所呼ばわりは頂けないな………」
「何?」と、バラッド子爵は宗平に視線を向け、ムッと睨みつける。
「俺は、この仕事に誇りを持っているんだよ。毎日、土に汚れて、作物を育てて、時に天候に左右されたりもするんだ。アンタが食べている野菜はその苦労を乗り越えて店に出されるんだよ。その生産者達の苦労が、民の声もロクに聞かないアンタに分かるか?」
宗平は胸を張って言った。何故なら農作業にはプライドがあり、意地があるからだ。
アリシアは掴んでくる父の手を振り解き、意見する。
「そうよ、私はソーヘイさんの所で多くの事を学んだわ。部屋でいつもしている座学じゃなく、食物の有り難さを、どうやって野菜が作られるのかを、その大変さを、父様に分かる?」
「それは………」
アリシアの言葉に、バラッド子爵は口ごもる。確かに、野菜に限らず食物全般は民から得た税収で購入し、常に高級品の食物を食しているので、舌が肥えているだけで有り難さは分からない。
するとアリシアは言う。
「私は、もっと色々とソーヘイさんの所で勉強したい。農作業だけではなくて、私は世の中をもっと見てみたいの。だからお願い、私がソーヘイさんの所で働くのを認めて父様っ」
「アリシア………」
愛娘の言葉に、バラッド子爵は悩む。すると執事のセバスチャンはお辞儀して言う。
「旦那様、自分からもお願いします。お嬢様はこれまで決して真面目とはいえませんが、しっかり学務や座学、貴族における礼儀作法をこなしていました。社会勉強としてソーヘイ殿に預けておけばいかがかと………」
セバスチャンの言葉に、バラッド子爵は。
「そうか………私も確かに過保護になり過ぎたみたいだな、それに食物の有り難みを知らなすぎたようだ。うむ、娘やセバスチャンがそこまで言うのなら、預けても良いかも知れん」
「お父様、ありがとうっ」
アリシアは感謝する。
「ソーヘイと言ったか?娘を頼む………ただし、決して娘に手を出さないように、もし出したら万死に値する」
バラッド子爵は表情を険しくさせ、宗平に視線を向けて威圧感を漂わせる。




