第35話 昔を黄昏る宗平(そうへい)
「次は、北区にあるパン屋に卵を届けに行くぞ」
「はい」
宗平の言葉に、アリシアは返事。そして取引先のパン屋の情報が記された書類を眺め、様々なバザーが並ぶ表通りに馬車を歩ませる。
表通りには、甲冑を装備した男性、時にはビキニアーマーを装備した女性…………あとフード付きの黒いマントを着用した魔法使い。盗賊など、色々な人々が行き交う。
馬車を運転している宗平の助手席からアリシアは行き交う人々を珍しい様子で眺める。
「どうした?行き交う人々が珍しいのか?」
宗平は尋ねる。
「はい。私、あまり広い町に行った事がなくて、ほとんど両親と一緒で、1人で歩いた事なくて。つい…………」
アリシアは恥ずかしい様子で後ろ頭をポリポリと掻く。
「そうか…………村を出たら結構、社会勉強になるだろ?」
「はい……………」
少しアリシアは返事したら、スゥ~~と、気分を落ち込ませる。
「どうした。急に落ち込んで?」
アリシアはしんみりと、言う。
「その…………私って世間知らずなお嬢様だって。やっぱり、世の中は広いなって、色々な人がいて……………」
「そりゃな…………」
宗平は言った。同時に、前世で過ごした過去を思い浮かべる…………。
───世間は広いだけではない。その中で働いて生きていく為、恥をかいて、時にはかかされて、理不尽に怒られて、それが原因で仕事で失敗をしまくって、誰も助けてもらえない…………それで、耐えられなくなって、負けてしまう人達も大勢いて、無職になった者もいる。
(俺も、その中の1人なんだけどな…………)
宗平は、空を見上げて思い浮かべる。昔は色々あって無職になって、社会復帰として派遣社員になったが…………そしてこの(ドラゴン・フロンティア)の世界に異世界転移したら、うまくいっている。
「ソーヘイさん?」
「あ、悪い。少し考え事をしていた…………」
アリシアの言葉に、我に返る宗平。
───そして、数十分。北の表通りを馬車を歩ませいていたら、取引先のパン屋に到着し、店前に馬車を止める。
宗平は馬車から降りる。
「すいません、卵を届けに参りました」
パン屋から出てきたのは店主であるおじさん。エプロンを着用し、口元には茶色のヒゲを生やし、モジャモジャの髪。太い腕、太った身体、身長は170センチ。
「ご苦労様、何せ新しくパン屋を初めて、卵を取引してくれる業者がなかなか見つからなくてな、助かるよ…………」
パン屋のおじさんは微笑み、気さくに言った。
「どういたしまして、今後とも我が生卵をご贔屓にお願いします」
宗平は言った。




