聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした⑥
さすがのわたくしも、このまま放置するつもりはございません。月に二度の殿下とのお茶会の際に、「大事なお話がある」と切り出す事にいたしました。
「話とは?」
意外にも殿下はお茶会を中断したりせず、わたくしの話に耳を貸して下さいました。まったく聞く耳を持たない可能性もあると考えていたわたくしは、拍子抜けした気分だったのですけれど。とにかく聞いて下さるのなら、とそのまま話を続けます。
「殿下のお考えを窺っておきたいのです」
「考え?」
「ええ。聖女様と常に行動を共にする、その理由ですわ。わたくしは初め、彼女がこちらの生活に慣れるまでの補助なのだと思っておりました。けれどもそれももう不要なのではないかと思うのです。こちらへいらして三ヶ月、すでに聖女様は、ここでの生活に馴染んでおります。殿下と居ることでそれ以外の方との接触が減ってしまいますし、少し聖女様と距離を置かれては」
「ふん。浅ましいな」
「殿下……?」
浅ましい? 浅ましいとはなんのこと?
ロイド殿下が何を言っているのかわからず瞬くわたくしを、彼はにやにやと見ております。
「嫉妬とは見苦しいぞ。所詮お前も女だったというわけか」
「殿下、一体何を?」
この時ばかりは、本当に殿下の言っている言葉の意味がわかりませんでした。底意地の悪い笑みを浮かべたまま、彼は得心がいったとばかりに頷いています。
「とぼけるな。俺がミユキばかり構っているのが気に入らないのだろう? それでわざわざ忠告をするとはな。いつも澄ましてはいるが、可愛いところもあるじゃないか」
「はあ……?」
「ミユキは愛らしいからお前が気を揉むのも分かるがな」
「…………」
「これでは、お前の気持ちを無碍にもできんな」
……殿下は一体何を仰っているのでしょう?
嫉妬? わたくしが聖女様に?
そんなわけはありません。わたくしはただ、婚約者のいる身でありながら特定の女性と親しく振る舞う殿下を窘めたいだけ。殿下がそれでは聖女様もお困りでしょう。現に彼女は友人がほとんど居ないようなのです。殿下に言い寄られ良い気になっていると、そう噂が立っているせいです。
学園で親しい友人もおらず、断っているというのにロイド殿下は常に付き纏う。学業に影響は出ていないようですが、それも時間の問題のように思われます。
たった一人で見知らぬ世界に放り込まれ、そこで同性から煙たがられては気持ちも落ち着かないというもの。それを殿下は理解しているのでしょうか。
それを殿下にお分かり頂きたいと、そう訴えるつもりでしたのに。殿下は妙に納得した顔で頷くと席を立ってしまわれます。
「お前の気持ちは分かった。悪いようにはしない」
「あの、殿下」
「なんだ?」
「聖女様に自由を。わたくしはそう申したつもりですが、ご理解頂けましたでしょうか?」
「ああ、もちろん」
にんまりと笑う殿下はそのまま退室されました。
……殿下には、なにも伝わっていない。わたくしは確信しながらもなにも言えず、ぱたんと閉まる扉を見届けたのです。




