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第七話 初めての手当てとワンちゃん

 ここで生活するようになって三日経った。調理スキルさんのおかげで食生活はすばらしいものになっている。一人暮らしの時、いまもだけど、大体コンビニかスーパーで総菜を買って食ってた。作る時間も調理器具もなかったしね。


「うーん、肌の感じがよくなってる気がする。髪の毛のぼさぼさ具合も、なんか指がするっと入っていく感じ」


 朝から優雅に風呂を堪能して、髪を乾かしながら鏡を見ていた。乾かすのは洗濯スキルだ。洗浄スキルはきれいにするけど乾燥機能はないらしい。使い勝手が難しい。

 鏡に映る俺の顔からは目の下の隈が消え去っていた。眉間にあった皺もない。ついでに髭も生えてこない。


「自炊の効果か?」


 あのアパートでも自炊をしていればこうなっていたのかも。

 調理スキルさんがいてこそ、なんだろうけど。

 そんな万能に思える調理スキルさんに頼った自炊生活にも問題があった。

 当たり前の話、食材は全て購入するわけだが、良い肉を食べたいと思ってもお高くて手を出しにくい。がっつりいい肉だと2000ペーネ以上使ってしまう。

 お給金の一割だ。おいそれと贅沢はできないのだ。


「何かしらで副業的な稼ぎを作らないと快適な生活が送れないんだよなー」


 認めたくはないが、ここは地球ではないようだ。認めたくはないが。

 太陽がふたつ存在する。ジャパニーズ龍がクライアントだ。生活は家事スキルという摩訶不思議なものに頼っている。倉庫には見たことも聞いたこともない巨大な動物の皮があった。他にも色々。

 そんなところで副業を探せるか。


「敷地は余裕があるんだから、何か栽培するか。食材の補強ができれば少しは余裕ができるかも」


 倉庫の棚には何かの種と苗があった。どうして倉庫にある苗が元気なのかとか考えない。ここは地球ではないと割り切ればいいだけだ。

 農作業用の鋤とか鍬、スコップが倉庫にあるのは判明してる。俺の行動を先読みしているかのように欲しいものがそろっているのは怖いのだが。

 だがここで生活することが仕事なのだ。クライアントが気を回して揃えてくれていた、と思うようにしよう。


「つーことで、今日のお仕事は畑仕事だ」


 ひとりだからこそ、わざわざ声を出す。物音ひとつしない家の中はちょっと怖いんだよ。物音がしてもそれはそれでイヤだけど。

 倉庫からスコップと種と苗をいくつか持ちだして外に出る。

 俺が来たときは荒地だったここも、数日で雑草が満員電車状態だ。山裾から広がる見渡す限りの荒地はそのままだけど。

 いまは草原な山頂は、おおよそ小学校の校庭くらいの広さだ。そこに日本家屋と25メートルプール級の池がある。木はない。土地は余ってるんだ。

 山下に降りられそうな道はあるんだけどまだそこまで冒険する勇気はない。巨大な動物が存在する場所を闊歩できないって。

 そんな草原に、白と黒の模様の何かが転がっていた。毛が生えてるのはわかった。動物か?


「なんだあれ。昨日はなかったんだけど」


 迂闊に近づくのはヤバい気がするので玄関から眺めてる。じっと眺めてるけど動く気配はなさそう。


「死んでてもイヤだなぁ」


 処理は当然俺なわけだ。そういや調理の時に出るごみはどこに消えてるんだろう。トイレもどこに繋がってるんだか。


「……考えてても変わりはしなさそうだ。やばそうならダッシュで家に逃げよう」


 逃げてもヤバい状況が解決する保証はないけど逃げ場所はここしかない。任意範囲に結界を張るとかいう戸締スキルとかよくわからないものもあるのだし、何とかなるでしょ。

 家全体を想像して戸締と念じておく。一応ね。

 一歩、一歩と白黒の物体に足を運ぶ。ふと風がそよいで、血の匂いを連れてきた。


「うげ、やっぱりそうなの?」


 かなりゲンナリ。


「つかなんでこんなところに?」


 ここ、山頂よ。

 でも油断はできないね。死んだふりとかありえるし。

 俺ってばひ弱な設計屋だもの。襲われたら一撃で死ぬ自信はあるよ。

 忍び足で近づくと、牛柄の四つ足な生き物だとわかった。ぐったり横たわってるけど、かすかに体が動いている。呼吸はしているみたいだ。ただ周囲の草は血で赤く染まってる。

 大怪我なのかもしれない。


――犬のようですね


 おっと調理スキルさん、職務外でも会話が可能なのですか?

 しかし犬か。大きさも柴犬くらいで垂れ耳種だ。

 犬は、子供の頃に飼っていた。大きな雑種で、わりとのんびりした性格をしてて、もふもふすると喜んでたな。

 目の前で死なれるのは辛い。


――手当を試してみては如何でしょう


 うーん、スキルを使うように促されてる感が強いけど調理スキルさんの勧めだしなー。

 犬の正面に回った。犬は力無い目で俺を見てくる。迷ってたらこの犬が死んでしまいそうだ。


「……わふ」


 犬が小さくないた。

 なんとなくだけど、この犬の頭に手を添えた。どうも腹に深い傷があるらしい。内臓にも達してる重傷だ。なんでかわかった。

 手当イタイノイタイノトンデケーと念じると、犬が緑の光に包まれた。

 不思議なもんで、俺に驚きはなかった。こうなるんだろーなーって思ってた光景だったからだ。なぜだかわからない。

 緑の光が収まると、お座りしている犬がいた。片目と、体のそこらが黒い牛柄の犬だ。垂れ耳なのでとても愛嬌がある顔だ。血まみれなんだけども。

 牛柄の犬は舌を出してわふわふいってる。


「わふう!」


 大きく吠えたと思ったら池に突撃していった。池に頭を突っ込んでがふがふ水を飲んでる。犬って舌を使って飲むのではなかったか。満足したのか、今度は池に飛び込んだ。ばっしゃばっしゃ泳いでる。

 そこ、水神様の神社があるんだけどな。


「顔に似合わずワイルドだ。まぁ犬だし」


 元気になったようでよかった。めでたしめでたしで家に戻ろうとしたら、犬がすっ飛んできた。水面からダイレクトに俺の目の前に飛んできた。20メートルくらい飛んだろコイツ。

 俺の目の前にお座りして何かを待ってる。水に濡れてしっとりした牛みたいだ。

 傷が治ったら腹でも減ったのか。俺が襲われたりして。


「わっふう」


 犬が首を横に振った。え、違うって?

 つか、俺なにも話してないんだが。


――助けてくれたので懐いてしまいましたね


 どどどうしよう。謎すぎる犬は怖いんだけど。

 わふわふいいながら犬が俺をじっと見つめてくる。


――ふふ、おとなしそうな雑種ですね


 お座りしてるから、おとなしいのは間違いないのだけど。


「ご飯が欲しいの?」

「わっふう」


 犬はまた首を横に張る。違うと。水はたらふく飲んでたよな。

 犬はわふわふと前足で自分を指している。器用だなお前。

 飼えってことなのかな。

 ペットがいる生活は充実すると聞いたことがある。クソな会社だったが同僚がそういってた。そいつも俺同様にデスマーチの犠牲になってたけど。ペットに癒しを求めてたのかもしれない。

 飼うのもありかな。生活にもメリハリが出そうだし。


「とすると、名前を考えないと……ってそれ待ち??」

「わふう!」


 犬が大きく吠えた。マジかー。

 うーん、太郎とかつけてもなー。そもそも性別がわからんし。


――女の子のようですよ


 マジっすか、調理スキルさんわかるんですか。

 万能すぎませんか。助かってるけど。


「牛柄の女の子ねぇ……ぶち柄……ぶちことか?ってうぉっ!」


 俺がつぶやいた瞬間、犬がめっさ光った。光が消えた後、俺の視界にはお座りしている犬お腹が見えた。見上げるとそこには俺が助けた犬の顔が。


「でっか!ってなんでデカいの!??」

「わっふぅぅぅぅ!!」


 犬、もといぶちこに圧し掛かられた。

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― 新着の感想 ―
ペット名付けは、なんでこうも下だらなくてベタなのがテンプレになってるのかなぁ?。スマートでイケテルのとは言わないけど変に穿った名前などダサイだけ! 
[一言] 懐かれた!? 最近、人間臭い犬猫多いですしね。
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