第六話 初めてのお供えとカルボナーラ
調理スキルさんの神棚を抱えてそそくさとリビングに戻り、キッチンの端の方に神棚をそっと置く。洗い場から顔を向ければそこには神棚が。端正なたたずまいの一戸建て。というかワンルームだけど。
一枚板だから側面も木目が見えて、高級感が漂ってるんだよ。スバラシイ、匠のできあがりだ。
「イイネイイネ!」
自画自賛タイムだ。いいいじゃん、別に。
「昼には何を食おうか」
俺がコンビニゾーンと名付けた食材保管のガラス扉には、基本的に加工前提の食材が多い。牛乳、チーズとか野菜はそのままでもいけるけど。小麦があってもパンはないし麵もない。豚肉はあるけどハムも叉焼もない。大き目な魚も丸々一尾があるけど捌かれてないんだ。まぁ刺身なら切ればワンチャン。お菓子もなくて、クッキーもポテチもみーんな作らないといけないようだ。
ぜーんぶ調理スキルさんにおんぶにだっこなのだよ。それでの神棚さ。
「時間はたっぷりあるから、ちょっと手をかけてみよう。我はパスタを錬成する!」
実際には錬成するわけじゃないけど、でも調理スキルさんのは錬金術に近い気がするんだ。たぶん違うけど。
さてガラス扉から小麦粉を取り出して、キッチンカウンターで水と塩と混ぜる。混ぜて捏ねてしてたらいい感じな硬さになった。俺の感覚ではなく調理スキルさんの感覚だろうけど。
「市販品みたいに細長いのは無理だから平べったくしてしまえ」
生地を細長くして掌底で叩いていけば3センチくらいの幅の麵ができた。ちょっと作りすぎたか。まあいいや。
「さてソースだ。ベーコンは……ないから肉でいいな。豚肉さんかもーん」
料理名を頭に浮かべれば必要な食材がわかる。
牛乳、卵、バター、オリーブオイル。粉チーズはなかったから塊のチーズを削った。調理スキルさんがね。
木のボウルに卵を割り入れて、フォークで溶きほぐす。粉チーズをごそっといれて、ぐるぐる混ぜる。カスタードクリームみたいでおいしそうだ。
――先に麵をゆでましょう
イエスマム。大きめの鍋を探して水を入れる。着火と念じれば鍋がキューンと音を立てて加熱が始まった。
お次はフライパンに油をひいて細かく切った(調理スキルさんが)豚肉に火を通す。ちょっとこんがりするくらいまで炒めるのがいいらしい。
炒めたらそこにバターを入れて溶かす。そしてパスタのゆで汁と牛乳を追加だ。ベーコンではないので塩をちょっと追加でふりふり。
「おおお、なんかいい感じなスープになったぞ!」
――そろそろ麵もゆであがりますよ
おっともうですか。
トングはないのでフォーク2本で麺を拾う。湯気があちい。熱い鍋に手が触れないようにするのは結構難しい。
麺はスープを作ったフライパンへGOー。全部入れたら、溶いた卵を加えて、フォークでかきまぜる。手早く一気に焦らず急げ。
スープと絡まったら出来上がりだ。
スープでくるまれた平麺は黄色がつややかで、こってり感が満漢全席で食欲をそそられる。思わず喉もなるよ。
「俺式カルボナーラの完成ぃぃぃ!!」
シャキーンと脳内に効果音が響く。
――美味しそうですね
おかげさまでおいしそうに出来上がりました。小皿を用意して、少し取り分ける。あまり皿が大きいと神棚に入らないんだよ。
フォークでそーっと分けてと。
「あ、黒コショウ!」
カウンター上の棚を探す。あったあった。さすが水神様。抜かりはない。
ぱらぱらっと黒コショウをかけると、刺激的な香りが腹を殴ってくる。
「ぐぅ、我慢も限界だ」
神棚にそっと小皿を入れる。もちろん手を合わせて感謝を伝えるのは忘れない。
調理スキルさんありがとう。
――あら、よろしいのですか?
えぇ、よろしいのです。俺が作ったわけではないのですがお召し上がりくださいませ。
――ふふ、ありがとうございます
おお、なんだか楽しげな声色だ。
よし俺も食うぞ!
テーブルにフライパンを運ぶ。
皿?
男は黙ってフライパンから直接食うんだよ。キャンプとかでもやるだろ?
俺はキャンプとかしたことないけどさ。
「手を合わせたら頂きます!」
フォークで平麺をぶっさし、口に運んでずずずっとすする。超マナー違反でギルティ待ったなしだけど俺しかいないんだし、いーじゃん。
「んーー、卵とスープのこってり感がたまらない! フォークが止まらないぜ」
口の周りは盛大に汚れてるけどティッシュなんてここにはない。食い終わってから清掃スキルできれいにすればいいさ。
平麺もなかなか腰があってもっちり具合が濃いめのスープによく合う!
「ウメエ!」
ひたすら食った。少し残ったスープはスプーンで綺麗に食った。
「満腹だー」
ひとしきり叫んだら片付けだ。フライパンを流しに運ぶ。
「あ、神棚のカルボナーラがなくなってる」
皿はあるから、調理スキルさんが食べたんだろうか。
そう理解しておこう。お供えを食べてもらえるのは、嬉しいしね。