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第五話 初めての工作

 寒気を覚え目が覚めた。体が痛い。特に腰。


「んあ、床で寝ちゃったか」


 起きたここは、リビングだった。親子丼を食った後ゴロゴロしたくて床に転がってたら寝てたらしい。ちなみに屋内は土禁である。これは絶対だ。

 壁掛けの時計を見たら、8時ちょいすぎだった。


「夜にしちゃ明るいから、まさかの朝!?」


 玄関のガラスの向こうか明るい。ペタペタと三和土を歩いてがらっと戸をあける。


「うぉ、眩し」


 目を細めて外を見ると目に優しい緑が飛び込んできた


「青々とした草原になってる。俺が来たときは荒地だったよな……」


 足の甲が埋まるくらいの草が生い茂っている。なんならタンポポの黄色い花も見えた。

 間違いなく、タンポポなんか咲いてなかった。


「……気にしたらダメだ」


 平常心は保つべき。


「雲ひとつないいい天気……だな」


 太陽がふたつ見えた以外は、申し分のない天気だった。

 連星という言葉を聞いたことがある。大小ふたつの恒星が近い距離でお互いの引力にひかれダンスを踊るようにくるくる回っている星たちだ。

 大きな方が青、小さい方が橙色に見える。青空に負けないほどの蒼がサンサンと輝いていた。


「見なかったことにしておこう。俺は外を見なかった。イイネ?」


 うんうんと頷いてガラス戸をそっと閉めた。


「朝飯は……そういやおやつに作ったおにぎりがあるな。それでいいや」


 ペタペタとキッチンに向かう。足は後で洗おう。今は平常心を保つことが優先だ。

 電子レンジはないようなのでそのまま食べる。


「冷えてても、むぐ、うまいな、むぐもぐ」


 水は蛇口をひねれば出てくる。


「水も冷えててうまい」


 体中に染みこんでいくうまさだ。指先までじわじわっと届いていく感触がある。頭もシャキリしてきた。さっきは寝ぼけてたんだ、きっと。


「太陽はひとつだけ。それが常識だし現実。イイネ、俺」


 んーーっと腕を伸ばして腰も伸ばす。先ほどの腰の痛みも消え去った。


――今朝は調理されないのですか?


 おっと調理スキルさんから物言いがついた。


「ちょっと手抜きに走ったのとおにぎりがもったいないのであって決して調理スキルさんをないがしろにしたわけではアリマセンお昼はお世話になりますよろしくお願いいたします」


 天井に向かって言い訳めいた呪文を唱えた。

 水源管理のお仕事も大変だ。


「さて。お昼まで何しようかな」


 寝室と風呂は見たから、確認してないのは縁側と倉庫か。


「じゃあそっちに行こう」


 縁側は玄関から見て左の襖だ。よく見れは襖が龍の絵になってる。細かいなぁ。

襖を空っと開ければ、そこは南国だった。

 左手は大きなガラスがはめ込まれた戸で、一番奥の戸袋に格納できるようだ。つやつやの板張りが差し込む日差しでテカテカしてる。縁側は10メートルくらい続いてて、一番奥には鉄の扉が見えた。避難階段とかで見るごっつい鉄扉というやつだ。


「縁側なのにあからさまに和風をぶち壊してくるあたり、やべーものを隠してる感じがして引き返したい」


 だが、ここで生活するならば家の中は全て確認しておく必要がある。やべーものを仕込まれていても困るってのが理由だが、まさにここがそのやべー物がありそうなところだ。見るしかないだろ。

 よく滑る廊下をしゅーっとスケートみたいに優雅に歩いていく。一回転んだのはノーカウントだ。

 鉄扉にはドアノブがあるが鍵穴はない。つまりノーセキュリティー。


「そいうや家事スキルに戸締とかよくわからんものがあったけど、コーユーところで使うのかも」


 なんて考えながら鉄扉を開けた。


「……広すぎんだろぉぉぉぉ!!!」


 中は、鉄骨が丸見えの、いわゆる倉庫だった。ただ、パッと見た感じ奥の壁が100メートルは先にある。扉の脇は、それぞれ20メートルくらいか。長手が100メートル、短手が40メートルくらいの長方形の倉庫だ。高さは10メートルはあるだろうか。かなりの容積だ。

 俺くらいのブラック設計屋さんは見たもののスケール感がおおよそわかるのだよ。これが俺の特技でもあるんだけど。

 部品とかの現物を見ると頭に三面図が浮かんで、それをもとにCADに落とし込んでいく、ちょっと独特なやり方をしていた。

 そんな巨大な倉庫には、いろいろなものが雑多に置かれていた。ざっと視界に入ったものはというと。


「木材はわかる。金属類も転がってるな。動物の毛皮もある。象牙、じゃないけど牙だが角だかも見えるな。でもよくわからんものも多い」


 毛皮はリビングに敷いてもいいんじゃないかな。象よりもでかい虎みたいな縞々模様の獣なんて知らないけどさ。

 鉄扉の脇には木製棚もあって、液体の入ったガラス瓶がたくさん並んでいた。


「んー、色とりどりできれいだねー。何の液体なのかさっぱりだけど」


 触らぬ神に祟りなしである。


「ん、工具類もある。トンカチノコギリ。釘があると良いなぁ、ちょっと作りたいものがあるんだよね」


 木材のあたりに歩いていく。板材から角材、丸材もある。節もなくて木目もきれいだ。

 ちなみに床は三和土のようで、足の裏が冷たい。


「お、ちょうどサブロクバンくらいの板がある。ラッキー」


 厚みも1センチくらいで、こちらもちょうどいい。合板ではなく一枚板なあたり、かなり高価なんじゃなかな。ありがたく使わせてもらおう。

 床に置いてあるノコギリを拾う。柄が木製で、刃が青みがかった金属だ。


「青銅は、文字ほど青くはないんだよね。部品でよく見かけるけど。緑青だったら嫌なんだけどこすっても落ちないから違うな」


 なんだろ?と首をかしげたくなるけど、スルーしておこう。刃がつぶれてないし、切れ味が良ければ材質はなんだっていいんだ。近くに木箱があって釘類もあった。残念ながらビスはなかった。

 プラスドライバ―もないな。まぁネジがないからいっか。

 さて工作の時間だ。


「屋根の幅は30センチくらいにしたいから……」


 脳内で必要な部品を描きだす。よし、余裕で足りる。ブラック設計屋さんを舐めてもらっては困る。

 その辺の角材で段差を作って板を載せる。細い角材を定規代わりにしてノコギリを当てる。


「よく切れるノコギリでありますようにってにゃぁぁぁあ!!」


 一回引いただけで30センチくらい板が切れた。危うく俺の指まで切りそうだった。


「木材がバターみたいに切れたぞこのノコギリ……」


 エクスカリバー(聖剣)かよ。


「よし、お前は今日から聖ノコギリ(エクスカリバー)(木材限定)だ」


 切れすぎる切れ味も慣れてしまえばベリー使いやすい工具だ。俺自身を切らないようにジャンジャン切っていくぞ。


「屋根と壁と……っし、切り終わった!」


 切り出した板が6枚できた。板を突き合わせてもがガタツキなし。スバラシイ。

 あとは釘でくっつければ出来上がりだ。

 ペンチは見当たらないから指で釘を持たなきゃならんので俺の指を打たないようにご安全に。

 コンコントントンコンコンと板を釘で組み合わせていく。


「よっしできた!」


 大きさが30センチ角の切妻屋根の社。扉はないけど正面の壁はなくしてある。

 出来上がったブツを両手で持って天に掲げる。


「カンセィッ!!! 調理スキルさんの竈神棚ぁぁぁぁ!」


 これからめっちゃお世話になるのが調理スキルさんだし。マジリスペクトだし。本物の神棚は作れないから似たような感じでさ。せっかくだから作った料理の一部をお供えしてみようかなって。

 調理スキルさんは作るだけで食べられないし。それじゃつまらないしやりがいもないじゃん。なんか調理スキルさんには自我がありそうな感じだったし。

 ぐー。

 お腹もなった。どうやら集中してて時間を忘れていたらしい。


「じゃーお昼ご飯を作りますか」

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖ノコギリって… 私は、仕事用のおろしたてのカッターを「聖カッター(エクスカリバー)」と呼んでいました。 奇遇ですな!
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