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第四十二話 ひとりでお出かけ

「オババさんすみません、ちょっと相談に乗ってください」


 賄賂用に俺渾身のイチゴ大福を持ってきた。調理スキルさんをもってしても作るのが大変だった逸品だ。白玉粉を作るのが大変だったんだ。すごい面倒なんだなアレって。


「なんだい急に」


 オババさんの顔が曇る。面倒事だと思われてるな。正解です。


「実は、家の三和土に、たぶんですけど、デリアズビービュールズに繋がる扉ができちゃったんです!」


 オババさんは長い耳を手で折り畳み「アタシャ何も聞いてないよ!」と叫んだ。


「そんなこといわないで助けてくださいよー。イチゴ大福も持ってきましたのでー」

「アタシは薬草さえ貰えれこれ以上は望まないよ! おっとその白い不思議なお菓子は別さ」


 オババさんはテーブルの上のイチゴ大福をひょいとつまんで食べてしまった。


「聞こえてるじゃないですか!」

「良いじゃないか減るもんでもなし」

「いや減ってるし」


 という押し問答とイチゴ大福というキラー賄賂のおかげでなんとかテーブルについてもらえた。


「そうかい、学ぼうって姿勢はたいしたもんだよ」

「やっとここがどこなのかってことはわかりました」


 わかっただけでどうしようとかはないんだけど。あそこで暮らせっていわれてるからね。


「本当につながってるのかい? どこにつながっているとか確かめたのかい?」

「怖くてできないですよ。開けたら向こうに強盗とかいたらその場で殺されちゃうじゃないですか」

「リーリはどうしたんだい?」

「あの山の周囲の探索に行ったベッキーさんとぶちこを探しに出ちゃいました」

「まったくあの子は何をしてるんだか」


 オババさんは天を仰ぎながら額に手を当てた。


「一瞬だけ開いて向こうの様子を見るとかないのかね」

「あ、それもそうですね……」


 戸締りしてこっちに入ってこれないようにしておけば、覗き見もできそうだな。


「こんなことで相談しないでほしいもんだね。あ、このイチゴ大福とやらはもうないのかい?」


 ぐう正論だ。でもイチゴ大福を残しておかないとリーリさんとベッキーさんが帰ってきたときに修羅場になるのが目に見えてるからね。


「ありがとうございました。試してみます」


 急ぎ家に戻った。

 デリアズビービュールズへの扉は、オババに家につながる扉のすぐ横にある。扉の上に俺では読めない文字でそう書いてあるってリーリさんには確認してもらっているので間違いない。

 扉は両開き鉄扉なので、右側の扉にそっと手を当てる。ついでに耳も当ててみる。


「ですから、先ほどこの扉が現れたのです」

「確かにこんなところに扉はなかったが、この裏は物置だぞ。落書きではないのか?」

「扉裏にあたる倉庫には扉はありませんでした」

「鍵がかかっていて開けられないなどと。誰のいたずらなんだこれは。まったく、教皇様が留守の時に限って!」


 おっと、もめてる。ここで俺が開けるとかなりまずいな。

 それに教皇様というと、宗教の偉い人のことだ。ってことは教会につながった?

 教会なら水の教会だろうけさ。


「困ったときのオババさま」


 ということでまたもオババさんのところに来たわけなんだけど。


「若いころはデリアズビービュールズにいたことがあるし、各教会に知り合いくらいはいたけどねぇ、アタシがいたのはもう150年は前なんだ。あらかたのやつらは墓の下さ」


 残念。知り合いとがいればなーって考えたけど、甘かったか。


「教会といえば、アジレラにも水の教会があるだろうに。あっちに聞いてみな」


 オババにシッシと手を振られてしまった。でも教えてくれるのはありがたい。


「オババさんありがとう、教会に行ってくる」

「ちょっとお待ち。付き添いなしで行くつもりかい? アタシがついていきたいけど今からポーションの納品でねぇ」


 納品は優先だ。お仕事大事。


「教会には何回か行ったこともあるし、気を付けていきます。それに変化の指輪があればなんとかなりますって」


 社会人なんだからこれくらいはひとりで何とかしないとさ。

 さて、教会に相談に行くならお土産を。何がいいかな。お昼は過ぎたし……あ、フレンチトーストならおやつ感覚で食べられるな。

 ……食べられなかった食いしん坊さんたちの非難を浴びそうだけどいないのは仕方がない!

 でも、丸パンは常備してるからたくさんあるんだけど食パンは作ってないんだよな。丸パンを薄切りにしていっぱい作るか。


「と決まれば牛乳と卵とバターだ」

 俺の背負い式鞄にひょいひょいと入れてく。卵は教会の孤児に渡す服をクッションにする。孤児たちは育ちざかりなのか服が着れなくなった子が出てきた。

 ちょうどいいサイズで作ったからなぁ。栄養がよくなって身体が大きくなったのかも。嬉しいことではある。

「途中で布を追加していくかなー」


 裁縫って結構楽しいんだよ。工作って感じでさ、イメージ通りにできると最高なんだ。


「変化の指輪といつものローブを着てと。念のため水神様の鱗も持っていくか」


 頭の上の耳を触って実在確認も忘れない。準備万端!

 オババの家を出て大通りを西に向かう。途中でエルフの布屋さんで下着に使えそうな柔らかめの布を買って背負い鞄にぶち込む。


「買ってくれて助かったよ。ここ数日で魔物の皮とか珍しい素材が増えてね、布が売れなくって困ってたところさ。ちょっとはおまけするから今後もごひいきに頼むよ」

「へぇ、商売あがったりですねぇ」

「安いけど効き目が変わらないポーションがいきなり増えたらしくって、ハンターたちが怪我を恐れずに大森林で狩りをし始めたからだって聞いたんだよ。代わりに珍しい素材が入ってきて、そっちで作った布が売れるんだ」


 ポーションかー。オババさんに売った薬草だとそんな大量にはできないから、まぁ俺には関係ない話だな。

 布屋さんとしては、プラマイはちょいプラスらしい。安くしてくれるなら売れ残り在庫の布を全部買ってしまおうか。

 布屋を出て屋台が沢山あるあたりを通ると、かなりの人出だと気がついた。祭りでもあるのかと思たけど違うっぽい。見た感じ武器を持っている人が多いからハンターなんだろう。ガタイもいいし声も大きくて怖いので隅っこをおとなしく通る。ちびなのが幸いで、するするっと縫うように先を急ぐ。


「先日よりも活気はあるな。ハンターが大森林でって話につながるのかな。まぁ俺には関係ないか」


 屋台ゾーンから離れれば人通りもぐっと減る。建物も減って、アジレラを囲う高い壁が見えてくる。

 西のはずれに来ればもう乾いたと土しかない。はずだった。


「んー、だいぶ雑草の領土が増えたな」


 青い屋根の教会が見えてると、荒地が終わり草原に切り替わる。もうくるぶしが埋まるくらいまで草が伸びて道も草に食われてた

 ちょうど草の始まりから教会の敷地になってるんだけど不要な土地だからか教会の敷地はデカい。ざっと1ヘクタール以上はある。小さな工場並みな敷地だ。

 教会裏の井戸から行列ができてる。

 常にあふれてる井戸の水を希望者に配っているらしい。配ってるというか勝手に持っていけというか。

 そのまま飲めるほどの水はすごい貴重だから、わずかな量でも汲みに来る人が絶えない。

 行列からちょっと離れた場所に、ハンターらしき若いふたりの女性が立っていた。

 革製の胸部装甲しかなくてへそ出しの露出度の高い恰好の女性と、俺と同じくローブで長い杖を持ってる女性だ。片方は魔法使いっぽいけど、もうひとりはよくわからないな。

 ふたりとも薄めな金髪にポニーテールで、頭の上に三角耳がある。ふさふさ尻尾があるから何かの獣人さんだ。なんとなく狐っぽい。

 こっちを見ている気がする。まぁ、教会に近づいてるのは俺しかいないしね。

 裏に用事はないので扉へ向かう。


「ちょっとオジサン、ちっさいハーフドワーフと、お嬢様エルフを見かけたことはあるじゃん?」


 魔法使いから声をかけられた。

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