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幕間一 悩む神様

幕間は主人公以外の動きで、三人称で進みます。


今回は水神様です。

 水神は悩んでいた。

 水を司る神として、命を紡ぐためには欠かせない水を(あまね)く行き渡らなければならなかった。

 だが。


「土神め、なぜ土地をすべてつなげてでっかい大陸にしてしまったんじゃ。内陸部は雨も降らず乾燥して砂漠になってしまっておるではないか」


 神はそれぞれ司るものが異なっていた。神はそれぞれが対等であり、それぞれが勝手にその神力を行使していた。


「雨で世界を閉ざしてくれようか。いやそれだと生物が死んでしまうな……それはダメじゃ」


 生物は神の庇護のもと、その生命を全うすべく創られたものだった。神がその命の(ともしび)を消すことはしてはならぬ禁忌として認識されていた。


「そうじゃ。我が眷属として使徒を遣わせよう。眷属に各地を旅させ、雨の力を行使させれば、いい具合に雨が行き渡るじゃろ」


 水神は自信満々で眷属を世界に遣わせた。

 それは、若い女性の姿だった。手弱女(たおやめ)ならば大切に扱われるじゃろ、と考えてのことだった。

 最初の数年は、順調だった。

 彼女は、ゆっくりとではあるが各地を巡幸し、雨乞いの儀式を行っては水の幸をもたらしていた。

 風神が、気まぐれに雨雲を吹き飛ばしてしまうことはあっても、呼び寄せた雨雲はどこかに雨をもたらした。

 火神が癇癪で火をつけた森を鎮火させたこともあった。

 世界に水が行き渡っていった。

 しかし、綻びは早かった。

 彼女の雨を呼び寄せる力を独占しようと、権力者が彼女を捕らえた。権力者は自らの土地のみに雨を降らせた。

 彼女は歯向かったが、殺された。雨が再び降ることはなかった。


「すまなかった、我の浅慮じゃった」


 水神は彼女の魂を呼び寄せ、精霊としての依り代を与え、側仕えとした。


「ひとりでは狙われてしまうな」


 水神は、今度は10人の眷属を世界へ遣わせた。彼ら彼女らは、水神の意向通り各地を巡幸したが雨乞いの儀式は行わなかった。目立てば二の舞は確実だった。

 移動してはこっそり雨を降らせ次の土地へ。月は流れ、10人は寿命を全うした。土地は、なんとか緑を保った。

 水神は自らの作戦がうまくいっていることに満足していた。

 また10人の眷属を世界へ送り出した。

 だが、悪意の腕は長かった。

 雨が降った土地をつなげていくと、10個の順路が出来上がった。次の土地も予想がついた。

 悪意は彼ら彼女らを捕捉し拘束していった。捕らえられた眷属は悪意の意向を無視したが、悪意は意思をくじく薬を投じた。それをも耐えたものは自ら命を絶った。

 意思をなくした彼ら彼女らは、雨を降らせた。水神は悪意に憤慨したが、その悪意の命は奪わなかった。禁忌だった。

 水神は考えた。

「巡幸はやめ、水の聖地を作り出し、そこから水をもたらすようにするのじゃ。それがいいのじゃ」

 水神は大陸の中心に山を創った。土神に文句をいわれたが尻尾でビンタして追い返した。そもそもはこいつが悪いのじゃ、と水神は独りごちた。

 その山頂に水の水晶を配し、地下に水を流した。

 雨は降らないが土の下に水を蓄えた土地は、生き返った。緑が拡散し、生命の息吹は勢いを増した。

 だが、悪意の影はまた忍び寄っていた。

 不心得者は聖なる山に忍び寄り、その頂で水の水晶を簒奪した。

 水神は乱用を恐れ、水晶を破壊した。


「困ったものじゃな」


 打つ手はことごとく悪意で穢された。

 土地は痩せ、荒れていった。

 世界は理不尽で不平等に満ちていた。心優しいものはいるが、悪意は蔓延る一方だった。


「悪意に満ちたこの世界の住人では、ダメなんじゃろうか」


 水神は悩んだ挙句、知り合いの異界の神に相談した。


「ジゾウ殿。そちらの世界で、適任者はおらぬか?」

『自ら好んでひきこもる者たちならおりますが……』

「ほうほう、では立ち入ることができないようにすれば、水の水晶の管理も可能かのう」

『こちらの世界は平和ゆえに文化が多うございますれば、飽きさせないような仕掛けが必要かと』


 水神は考えた。初めに世界へ遣わせたものが側仕えにいる。異なる理の神に協力を仰ぎ環境は整え、側仕えの彼女を導き役としてその者に遣わせてはどうだろうか。

 いいじゃんいいじゃん、と水神は自らの案を絶賛した。


「うむ、それではジゾウ殿、適任者の選別をお願いするのじゃ」

『……うまくいくとよいのですが』


 水神は山を守るべく結界を巡らせた。健やかに過ごせるように異界お神にお願いし、住まいを用意した。生活に困らないように、家事の技術を刷り込ませることにした。側仕えの彼女の声が聞こえるようにもした。


「最初のコンタクトは偶然を装って、水源の管理として報酬を与えておけば、いけるじゃろ」

『送ってしまうとこちらの加護は失われてしまいます。どうか彼をお願いします』


 そしてひとりの男が聖なる山へと送られた。彼の到着とともに、水神は水の水晶の力を解放した。


「ま、なんとかなるじゃろ」


 水神はふぅと大きく息を吐いた。

 だが、送った側仕えが『調理スキルさん』と呼ばれるようになるとは、水神でも予想できなかった。

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