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第三十話 ポーション試作

「その薬草を買うのは、ちょっと難しいかもしれないねぇ」


 オババの言葉が俺の頭に響く。

 え、それやばいじゃん。ぶちこの食事代が。


「えっと、それは薬草の品質の問題とかで?」

「品質は問題ないどころか見たこともない鮮度と品質ってのはわかるのさ」

「では別の問題が?」

「……この薬草でポーションを作れば、そりゃぁ極上のポーションが作れて高く売れるだろうね」

「良いことのように思えるんですけど、違うと」

「アタシがその品質のポーションを市場で見かけたら、まずその出所を探すさね。どこの誰が作ったのか。原料の薬草はどうなのか」

「……確かに」


 凄すぎるフィギュアを複製するためのCADデータとか見たら「神だ、だれが作ったんだ」って俺も思うしな。出所を探す気持ちは理解できる。


「アタシが現役だったら襲われても返り討ちなんだけどねえ」


 オババさんは左足をさすった。何かしらのアクシデントで怪我をして、それでハンターやめたのか。


「んー、だめかぁー」


 仕方ないけどがっくりだ。


「ぶちこの食費、どうやって稼ごう……」


 思わず天を仰いじゃうよ。


「まったく、若いもんはこれだから……アタシはダメなんていっちゃいないよ。ただ【難しい】とはいったけども」

「どうにかできるんですか?」

「まぁ、手法に思い当たるものはあるけど、なんにせよ一度ポーションを作ってみて、その品質を確認してからだね」

「それなら、ひとつ差し上げるのでそれで作ってもらえませんか?」

「……かわいい姪っ子の命の恩人からタダでもらうわけにはいかないねぇ。できたポーションに応じた金額で買わせてもらうさ」

「ありがとうございます!」


 ヨシ、首の皮一枚でつながったぞ。


「さて今から作るよ、アタシは奥の作業部屋にこもっちまうからね」

「では、わたしはダイゴさんと宿を探しに行ってきますわ」


 あ、そうか、俺が泊まるところも決まってないし、あ、金もないんだったな。

 なんか俺、役立たずって感じで、何とかしないとやばいなこれ。


「リーリはそいつと泊まる気かい?」

「わたしとベッキーも宿がありませんもの」

「……うちには部屋があまってる。今日のところはうちに泊まりな。あぁ、お前さんもだよ」

「ふふ、ありがとうございます」


 リーリさんが柔らかく微笑んだ。わかってて誘導したっぽいな。コワイコワイ。


「じゃあ泊めてもらう代わりに俺が食事を作りますよ」


 ただほど怖いものはない。俺が払えるのは労働くらいだ。調理スキルさん任せだけどさ。


「ダイゴさんのお料理は絶品ばかりですわ」

「ほーう、そりゃ楽しみだねぇ」


 値踏みするように俺を見たオババさんは奥の部屋に消えていった。まぁ会ったばかりの人間を信用はしないよね。


「ふぅ、疲れた」


 テーブルに突っ伏した。背が高いだけでも圧迫感がすごい上に疑われてるから、俺のライフはもうゼロよ……


「お疲れ様ですわ。オババも悪気はないのですが、元1級ハンターとしていろいろあったので、あぁなのですわ」

「リーリさんが大切なんだってのはひしひしと感じたよ」

「まぁ、唯一の肉親ですから」


 リーリさんは寂しげな笑みを浮かべた。踏み込んじゃいけない感じだ。


「それと、ぶちこちゃんどうしましょう。中には入れませんし」

「表にいさせるしかないかな……あとで話をしないと。それより、食材の確認をしたいんだけど」

「そうですわね、この家にもあるとは思うのですが」

「まぁ、帰りの食料は考えるとして、持ってきた食材も使わないとさ」


 納得してくれたのか、リーリさんが魔法鞄を渡してきた。


「米も肉もは十分ある。野菜は、使い切りたいな。小麦粉も持ってくればよかったなー。そうしたらパンが焼けたのに」


 行って帰ってくらいしか考えてなかったよ。


「わたしの手持ちもありますし、食材は大丈夫ですわ。わたしもご相伴に預かるわけですし」


 嬉しそうなリーリさん。オババさん、ここに食いしん坊がいますよ!

 オババさんの家には、根菜類はあったがパンはなかった。オーブンもなかったし、普段は買いに行っているんだろう。


「ベッキーもここに泊まりますし、オババもあの体ですのでよく食べます。ですから、夕食はたっぷりですわ」


 なるほど、作り甲斐があるなぁ。

 そうこうしていたら、奥の部屋からガタガタって騒がしい音が聞こえた。


「ちょっと、こっちに来れるかい!」


 オババさんの慌てた声に、俺もリーリさんは早足で奥へ向かった。

 部屋に入った俺たちは、青く光る液体が入ったガラス容器を陽に透かすように見ていたオババさんを見つけた。問題があったわけじゃなさそうだ。

 興奮気味のオババさんだけど俺たちには気がついたようで、こちらにそのガラス容器を見せてきた。


「普段通りポーションを作っただけなんだよ!」


 ワクワクが止まらない風のオババさんの鼻息が荒い。まるで日本でヘラクレスオオカブトを見つけてしまった子供みたいだ。


「見てごらんこの神々しい青を! これほどまでに濃くて透き通った青を! 普通のポーションじゃありえないんだよ!」

「俺、普通のポーションってやつを知らないんだよね」

「わたしが見たことのあるポーションは、不透明でしたわ」


 なるほど、その時点で全く違うわけね。その分の効果が期待できそうだからこんなに興奮してるのか。


「これは、アタシが自分で試さないとだめだね!」


 興奮で顔を赤くしたオババさんは叫ぶ。


「え、ちょっとそれは、いやま毒じゃないとは思うけどってあー……」


 止めるもなく、オババさんは飲んでしまった。


「……お、おお、おおおおおお!」


 オババさんが震えてる。戦闘民族が気をためてるみたいで金色に光りそうだな、なんて思った瞬間、オババさんの体が青く光った。


「あー、手当スキルを使った時と同じ感じだ」

「う、動く!」


 オババさんは左足でドスンと床を踏んだ。そして左足だけで立つと、その場でくるっと後方宙返りをした。

 深緑のワンピースのスカートは揺らぐことなくガッチリガードだ。


「なんだい動くじゃないか! もう諦めていたのに!」


 オババさんはその場バク宙を何回も何回も繰り返している。アクロバティックすぎるお婆ちゃんは初めて見るよ。


「ちょっと喜びすぎてない?」

「オババは、大森林で左足に大怪我をしてハンターを引退したのです。それから足を治すために薬学の道に入りましたが、ポーションを作る技術は上がったのですが足が治ることはなかったのです」


 リーリさんも嬉しそうだけど、驚きはないみたいだ。


「ダイゴさんが持ってきた薬草ですもの、オババの足が治るのは予想してました」


 リーリさんのテヘペロが来ました。俺氏、掌でサンバを踊るの巻。盆踊りでも可。


「まあ、治ってよかったんだけど、薬草の評価はどうなんだろ」


 いままで治らなかったってことは、より効果があるのが確定だし。


「もしかしたら効き目が良すぎて売れない?」


 それは困る。管理の仕事云々もあるけどさ、金がマイナスになったときに俺が戻れる保証もないのよ。

 オババさんはシャドー組み手?を始めてしまった。もう感情の爆発が止まらないらしい。


「落ち着くまで待つしかないですわ。だって100年来の願いでしてたもの」


 リーリさんはオババさんに優しいまなざしを向けている。

 100年越しの願いかー。それを知ってるリーリさんて。


「母から聞いておりましたのよ?」

「ア、ハイ」


 女性に年齢の話はダメ。よし、もう忘れないぞ。

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[一言] ベホマズンじゃん…
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