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第二十七話 まかり通りました

 川沿いの街道は両側に畑が広がっていて、すごく牧歌的だ。いままで見てた荒れ地からすると天国だよ。命の息吹がそこら中にあるって感じ。


「ここまでくると、戻ってきたーって感じる!」


 ベッキーさんは棍棒を振り回してご機嫌だ。


「いいですね、野菜」


 リーリさんの視点はある意味ベッキーさんと同じだ。良いコンビなのがよくわかる。


「ん、この(いわ)れのない視線を受けると現実から逃避したくなるのはわかるな」


 俺は現在、ブチコの背中に胡坐をかいたまま運ばれている。しかも往来の人の視線を一身に受けてだ。

 荷馬車を引いてるでっかいトカゲみたいのはぶちこを見た瞬間に動かなくなった。

 俺か?

 俺が悪いのか?

 まぁ、ぶちこは悪くない。

 悪いなら俺だ。俺にしとけ。


「まぁ、ぶちこの賢さをアッピールするにはいいと思うよ、うん」


 俺を乗せておとなしく歩いてるんだから。

 トカゲが引いているのは竜車というらしい。まぁ、トカゲは竜に見えなくもない。


「壁に近くなるにつれて見えてくるのが行列とは」

「中に入るための行列ですわ。いちおう、身分を確認しているのですわ」

「おっと、身分証なんて免許証しかないけどここじゃ通用しないよねー」


 どうすんだろ俺。

 街道の先には10メートルほどの高さの壁と門があって、そこで兵士っぽいのがチェックしてるんだよな。町全体が壁に囲われてるっぽくて、門からしか行けないみたいだし。


「身分証がない人は通過税を払う仕組みですわ」

「おうふ、現金を持ち歩かない俺。というか実体の金はないんだよね」

「お金なら、大丈夫!」


 ベッキーさんがにぱって笑うけど、お世話になるのはちょっと違うんだよな。でも背に腹は変えられない。


「あ、じゃあお借りしますー」


 後で返そう、そうしよう。

 行列は歩いている人と竜車の人と分かれてる。俺たちは歩いている人の行列に向かう。

 でかいぶちこに乗ってる俺は、門の兵士からもよく見えるだろう。まして同じくアジレラに入ろうとしている人なんかは余計だろうねー。みんな口を開けてるもん。

 さて行列の最後尾についた。俺たちの脇を竜車が通っていく。


「おい、そこのでかいの!」


 兵士に怒鳴られた。金属の胸当てっぽいのと長い槍を持ってる、髭のおっさんだ。


「どう対応すれば?」


 ぶちこの脇にいるリーリさんに助けを求める。


「この子は上に乗っている方の獣魔ですわ!」

「おとなしいよ!」


 ふたりが声を張り上げてくれた。


「獣魔証はあるのか!」


 なんじゃそれ。


「ありませんわ!」

「なければ通せんぞ!」


 おっさん兵士は槍でドーンと地面をついた。


「わふっ」


 ぶちこがしっぽをぺしっと地面に叩きつけた。その瞬間、竜車を引いていた複数のトカゲたちが一斉に動きを止めた。急には止まれない竜車がトカゲに突っ込むもトカゲは微動だにしない。

 竜車の往来がすべて止まってしまった。周囲はざわつきの声でかなりうるさい。


「くそ、なんで止まるんだ、この!」

「おい、動けっ!」

「荷物がぁぁ!」


 御者らしき人が鞭でトカゲを叩いてるけど、彼ら(トカゲ)はみなぶちこを凝視してる。

 ぶちこはふふーんて感じで横を見てる。何かしたな。


「おい、お前ら、早く竜車をどけろ!」

「いうことを聞かないんすよ!」

「早く動けって!」


 門前はちょっとしたパニックになってる。竜車はもちろん人の流れも止まった。

 俺は「何かしましたか」って顔をしてるわけですが。

 なるようになるさ。


「お前ら、何をした!」


 怖い顔のおっさん兵士がこっちに歩いてくる。あからさまの俺を疑ってるな。


「何もしておりませんわ」

「なんにもしてないよ!」


 リーリさんとベッキーさんは腰に手を当てて知らんわってポーズだ。


「トカゲどもがこの獣魔を見ているだろうがッ!」


 額から火を噴きそうなくらいヒートアップしてるおっさん兵士。高血圧になっちゃうぞ。


「わっっふぅ」


 ぶちこが大欠伸をした途端、トカゲたちが地面にはいつくばってしまった。目をぎゅっと閉じてガタガタ震えている。流れが止まってしまったから、竜車の行列がすごいことになってる。後ろのほうはこちが見えないから、訳が分からないだろうな。


「なんで動かねーんだよ!」

「そこのでかい魔獣をさっさと通しちまえよ!」

「兵士さんよー、早くしてくれよー」


 矛先が兵士に向かい始めた。ぐぬぬと唸る兵士たち。知らん顔のぶちこ。

 リーリさんがこっそりお金を取り出したのを俺は見逃さない。


「兵士さんお疲れさまです。どうでしょうか、通していただけませんか?」


 リーリさんのいい笑顔がさく裂している。ついでに袖の下も渡したようだ。


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 入れなきゃ暴れるぞって、それ脅しじゃないですかやだー。


「ぐ、早く通れ!」


 兵士たちが道を開けた。


「わっふ」


 ぶちこがのそっと動くと、ガクブルしてたトカゲらが大きく息を吐いた。


「さっさと行け!」


 兵士の怒号を背に。アジレラに入った。


「ぶちこちゃんがちょっと威圧しただけですのに」

「トカゲたちはちょと可哀そうだったね!」


 このままではぶちこが腹グロになってしまう。


「ぶちこは可愛い。これは真理だ」


 ぶちこの首筋を撫でまくっといた。

 門を抜けてすぐ、大通りと川が目に入った。エーテルデ川が壁の下をくぐってアジレラの中に流れてるんだ。

 エーテルデ川に沿った大通りは竜車が3台並んでも問題ないくらい幅が広く、歩くスペースを考えても15メートルはある。地面はコンクリートに覆われていて、竜車は走りやすそうだ。

 入る人出る人でごった返している中でぶちこに乗ってる俺が目立たないわけはない。


「さすがに降りたいな。ぶちこ降りるよー」


 ぶちこをぽんぽんとすれば、静かにしゃがんでくれる。滑り台の要領でしゅっと降りて着地。

 改めてあたりを見渡す。

 通りの両側には4階建てくらいの灰色のビルが所狭しと(ひし)めきあってる。表面の仕上げは荒いけど、たぶんコンクリートだな。木の建物は見当たらない。

 1階がお店、それ以外は住居なんだろうか。食べ物屋のいい匂いと客呼びの怒鳴り声が混ざり合って、いい騒がしさだ。道行く人も多様で、肌の色とかじゃなくって、そもそも体形からして違ったり。


「おー、獣耳さんがたくさんいる」


 三角だったり丸だったり。いろいろな耳が頭の上にこんにちはしてる。割合としてはかなり多い。6割くらいはいるんじゃないかな。俺みたいのは少なくって、黒い髪は、いないな。


「ダイゴさんは、彼らを見てなにか思いますか?」


 リーリさんが伺うように聞いてきた。


「いや、初めて見るから、ホエーって感じ」


 腰から出てるしっぽのモフモフにも惹かれるけどぶちこが一番だ。


「それはよかったです。では、日が暮れる前にオババのところに行ってしまいましょう」

「じゃ、あたしはギルドに報告に行くよ!」

「オババの店で待ってますからね!」

「はーい!」


 小柄なベッキーさんはそういうとトテテテと人ごみに消えてしまった。


「さて、行きましょうか。あ、離れて迷子にならないでくださいね」


 地元のリーリさん。でかくて目立つぶちこ。

 まぁ、俺が一番やばいな。

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