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幕間六 内緒話

 上空を風が鳴らしていく、星の夜。

 ベンジャルヒキリは、すっかり寝入ってしまったダイゴの顔を覗いていた。


「よっぽど疲れてたんだね!」

「むにゃむにゃいいながら寝てしまいましたからね」

「歩いてる時も辛そうだったもんね!」

「わふ」


 ぶちこが静かに頷いた。

 大悟はぶちこに寄りかかりながら、静かに寝息を立てている。


「今日も食事がおいしかったね!」

「油で揚げる料理は、知識としては知っていましたがあそこまでおいしいとは」

「サクサクでじゅわっとで。またよだれが出ちゃう」

「ベッキーはたくさん食べたしょう? ダイゴさんの分まで食べちゃって」

「だって、手が止まらないんだもん!」

「ほら、大きな声を出すと、ダイゴさんが起きてしまいますよ」


 ベンジャルヒキリは慌てて手を口に当てた。コクコクと激しく頭を振る。


「調理方法は真新しくはないのですが、おいしさが全然違うのはなぜなのでしょうか」


 焼く、炒める、煮る。

 調味料も塩と胡椒が多い。

 なのに、今まで食べた料理よりもおいしい。

 なにが違うのだろうと考えたがリャングランダリには思いつかない。


「うーん、お肉そのものとか? あ、今日はお肉を叩いたよ!」

「そういえばそうですわね。キャベツも細かく刻んでありましたわ」

「ちょっとしたことが味の違いになる?」

「かもしれませんわね」


 なんとなくわかった気がしたリャングランダリは周囲に意識を向けた。


「今日は静かですわね」

「うん、ぜーんぜん音も気配もしないね」

「あ、ベッキー、あそこを見てください」

「ん、どこどこ?」

「あそこ、砂がおかしな形の山になってませんか?」

「あ、ほんとだ。なんだか砂が寄りかかってるね!」

「多分あそこがダイゴさんが張った結界の境界ですわ」

「へー、砂も入れないんだねー」

「おそらく、砂は嫌だと思いながら結界を張ったのではないのでしょうか」

「あははは、すっごいね!」

「本当に、すごいですわ。ダイゴさんは何者なのでしょう」

「うーん、すごい人?」

「ベッキー、それは答えになっていませんわ」

「えー、リーリはどうなの!」

「言葉にすることは憚られる方、でしょうか?」

「ぶー、答えになってなーい!」

「精霊様が頼みに来るほどの方ですよ? 口にできるわけありません」

「ふーん、あたしとしては、どんな人でもいいけどね」

「ベッキーは少し疑いを持った方が良いと思いますわ」

「だってさー、ダイゴさんに助けてもらえなければ、あたしはあそこで死んでたもん。今だって、スケルトンキングに刺された感触は思い出せるもん。あれは幻じゃ無いもん。だからあたしは、ダイゴさんは悪い人じゃ無いって信じちゃうもん!」

「……たしかに、わたしもあそこで死んでいたでしょうけど、それとダイゴさんを信じてしまうのとは別でしょう?」

「そうかなぁ。あたしは、どうせ生きてても、今より強くなることはなかったろうし。なら、どうせ生きてるなら、楽しそうな、作る料理がおいしいダイゴさんに付いてっちゃうよ!」


 ベンジャルヒキリは真剣な顔でリャングランダリを見ていた。


「まあ、わたしもそろそろ限界なのかなとは思っておりましたけれど……」


 3級ハンターになれたが、そこからは足踏みで、より高みに上がれる展望が見えなかった。

 ペアで活動していることもあり、コルキュルの巡回くらいが精一杯で、強い魔物の討伐の依頼などは手の届かないものだった。


「でね、助けてもらったからかな、あたしの力が強くなってる感じなんだよね。この棍棒も、今までよりも軽く振れちゃうんだ。ロックワームも一撃で倒せたんだよ! いままでは、何回も何回も殴らないと弱らなかったロックワームが!」


 ベンジャルヒキリは棍棒を手首の返しだけで8の字にくるくる回し始めた。この棍棒は盾と同じく堅鋼木(割れずの木)でできており、その重量も鉄を超えるものだった。おおよそ人が振り回せるものではない。スキルがあっても確かな重さは感じるものだ。ましてベンジャルヒキリの棍棒は彼女の身丈を超える逸品。同じ長さの大剣よりも重い。


「そうなの、ですか?」


 リャングランダリはそんなの信じられない!という顔を向けていた。


「リーリも弓を力いっぱい引いてみなよー」


 にこやかにそんなことをいう相棒(ベッキー)に、リャングランダリはやれやれと思いつつも弓に手を伸ばす。


「まあ、やってみますけど!」


 と弦に指をかけ、力の限り肘を後ろに引いた。


――バチン。


 リャングランダリが引き切らないうちに弦が切れてしまった。爆発的な力に、弦が耐え切れなかったのだ。


「あわわわ、切れて、切れてしまいました」


 切れてしまった弦をつまんでどうしようどうしようと狼狽えるリャングランダリ。


「ほら、やっぱりー」

「そんな、かーるく言わないでくださいまし。わたしが見張りの時に武器なしなのですよ!」

「えー、ダイゴさんが誰も入れない様にしてるし、大丈夫だって!」

貴女(ベッキー)はまた簡単に信じてしまって!」

「ぶちこちゃんもいるし、()()()大丈夫だって。帰りは頑張ろうよ!」

「……アジレラで弓を買わなければいけませんね」

「ダイゴさんに直してもらったらー?」

「そんなことは頼めませんわ!」

「あーーっ、もう変更の対応はできませんよー、納期だって間に合わないしー! 軽々しく変更を受けてこないで下さい! 対応するこちらにも限界があります! 間に合わないですってば!」


 突然始まった大悟の寝言にふたりは口に手を当て動きを止めた。


「……静かにいたしましょう」

「そだね」


 大悟を起こさない様に。

 これがふたりの今晩のミッションであった。

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