第十八話 調理スキルさん無双
誤字報告ありがとうございます!
なるべくないようにします……
「え、調理スキルってそうなんじゃないんですか?」
「調理スキルって、皮をむくのが早くなるとか、包丁がうまく使えるようになるとか、そんな感じなはずですわ!」
「それだけなの?」
「それだけでも十分ですわ!」
リーリさん興奮しすぎ。
鍋を空にしてその上に牛肉を持っていくと、すき焼きができるくらい薄くスライスされた。鍋に油をひき着火と念じて肉を焼く。
「っと、米を炊かないと。出てこい鉄のお釜」
叫べばテーブルの上にドーンとお釜が出てくる。かなり多めに一升用のお釜だ。
「こここんどは何ですの?」
「米を炊きます」
「いえそうではなくって!」
ぶちこの肉はもういい感じだから加熱はやめる。食べるのはみんな一緒だしちょっと冷まさないとやけどしちゃうしね。
お釜に米をザーッと入れればギショゴショ米とぎが始まる。音がやむとすぐに水が上がってきて準備完了だ。下駄蓋をして着火と念じる。
ゴシュゥと蒸気を吐く音がして炊飯が開始される。
ちらっとリーリさんを見たけど、口をあけっぱなしで固まってた。見なかったことにしておこう。
「次は野菜類を投入しまーす」
大鍋の上に人参、キャベツ、ジャガイモ、たまねぎを持っていくと、それぞれが一口大に切られて大鍋に落ちていく。
どさどさ入れてくぜ!
「次は水ー」
大鍋に水が満ちていく。準備オッケーなので着火と念じる。鍋がキンっと音を立てて加熱が始まった。
野菜たっぷりで旨みをだしたスープにするつもりだ。
「肉よーし、米よーし、煮込みよーし」
指さし確認大事。設計屋でも必要な資料がそろっているかの確認は必須なんだぜ。あ、リーリさんに水を出すの忘れてた。
木のカップを握ったら水が自然と満ちてきた。無限水湧機能付きならすっごいんだけどたぶん調理スキルさんが親切にしてくれてるんだろう。今日もありがとうございます。
「水を出し忘れてましたー」
コトリとテーブルに木のカップを置く。リーリさんは目をばしばしさせてから黙って座った。
鍋の灰汁とりをせねば。
このあたりは調理スキルさん任せにしないで俺がやる。俺がやろうとする作業は邪魔しないのが調理スキルさんの懐が深いすごいところだ。
灰汁を取っていけば野菜の出汁が満ち満ちてる、ちょっと黄色がかったとろみのあるスープができてきた。たまねきが透き通ってきて、いい塩梅だ。味付けしてないけど、このままでも美味しそうだ。
ごくっと唾をのむ音が聞こえて、ふいっと顔をあげたらリーリさんと目が合った。
「おおおおおいしそうな香りがしまして、その」
「もう少しだけ待ってくださいねー」
お米もそろそろ炊けるし、あとはスープに味付けしたら出来上がりだ。
塩と胡椒とちょっとだけ醤油を入れる。日本人だもの。調味料を入れてお玉でかき混ぜる。もちろんお玉も木製。
少し煮込めば完成だ。
お釜がぴゅーっと音を立てた。本当はちょっと蒸らしを入れるのがいいらしいんだけどすぐにかき混ぜる。切るようにかき混ぜるのがコツらしい。調理スキルさんに教えてもらった、
「ご飯と具沢山野菜スープのできあがり!」
あ、皿とか持ってきてない。急いではいたけどさ、準備がよろしくなかったな。
「食器を忘れてた、取ってこないと!」
いそいそと家に戻り食器を取りだす。
「3人分の大き目な深皿が必要で。箸、は無理そうだからフォークとスプーンで」
あたふたしていたら教会から声が聞こえた。
「わ、なんだかいい匂いがするよ! わ、おいしそうな食事があるよ、あ、リーリおはよう! ってあれ、スケルトンキングは? ってあたし刺されてもうダメだって、あ、大きなワンちゃんだかわいいー。ってここはどこ?」
眠り姫さんが起きたようだ。なんとなーく、そそっかしいというか、騒がしいというか、ベッキーさんがよくわかるな。明るい子なんだろう。
腹ペ娘が起きちゃった以上急がないと。
「ベッキー、よかった、起きたのですね」
「あたしどうしちゃったの? ここは天国なの?」
「わたしたちはこのぶちこちゃんに助けてもらって、この子を使役するダイゴさんに傷を治していただきました」
「え、そうなの? スケルトンキングは?」
「ぶちこちゃんが体当たりで討伐してしまいましたの。わたしの目の前で」
「ええええええ! スケルトンキングって1級討伐対象だよ? それを体当たりで?」
「えぇ、しかも一撃でしたわ」
「はわわわわ、すごいんだねー」
うんうん、ベッキーさんが元気そうでよかった。
食いしん坊がいるんじゃ、デザートも必要だね。リンゴとみかんを持っていこう。
食器と果物を抱えて教会に戻った。
「ぶちこちゃん、助けてくれてありがとう! もふもふも気持ちいいい!」
「サンドシルクにも負けないすべすべの肌触りですわ」
「わふ!」
リーリさんとベッキーさんはぶちこに抱き着いてモフモフを堪能していた。
ヘルメットを脱いだベッキーさんの赤い髪が暴れてすごいことになってる。燃える炎みたいだ。
「ぶちこのもふもふはいいですよねー。ぶちこと昼寝をしていると時間を忘れちゃうんですよねー」
俺の声にふたりが振り向いた。
「ダイゴさん、こちらがベッキーです」
「ベンジャルヒキリです、助けていただき、ありがとうございます! あ、ベッキーって呼んでね!」
ふたりは揃って頭を下げた。
ベッキーさんはクリクリした目が特徴的で、なんか愛嬌のある顔だ。にっこり笑顔は花が咲いてるように錯覚する。
背はやっぱり俺よりは小さくて、でもふくよかなのかお胸が大きくてですね、目のやり場に困る。
あの子が大きな盾とか棍棒とかを振り回すのか。ハンターってのはパネエな。
リーリさんと並んでると凸凹コンビ感がすごい。
「ぶちこが頑張って間に合わせてくれたから、ですかね。怪我を治せてよかったです」
俺に礼をいわれても困るんだ。偉いのはスキルさん。俺はその宿主って感じ?
「わふわふわふわふ」
ぶちこが肉を指して訴えてくる。
「あーはいはいわかったわかった、お腹が限界なのね。ぶちこから泣きが入ったので先に食べませんか?」
「あ、手伝いますわ」
「あたしもー」
具沢山スープがはいった皿をリーリさんが配膳してベッキーさんはカトラリーだ。ベッキーさんはともかくリーリさんは加減がわからないので普通盛だ。鍋はテーブルの真ん中に。ぶちこははフライパンごとだ。今日はふたりがいるから床に置いた。美味しそうな匂いが教会に満ちていく。
野菜多めのスープにベッキーさんの目はキラキラだ。口にはよだれも見える。リーリさんもすでにスプーンを持って準備万端だ。
「では食べましょう」
手を合わせていただきますとつぶやく。リーリさんとベッキーさんは祈るような仕草をしている。ぶちこもわふっとひと声。
何かに感謝してから食べる。似たような文化なのかな。
「スープはたくさんあるのでおかわりしてくださいねー。あ、白いのはご飯といって、穀物を炊いたものです。美味しいですよ!」
米の反応を見るためにふたりをチラ見する。
荒地やら廃墟やらで水田を作るだけの水があるのは思えない。初めて米を見るんではなかろうか。
リーリさんはスプーンを片手にまじまじと見てるけどベッキーさんは躊躇なくスプーンでご飯をすくって口の中へ。
「むぐむぐごくん。うわ、柔らかくて、噛んでると甘くなって、不思議!」
にぱっと満面の笑みである。
そんなベッキーさんを見たリーリさんもご飯をパクリ。静かにもぐもぐしてうんうん頷いてる。
「麦粥に近いかと思っていたのですが、弾力があって、噛んでいると甘くなって、美味しいですね」
こちらもにっこりだ。
「野菜がたくさんでスープも美味しいよ! にんじんもじゃがいもも柔らかくて口の中で溶けていくの! わ、お肉も入ってる! これも美味しい!」
ベッキーさんはすでにスープの2杯目に突入していた。予想通りの腹ペ娘だったがペースが速い。
ぶちこは肉をかじったら口をしっかり閉じてもぐもぐして行儀の良い食べ方だ。
どうようちのぶちこは。サイコーでしょ?
リーリさんは静かに、でも素早く食べていく。所作が上品に見えるのは気のせいか。肉よりも野菜派のようだ。だからスレンダーを維持してるのかも。
まあいい、俺も腹減った。食うぞ!




