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第二話 お給金と支給品

「そうだよ、給料だよ!」


 労働の対価、お給金。この水源管理という仕事の対価が重要だ。主に俺のやる気の問題で。


「ふて寝してる場合じゃない」


 がばっと起きる。


「確か家の中に書があるとかいってたな」


 急げや急げ。こうしている間もお給金は発生しているんだ。少なかった場合に文句をぶつけるべく即行動だ。

 草を踏みながら玄関へと急ぐ。昔の家によくあるガラスがはめ込まれた両引き戸をガラッと開ける。玄関は三和土が広がっていて、ぶっちゃけた話、俺の住んでいたアパートの部屋よりもでかい。キャンプができそうだ。

 ……富豪だ。

 古めかしい固定電話があるのもここだ。靴箱の上に鎮座していた黒電話というやつだ。

 上がり(かまち)があって、すぐに板張りのリビングがある。

 装いはTHE日本家屋なのに居間が板張りとは、現代に合わせてるんだろうか。その奥にはカウンターキッチンも覗いている。うーむ、日本家屋とはいったい。


「……やはり富豪だ。金持ちめ」


 お金がなかったからひがんでいるんじゃない。あくまで感想だ。DISってはいない。


「左と右に(ふすま)があるな。キッチン奥には廊下が続いてるっぽいけど、行ってみないとわからないな。しかし、デザインが統一されていないのはなぜ……」


 由緒ある日本家屋をリフォームしたらこうなりましたって感じだな。まあいい。広いのは良いことだ。


「このリビングだけでも20畳はあるだろ……それに見合うくらいデカいテーブルだ」


 大きな一枚板のテーブルとお高そうな肘置付きの椅子が8つ。テーブルの木目がすごい。いくらするんだこれ。


「つーか、椅子が8つもあるって、なんで?」


 俺は独り身で、ここには俺ひとり。なはず。


「……なんかイヤなフラグだな」


 テーブルの上にハードカバーの薄いめな本がある。あの龍がいってたのってこれのことかな。まずはこれを読めってことなんだろう。

 椅子を引いてポスっと座る。いいクッションだ。あの龍はきっと石油王なんだ。金持ちめ。

 さて目次からだ。何が書かれているか、ざっくりわかるだろ。

 ドキドキしながら表紙をめくる。


――報酬は月額2万ペーネです。なお無税です。


 おうふ、いきなりお給金に言及された。


「2万て少なくない? てかペーネってどこの国のお金? 聞いたことがないんだけど。無税は大歓迎だけどさ」


 調べるかとスマホをポケットから取り出してみた。


「……圏外?」


 いまどき、圏外になるような土地が日本にあるのだろうか。

 確かに、山のてっぺんらへんにいるけど。おっかない龍もいたけど。


「まあいいや次。まずは全容を把握しよう」


 ページをめくる。


――おめでとうございます。あなたは家事スキルを獲得しました。


 んん、なんだこれ。思わず本を閉じた。見てはいけないものを見てしまった感じだ。スキルって何よ。ゲームみたいなアレ?

 社畜なめんな、そんなのやったことないよ。そんな時間があれば寝てたよ。

 まぁここはさらっと流すところだな。タイムイズマネー。この時間もお仕事の時間だ。

 よし、気を取り直して本を開こう。


――おめでとうございます。あなたは家事スキルを獲得しました。


 洗濯:洗える。濡れたものの乾燥もできる。いろいろ便利。

 戸締:任意範囲に結界を張る。物理および魔法無効化。やったね無敵だね。

 清掃:水を使わずに汚れを落とす。人体にも可能。清潔感大事。

 手当:傷、病気などの治療。欠損も復活可能。イタイノイタイノトンデケーと念じればおっけぇ。

 調理:あらゆる食材を火を使わずに調理可能。毎日おいしい食事だね。

 繕い:あらゆるものの修理修繕が可能。捨てるのはもったいないね。

 この他は実績解除されると増えます。


「んんん、確かに家事ではあるけど解釈違いが甚だしい」


 調理なんかは非常に助かるけど、他がやばいな。こんなのを使えるようになっても使う場面が想像できない。

 実績解除とはなんぞや。昇進でもするのか?

 お給金あがるのならやる気が出るんだけど。

 まあいい次だ。


――依頼主(水神様)の意思が優先されます。


 おっと、クライアントがいるのか。給料が出るから雇い主かと思ったんだけどそうではなかったか。それとも俺は雇用されたうえで派遣されたのだろうか?

 俺のお給金はどこから出てるんだ。てか水神様ってのはあの龍なんだろうか。

 ハロワのおっさんこっちにきて説明プリーズ。


――ともかく細かいことは考えずに生活してください。


 ……とても強い意志を感じた。細かいことを考えないとやばいことになるって、俺は知ってるんだ。部品を設計するのに方針を聞いたはずが「いいから作ればいいんだ」っていわれて結局何回もダメ出し食らったんだ。

 言葉をそのまま信じちゃいけないんだよ。

 トラップだろこんなの。

 

――この本は常に携帯してください。いろいろ書いてあります。あ、そのうち収納のスキルが生えてきますのでそこにしまってください。


 先回りしないでほしいなぁ……怖いなぁ……


――ともかく細かいことは考えずに生活してください。


 大事ことは2度言うのですね。ってどんだけよ。


「お仕事の内容に触れられていないのは、俺が生き延びることが仕事って理由からなんだろうな」

 不安しかねーぞ。


――食材はキッチンの背面の冷蔵庫に随時供給されますが消費すると報酬から引かれます。


 ん、もう慣れた。食費は天引きか。家賃がかからないから今までよりも条件はいいかもしれない。いやまだわからんか。


――以降は家の案内と各設備の説明になります。後で読んでください。


 ぶん投げだなぁ。まぁ楽しみに家探しするよ。まずはここリビングの探索だ。

 本を片手にカウンターキッチンに行ってみる。

 どう見ても白い大理石のお高そうなキッチンだ。頭上には収納棚がぶら下がっていて、機能的には十分すぎる感じだ。給水給湯の混合蛇口と広い流しもついてる。大人数の洗い物でも困らないね!

 てか大人数になるの確定なのかよ。

 はぁ、そういやキッチンの後ろに冷蔵庫があるんだっけ。

 振り向いて驚いた。


「……ここはコンビニか?」


 カウンターキッチンの背面に、コンビニにあるガラス張りで商品を並べている冷蔵ショーケースが並んでいる。ガラス扉は5枚あって、肉魚野菜果物卵牛乳が並んでいる。アルコール類とバターとかもあるのな。10Kg袋の小麦粉類と米と味噌と醤油もある。カップ麺とかレトルトがないあたり、調理しろってことなんだろうな。

 一番端にコイン投入口っぽいのがある。自販機なんだろうか?

 肉とかの下に数字が書かれた値札がある。牛肉バラって書いてある塊には30/100という札が。100グラム30ペーネってことか?


「あんまスーパーで買い物とかしないから高いか安いかわからないな」


 消費した分は給金から引かれるとか書いてあったけど、この投入口は意味があるんだろうか。ペーネなんて金は持ってないぞ?


「A5和牛肩ロース200/100……たっか、バラ肉の7倍だ」


 ペーネを10倍すると、なんとなくだけど理解できそうだ。とすると、お給金は20万円ってとこか。家賃抜きとしても微妙な線だな。光熱費もわからないし。


「贅沢は敵、か」


 精神論は好きじゃないんだが。

 うーん、快適な生活を送るためにはお給金だけじゃ足りないな。逃げ出さないように自炊させるための家事スキルってことなのか。

 収納棚には一通りの食器類にカトラリー、おまけに各種調味料がそろってる。カップと皿は木製だ。割れないような配慮だろうか。冷蔵ショーケースの中をよく見れば各種酵母もある。イースト菌に清酒酵母。パンも酒も造り放題だ。

 密造酒?

 無税だからへーきへーき。

 しかしながら、俺を本気でここに閉じ込めようって狂気を感じる。

 ま、ブラック設計屋をやってた時よりは気楽か。暮らせないわけではないし。


「食の確保はできそうだから、家探しと行きますかね」


 せっかくなので楽しもう。どうにもならない状況っぽいし、いっそ開き直ってしまおうそうしよう

 ひとりだとつい考えを呟いてしまうのは仕方がない。

 本を片手に、まずはキッチン奥の廊下に向かった。

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