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第十五話 リーリとベッキー

「あの、助けていただきありがとうございます。わたしは3級ハンターのリャングランダリと申します」


 俺がぶちこに舐められていると、耳長の子が話しかけてきた。目を向けると、倒れてる子の脇に正座で深々と頭を下げてきた。


「リャンg痛……ひたはんあ」


 舌を噛みそうな名前で、ごめん覚えられそうにない。

 ハンターって狩人のことかな。何を狩るんだろ。


「えっと、ともかく無事というか、間に合ってよかったです。あ。俺は佐藤大悟といいます」


 俺もぺこりと挨拶しておく。 

 助けたのは俺のように見えるけど実際はスキルが助けてるんだよね。俺の力じゃない。そこはわきまえないと。

 名刺交換の方が名前を忘れなくっていいんだけどそんなものはなさそう。


「サトウダイゴさんというのですね」

「あーっと、佐藤が名字で大悟が名前です」

「なるほど、ダイゴさんなのですね。わたしは、言いにくそうなので、リーリと呼んでください」


 リーリさんは苦笑いでまた頭を下げた。ご丁寧にどうもです。でもね。

 調理スキルさんもそうだけど、この子も人の話を聞かない系かい。


「この大きなワンちゃんは、ダイゴさんが使役されているのですか」


 うん、使役?

 ぶちこを見上げれば、わふと首をひねられた。


「この子はペットいうか同居人ですかね。ちなみに女の子です」

「同居人?」


 リーリさんはかわいく首をかしげてる。


「色々あって一緒に暮らしてるって関係ですかね」

「わふぅ」


 ほら、ぶちこもそうだっていってる。


「うおっ」


 急に強い風が吹いてきて顔に砂がバシバシ当たって痛い。ここにいたら砂だらけになる。起きない子が砂に埋もれちゃいそうだ。


「あの、その子も起きないし、砂をしのげる場所があるんだけど、そっちに移動してもいい?」

「……コルキュルにそのような場所があるのですか?」


 リーリさんの目が険しくなった。


「こるきゅる? というと?」

「ええっと、廃墟になってしまったこの都市のことです」

「……ここって都市だったんだ。街かと思ってた」


 なるほど、ぶちこが走り回れるわけだ。


「建物らしきものは全て破壊されてて、身を隠すところはないはずですわ」


 リーリさんの眉間に皺がよってる。怪しまれてるっぽい。

 知らない人間に休めるとこに行こうっていわれたら、そりゃ警戒するか。連れ込まれるって考えるよね。


「どう説明しようかな。あの、俺は繕いスキルってのを使えて、壁しかなかった教会を直したんです」

「繕い、スキル? 直した?」


 リーリさんの声が低くなった。

 あれ、さらに怪しまれた?

 どうしようかな。

 あ、転がってる木の盾がひび割れてる。丸い盾の外側がバキバキだ。あれを直したら少しは信じてもらえるかなぁ。


「じゃあそれを見せますよ。よっこいしょって、ありゃだめか」


 立とうとしたけどまだ膝が笑ってるや。情けない。しかたない。ハイハイして盾に這い寄った。


「いまからこの盾を直すので、そうしたら少しは信じてもらえます?」


 盾をペシペシしながらリーリさんを見る。リーリさんの目がなんか剣呑になった。


「直すって……その盾は木でできていますが、堅鋼木(割れずの木)といって鋼より硬い木なのですわ。壊れることなんて考えたこともなかったですし、直せるわけありませんわ」


 リーリさんの目は詐欺師を見るような猜疑の眼差しで、俺がドMだったら小躍りしてるくらい、綺麗で怖い。

 さっさとやっちまおう。


「直しまーす、修繕!」


 俺が念じると、バキバキにひび割れてた部分がくっついて、粘土をこねたみたいに滑らかになった。指で触っても傷なんて感じない。


「ばっちりだ。これでどうです?」


 リーリさんを見たら、ポカーンと口を開けてた。


「触って確認してもらってもいいですよ」

「え、ええ、ちょっと,失礼しますわ」


 リーリさんがペタペタ歩いてきて盾に手を置いた。コンコン叩いたりなでなでしながら目をパチパチしてる。


「……直ってますわ……スケルトンキングに割られてしまったのに……」

「直しましたので」

「繕いスキルなんて、聞いたことがないのですが……いえ、実際に直ってますわね」


 リーリさんは「疑ってもうしわけありません」とまたペコリ。なんとなく仕草がお上品でお綺麗だ。綺麗なワンピースを着てればどこかのお嬢様に見えそう。


「いえ、突然そんなことを言えば疑われますよねー」


 とまた立とうとしたけど、膝が阿波踊りしてる。


「あ、そうか、手当を自分にやれば……って腰が抜けたのにはダメなの?」


 手当スキル初の敗北だ。万能ではないってことかな。二日酔いにも効かないのかも。使う機会がない方が良いのだけど。


「えっと、その子はぶちこの背中に乗せて運ぼうかと思うんですけどどうでしょう。あ、俺の膝が震えちゃって動かないので申し訳ないのですがその子を乗せるのはお願いしたく。ぶちこ、いい?」

「わふう」


 ぶちこが猫みたいに座り込んだ。あれスフィンクス座りっていうんだ、俺知ってる。いやまぁ伏せただけだろうけど。


「……その、ぶちこ、ちゃんは、言葉がわかるのですか?」

「わふわふ」


 ぶちこがリーリさんに顔を向けてわふわふ頷いてる。


「……賢いのですね」


 リーリさんの顔が緩やかになった。


「その、盾とかはどうしよう。紐か何かで縛らないと落ちちゃいそうだ」


 近くに転がっている盾とこん棒に視線をやる。あれを持っていくのは厳しいかな。非力な俺が持つには重そうだし。内勤者にも細マッチョはいたけど残念ながら俺は枯れ枝だ。


「魔法鞄がありますので、そちらに入れていきますわ」


 リーリさんが腰につけている小さな袋をポンと叩いた。口が紐で縛られている、何かの皮の袋だ。


「魔法鞄?」


 なにその素敵な響き。魔法だぜ魔法。全人類の夢といっても過言じゃない。

 家にあった水袋とは違いそうだ。

 リーリさんが盾に触れたら盾が消えた。棍棒のところに歩いていって同じように触れたら棍棒も消えた。


「すげえ!」

「見た目よりもたくさん入る鞄なのですが、これは安いものなので、わたしが両手を広げたくらいの空間くらいしかはいりませんの」


 ちょっと困ったような顔をするリーリさん。


「いやいやすごいでしょ! だって、その小さな鞄にですよ?」


 物理法則先生を投げ飛ばす界隈だけはある。俺も欲しい。水袋は、それはそれで有用なんだけど。


「ベッキーを治療してくださったスキルを使えるダイゴさんの方がよほどすごいですわ」


 リーリさんがため息をついてる。

 あれば貰い物だもの。俺はただのブラック設計屋さん。


「その子はベッキーさん、なんだね」


 リーリさんみたいに舌が重労働な名前かと思ったよ。


「言うのを忘れていました、起きてから挨拶させようと思っておりまして。この子はわたしと同じ3級ハンターでベンジャルヒキリ。わたしと同じように短縮した名で呼ぶのです」

「……やっぱり言いにくそうな名前だった」

「ハンターは、戦闘時に誰彼する時間を短くするために、略称にするのですわ」


 ハンター。

 そういやリーリさんが自己紹介する時に3級ハンターだとかいってたな。狩人なのかトレジャーなのか。

 有名なゲームでもあったな、ハンターって。

 ここは素直に聞くがよしか。


「えっと、俺が無知なだけなんですけど、ハンターってのは、なんです?」


 リーリさんは「え?知らないってどーゆーこと?」という顔をした。

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