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第十四話 大量の骨とふたりの女の子

 今日も廃墟に来てる。教会周辺はもう草原といっていいくらいで、くるぶしまでの緑に覆われている。ただ、まだ緑の広がりはさほどでもなく、教会から50メートルくらいの範囲でしかない。もっと広げたいな。なんか陣取りゲームみたいでさ。どうみても荒地だし、緑で埋め尽くした方が良いでしょ。

 ぶちこは早速走りに行ってしまった。毎日元気でよろしい。運動不足の俺も走るべきとは思うけどぶちこについてはいけないので畑仕事が精いっぱいだ。


 ドゴーーーン。

 遠くで何か大きな音がした。ここ(廃墟)に来てから初めてだ。


「ぶちこが何かに体当たりした?」


 散歩から帰ってくるぶちこはいつも砂だらけだ。勢いあまって建物の残骸に接触してるんだろうなとは思ってる。

 ぶちこが駆ける速度は狭い山頂でさえ時速60キロメートルほどだった。全速力だとどのくらいかは知らない。新幹線よりは遅いだろうけど。


「わふーーーん!」


 そんなぶちこが飛んで帰ってきた。砂を飛ばして急停止して俺の目の前にお座りする。わふわふと鼻息が荒い。


「どうしたぶちこ、なにかあった?」


 見上げる俺に「わふっ」と大きく頷いた。走ってきたほうに前足をのばして「わふわふわふわふ」と何かを訴えてきてる。


「うーん、何を言っているかわかればなぁ」


 残念ながら犬語はわからん。ぶちこはそれでもわふわふと訴えてくる。よほどのことなんだろうか。


「わふわふう」

「ふぉ?」


 お辞儀するようにぺこりとしたぶちこに、俺は咥えられた。うつぶせ状態でお腹のあたりを噛まれてる。甘噛みだからか痛くはないけど、目線が急に高くなって非常に怖い。

 突然ぶち子が走り出した。


「ぬぉぉぉぉぉぉちょっとぶちこ! こえぇぇぇぇ!」


 一瞬で加速して、景色が流れていく。通勤電車より速い! 


「揺れない。揺れないけど速すぎてちびりそうだぁぁぁぁぁぁ」


 ぶちこの走り方がいいのか頭が動かず俺はほぼ揺すられないけど生身で景色がぶっ飛んでいく速度はやめてぇぇ!


「ぎゃぁぁぁあ」


 生まれて初めて絶叫してる。絶叫してるよ俺!

 どれくらい絶叫したかわからないけど、視界に廃墟以外の何かが見えた。ぶちこがずざざざざっと急停止する。


「おうっふ」


 止まってすぐに降ろされた。地面に接して、少し落ち着いた。

 俺が降ろされた地面には大小さまざまな骨が大量に転がっていて、その近くには腹のあたりを血で赤く染めて倒れている女の子と、その子に縋りつく女の子の姿があった。ふたりとも血で湿った砂にまみれていた。


「な、なんだこれ……」

「ベッキー、起きてください! くぅ、ポーションがあればこれくらいの傷はどうにかなるのに!」


 縋り付く女の子の涙声が胸に刺さる。


「わふっ」


 ぶちこが俺を見てきた。何をして欲しいのか瞬時に理解できた。


「あの、ちょっといいかな」


 声をかけると、縋りついている女の子が俺を見てきた。彼女の顔は涙でボロボロで砂だらけでよくわからないけど、若い女の子っぽい。

 俺を見て、目を大きく開いた。


「貴方、人族!?」

「え、人、ではあるけど」

「黒い髪、貴方ベルギスの!」


 女の子が急に睨みつけてきた。俺、何もしてませんけど。


「わふっ」


 ぶちこがその子の脇にしゃがみ、顔をペロッと舐めた。女の子はハッとした顔になって、ぶちこの顔を撫で始めた。


「あ、あなた、助けてくれた子よね」

「そのこはぶちこって名前の、ワンちゃんだよ」

「ぶち、こ? ワンちゃん?」

「顔の模様がぶち模様でしょ。っと、何があったか知らないけど、倒れてる子を診させてもらうよ?」


 涙だらけの女の子に断りを入れ、倒れている女の子の脇に膝をついた。出血は砂に吸い込まれているみたいだ。どくどくと流れ出てるのが見える。かなりの量だ。胸につけてるプロテクターみたいのは動いてるからかろうじて呼吸はしてるんだろう。でも動きがだいぶ小さい。急がないとヤバいな。

 出血していると思われるところに触れ手当イタイノイタイノトンデケーと念じると、彼女の身体が緑の光に包まれた。ぶちこの時と同じだ。


「……まぁ、大丈夫でしょ」


 確証なんてないけど、そういい切れるだけの自信はあった。俺の身におかしなことが起き続けてるから感覚がマヒしてるのかも。

 緑の光が消えたら、彼女の出血は止まっていた。だが起きてこない。意識が戻らないのかも。ともかく命の危機はどっかに追いやれたでしょ。


「ふぇぇぇ」


 体から力が抜けてドスンとしりもちをついた。ついでに改めて周囲を見る。

 周囲30メートルくらいにすさまじい数の骨が散乱している。地面が白く覆われてるレベルだ。大きな骨だと俺の身長の半分くらいの長さがあった。ぞっとする景色だ。


 血を流して倒れていた子は、茶色のプロテクタ-というか鎧というか、そんなものをつけている。近くには大きな木の盾みたいなのとデカイこん棒も落ちてる。この子のものなのかな。

 涙でポロポロだった子は背中に弓を背負っていて、この子も茶色いプロテクターみたいなのをつけている。ゲームなんかでよく見る恰好だった。

 ふたりとも砂(まみ)れなうえに血と涙で頭から顔から足元まで酷いもんだった。

 弓を背負っている子は目を丸くして俺を見ている。


「あ、この子はもう大丈夫だから。で、ついでに――」


 清掃と念じた。

 ふたりについていた砂やら血やらは跡形もなく消え去って、顔の肌色が見えた。服も洗いたて並みにきれいになった。白というか灰色というか、素材感そのままの長袖長ズボンだね。

 倒れている子はふくよかというか、ぽっちゃりとした子で、身長はおれよりも小さそうだ。ヘルメットみたいのをかぶってるけど赤い癖っ毛がはみ出してる。

 俺を見ている子はすらっとしていて俺よりも身長が高そうな感じ。この子の髪は、薄い金色だ。砂にまみれてたから白いのかと思った。気がついたけど、耳が横にみにょーんと長い。なんだろ、触ってみたい。


「あ、あの」


 耳が長い子が話しかけてきた。細面の綺麗系な子だ。よく見たら顔にいくつか切り傷がある。


「あ、君も怪我してるんだ」


 この子にも手当スキルをかけようか。


「さってとととおお?」


 立ち上がろうとしたら腰に力が入らなくなてお尻からコロンと転がった。よく見たら足もガクブルしてる。


「あはははは、腰が抜けた。あはははは」


 笑うしかないけど、俺にしては非現実的な高難易度ミッションだったんだ。足も膝も笑うって。

 ぶちこの時は犬って思えたから血を見てもそれほど衝撃はなかったけど、人が倒れてて血まみれだと、ね。よく動けたよ俺。


「わふう」


 ひとりで笑ってたらぶちこに噛まれた。また持ち上げられて、耳長の子の近くに降ろされた。

 耳長の綺麗な子は唖然とした顔で俺を見て固まっちゃってる。


「ちょっと失礼するねー」


 彼女の額にそっと触れて手当イタイノイタイノトンデケーと念じた。彼女の体も緑の光に包まれた。緑の光に包まれたらキョロキョロ落ち着かない様子で自分の体を見ている。そりゃ不思議だよね。俺も理解できないもん。


「痛みが、無くなってます?」


 耳が長い子が呟いた。

 ぶちこが俺をペロッとなめてくる。どうやらミッション完了のようだ。

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