第百十二話 ギルドに依頼
善は急げとアジレラに戻る。もちろんぶち子に乗って超特急の上に空をカットんで行くけどすでにお日様は地平線の荒れ地の下に沈んでしまった。アジレラについたのはベッキーさんのおなかが我慢を超えてしまった20時過ぎくらいだ。ベッキーさんは耐えてたけどお腹がSOSを出し続けてるので板チョコの糖分でごまかしてた。夜だし暗いしどさマギで防寒着のままアジレラのギルド前に降りる。クッソ熱いので防寒着はすぐに脱いだ。リーリさんに取られてどこかにしまわれてしまった。
「いくよ!」
「まずはギルドで魔道具収集の依頼をかけましょう」
ベッキーさんに左手を取られりーりさんに背中を押され、おどおどしながらギルド内に入る。もう暗いのでハンターの姿もまばらだ。
受付カウンターにはあの疲れた感じのうさぎ獣人の男性がいる。でも今日は目の下にクマがない。
「お疲れさまです、ベンジャルヒキリ様にリャングランダリ様。おっとダイゴ様もいらっしゃいますね」
すごく爽やかなに挨拶された。
「ビレトンッグさん、元気そうだね!」
「えぇ、顔色もよさそうですわ」
「ヴェーデナヌリア様が大森林で色々とってきてくださる魔道具などでギルドが潤っていまして」
うさぎ獣人さんがにこやかに話してくれる。なるほど、魔道具は高いから利益もいいわけだ。
「その魔道具の依頼をしたいのですが」
リーリんが切り出してくれたけど、その際に俺の背を押してもくれた。あとは俺が説明しろってことね。
押されれば仕方ない、俺が前に出る。
「壊れててもいいんで、ともかく魔道具を集めたいんですけど」
「壊れてても良いので? おっと失礼しました、わたくしギルド受付のビレトンッグと申します」
ウサギ獣人さんが丁寧に頭を下げた。
「色々ありまして、回転する魔道具が欲しいのですけど、魔道具ってその形からじゃなんだかわからないじゃないですか」
ただの石から炭酸が出るとかフラスコで蒸留できるとか分かるわけない。
「なるほどなるほど、確かに使ってみて初めて分かるのが多いですね。特に大森林産の魔道具に関しては動くものの使い方が不明なものも多いですね」
うさぎ獣人さんことビレトン……ッグ?さんが頷く。この人はビレトンさんでいいや。
「で、俺が作ったクランでも魔道具集めをするので、えっと連絡とかどうするんだろう?」
「お地蔵さまの手、ですよね。それはギルドでも可能です。所属するハンターがギルドを訪れた際にも連絡いたしますので。えっと、現在12名となっておりますが全員でしょうか?」
「12人!?」
あれ、そんなにいないはず。ベッキーさんとリーリさんとあの双子とオババさんだったと思うけど。
「あ、オババから女性のハンターの引き受けを頼まれておりまして、追加していましたのを伝え忘れておりました!」
リーリさんが手をパンと叩いた。
今しがた思い出したって雰囲気出すのやめてくださる? 知ってたでしょ?
テヘペロされても「はいかわいいー」としかならないからダメです。
「女性ハンターなら、まぁ保護の意味合いが強いからいいけど。でもその子たちって俺のこと知らなくない?」
「商会で似顔絵を依頼してそれを見せておりますので」
「……わぁ、俺の知らないところでばらまかれてるー、って水神様と一緒か……」
仕方ない。俺が自由に生きてる代償だと思えば。
「でもその子たちだと厳しくない?」
3級のベッキーさんとりーりさんでもハンターとしての生活が苦しいんだし。
「アジレラで壊れた魔道具を探すくらいはできますわ」
「壊れてる魔道具は、投げ売りされてるよ!」
「見つけてくれれば買うのは商会でもできますし」
うん、ふたりのプッシュが激しい。依頼だったら報酬がもらえるからかな。
まぁ作っただけで放置もダメだよね。
「えっと、じゃあそんな感じでいいです?」
ビレトンさんに向き直したら彼はせっせとメモをしていた。結構有能な人っぽい。
「えぇ承知いたしました。持ち込まれた魔道具はいくらで買取されますか? 稼働する魔道具は、最低でも10万ペーネはします」
「うーん、まぁそのくらいはするよね」
便利さを考えればすぐに元は取れちゃう。
「壊れた魔道具は如何程にしましょう」
「稼働する魔道具がそれくらいだから、でも探す手間もあるし、5000ペーネかな」
「どこかで購入した場合はどうするかなど、詳細を詰めたいところですね」
「あ、そっか。買える場合もあるんだ」
ということで、りーりさんを交えて詳細を詰めた。ベッキーさんはお腹が空きすぎて倒れそうだったから併設されている酒場でぶち子と一緒に食べてもらってる。
買ってきた場合は3000ペーネとした。円に直すと3万円ほど。高いって言われたけど、安いとやってくれなさそうだなって。時間がないんだよね。
それに彼女たちも生活が懸かってるんだし、そもそも魔道具の数も少ないだろうし。やる気を出させるにはお給金は大事な要素。俺だってお給金が欲しいから職安に行ったんだしさ。
支払い用のお金に関しては商会に請求という形で、後日俺が清算という形。ウィスキーとブランデーの売り上げでおつりがくるって言われたけど、そんなに儲かっちゃうのかな。
「では、依頼書を貼っておきますので」
にこやかなビレトンさんに見送られてギルドを後にした。夜も更けてしまったので教会に行くことに。ベッキーさんとリーリさんは商会に行くとのことで、ぶちこと一緒だ。
「大森林に行くとするとメンバーは、ふたりにオババさんんにマヤとトルエかなぁ。あ、サンライハゥンさんもいけるかな」
町はずれにある教会に続く道を歩きながら指折り数えてたら「あれ、北にいったんじゃん?」と声をかけられた。声のしたほうを見ればランタンみたいな明かりを持った狐娘ふたりがいた。
「あー、色々あって魔道具を探さないといけなくなって、大森林に探しに行くんだ」
「大森林じゃん?」
「無理、死」
ふたりはよほど驚いたのかふさふさしっぽがビヨンと立ちあがった。
「人数が多いほうが見つかるのも早いだろうからふたりにも行ってもらうつもりだけど」
「あああたしらじゃ大森林の魔獣には勝てないじゃん!」
「死別、涙」
「オババさんも行くし俺も行くし、そもそも魔獣を倒しに行くんじゃなくって魔道具を探しに行くんだから」
ここで不安を増大させちゃいけない。安心安全を確保して訴えられればいいんだけど俺にその力はない。
狩りではなく探索で、しかも壊れていてもいい魔道具だ。日帰りは無理だろうから泊まる設備は必要だろうけどあの部屋だと狭いしベッドがひとつしかない。しかも男は俺だけというハーレム状態だけどその実は大違いだ。
この狐娘には警戒されてるし、オババさんはオババさんだし、サンライハゥンさんも俺には含むところがあるだろうし。
あれ、俺の命って割とやべー状況?
「おやおや、こんなところにいたのかい」
教会のほうから巨躯のエルフばあさんが歩いてきた。
「あの子から連絡があってねぇ。大森林に行くそうじゃないか」
オババさんが嬉しそうに頬を緩めてる。狩りに行くわけじゃないと説明しないと。
「魔道具を探しに行きたいんですよ」
「あぁそう聞いたさ。姪っ子と行くのが楽しみさ」
オババさんがふふふっと笑う。でたなバトルジャンキー一族。リーリさんって、割と好戦的なんだよ。これも血だよね。
「さっき商会で拠点を買うって行ってたけど日も暮れてるしそろそろ戻るはずだよ」
「拠点……」
なんだろう、嫌な予感しかしない。家とかじゃなくて城とか持ち込みそうで怖い。
「それって、あたしらもじゃん?」
「当然さ」
オババさんに言い切られた狐娘ふたりは唖然と口を開けた。さすがにオババさんに意見しようとは思わないようだ。まぁ気持ちはわかる。




