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第百八話 氷原を行く

 眼前に広がるのは白の世界。荒地から突然始まるなんて聞いてない。ちょっとずつ寒くなっていくって配慮はないのか。

 荒地から続く道は白い世界にまっすぐつながってる。じゃあまずはそこに行こうと地表近くまで降りる。もちろん防寒具は脱いで。

 境界線に来たけど、こう、10メートルほどの高さの氷の大地がいきなりドカーンて現れてるのは何で?と言いたくなる。


「これ、氷なの?」

「冷たいですわ!」

「こっちは暑いのに氷が溶けない謎……」


 常夏の空気にさらされている氷の表面はバッキバキに硬い。殴ったら俺の手が壊れるんじゃないかな。溶ける要素ゼロだ。

 道は氷の大地が削られたゆるい傾斜の坂道につながっている。竜車でも行けるようにだろうか。でも寒すぎてトカゲじゃ無理な気がする。


「ここから先は防寒着を着ないと死ぬかもしれない」


 いやな予感がする。とんでも環境はありうるし。でもここから先に道が続いてるってことは行ってる人はいるし、この先に誰かが住んでいる可能性が高い。 あ、北限で困ってるって人がいるのはその人らなのかな。


「ともかく、防寒着を着て行ってみよう」


 暑い荒れ地で汗だくになりながら防寒着をきた。ベッキーさんもリーリさんも暑い暑い言いながらも頑張ってる。ごめんよ。

 完全防備になったので早速境界線を越えた。

 途端に気温が一気に零下まで下がって防寒着を着ていても寒いくらいになった。


「寒い! いきなりすぎる!」

「さささささ寒いですわ!」

「鼻水が凍っちゃうよ!」

「わっふ!」


 俺たち3人は寒い寒い騒いでるけどぶちこはそれに合わせて吠えただけらしい。余裕な感じでしっぽを振り振りしてる。そして走りたそうにしてまでいる。雪が降れは犬は駆け回るのだ。

 帽子と手袋とマフラー完備でようやく涼しいくらいになった。


「とりあえず坂を上っていこうか」


 氷の壁が両側に聳え立つ氷の坂を慎重に歩いていく。勾配は緩やかだけど滑りそうで怖い。豪雪地帯の春の映像が思い浮かぶ。あんなところに行ってみたかったな、ってここも同じかそれ以上のおかしなところか。


「このような場所は初めてきます。迫ってくるような氷の壁の迫力がすごいですね」

「この氷、硬くて割れないよ!」


 ベッキーさんが巨大なハンマーで氷の壁をドカンと叩いたけどすごい音がしたくらいで壁には変化なしだ。音がするだけで微動だにしない。

 あのハンマーを耐えきるとは。


「氷の神の作ったものなので、そう簡単に壊れることはないのでしょう」


 リーリさんはそう推測してる。

 300メートルほど歩けばやっと白い大地の上につく。そこは、北海道なんかで見ることができるダイヤモンドダストで眩しいくらいの世界だった。

 真っ青な空に真っ白な氷原が地平線まで続いてて、空気がきらきら光って、妖精がいるみたいな幻想的な景色。ちょっと声も出ない。


「すごい! どこまでも真っ白!」

「空気がきらきら光っていて、きれいですわ!」


 ふたりは興奮気味で、先に行きたそうにそわそわしてる。ぶちこは言わずもがな。


「歩くかぶちこに乗るかだけど」

「歩く!」

「歩きますわ!」


 即答だった。


「知らない場所だもん。自分で歩いてみたい!」

「きれいな景色をゆっくり見ながら歩くのもハンターの楽しみですわ」


 ふたりの返答を聞くになるほどと思う。山を登るとか森を歩くとか秘境を求めてあっちこっちと行く人はいるもんね。ぶちこには迷子にならないない範囲で好きにしていいと告げたらあっという間に走ってどっかに行ってしまった。ぶちこが走ると雪煙ならぬ氷煙が上がるのでどこにいるかはわかるけど、この氷を砕いて走るとは……。

 氷原を突っ切る道は、なんとなく道?という感じで多少色が違うかもレベルで頼りないものだ。一面真っ白だから道に迷ったらあの世行き確定だ。ここも生きていくには厳しい世界だ。


「なんとなく、胸が痛い!」

「呼吸をすると胸が痛みますね」


 ふたりが異常を訴えてくる。


「たぶんだけど、空気が冷えすぎててそのまま体に入って冷たい感覚が痛いになってるんだと思う。ゆっくり息をするのがいいかも」


 ブラック設計屋時代にマグロの冷凍庫を見に行った時に同じように胸が痛かったことがある。それとこれが同じかどうかは不明だけど、深呼吸すると肺が凍りそうではある。


「ふっー、ふっー」


 ベッキーさんが小さく静かに息を吸う動作を繰り返してる。


「ベッキー、そこまで慎重にならなくても大丈夫ですわ」


 リーリさんはマフラーを口元にあてて布を透過するときの摩擦で空気を温めてた。なるほど、それがあったか。


「こうすると、胸が痛くなくなりますわ」

「わ、便利だ!」


 ベッキーさんは顔のほとんどをマフラーで隠してしまった。まぁ寒くなければいいか。

 そんなことをしながら歩いているが、前方には氷原しかない。建物らしきものはさっぱりだ。


「この先に村とかあるんだろうけど、どれくらいの距離なんだろ?」


 歩いていける距離なのかどうか。防寒着のお陰で寒くはないけど歩きっぱなしはつらい。休憩だって地面は氷で冷たいから座っちゃうと体の芯から冷えちゃいそうだし。


「うーん、北限にある村はひとつだけで、ホワイトベアー族が住んでいるということは知識としてあるのですが、どれくらい遠いのかはわからないですわ」

「ホワイトベアー族」


 直訳すると白熊族。まぁまさか。


「ひたすら歩くのも危険だし、ぶちこに乗せてもらったほうが安全だね」

「わ、そうすると景色もいっぱい見れる?」

「どこまでも氷原かもしれないけど」

「それでもきれいだもん!」


 ということでぶちこを呼ぼうと考えてたら猛スピードで帰ってきた。走りまわって満足したんだろうか。

 3人でぶちこに乗って、小走りくらいの速度にしてもらう。速いと空気がさらに冷えちゃって防寒着でも耐えられそうにない。

 自転車をこぐくらいの速度で氷原を走る。歩いてると気が付かなかった氷原の凸凹がわかるようになった。緩やかな丘になっているところもあるし、ちょっと窪んでるところもある。まったいらではないあたり、理由はありそうだけど考えても思いつかない。なにせ物理法則先生が息をしていない世界だ。俺の考えなんて休むに似たりだろうさ。

 そんなことを考えつつ走ること1時間ほどで、巨大な構想物と思われる天辺が見えてきた。工場のようでもあり学校のようにも見える。近づくにつれ判別していくそれは、高さはそれほどでもないけどやたら横に大きい、氷でできた構造物だった。


「でっかぁぁぁぃ!」

「なんだこれ」


 アジレラなんかはコンクリートの建物が多かった。それと石造りにレンガ造り。木も石もないここだと建築材料が氷になるんだろうか。


「もしかしたら、これは壁なのかもしれません」

「あ、そっか。村らの防備とかで壁があるもんね」


 それなら理解できる。というとは、あれ以上の高さの建物はないってことでもある。ないってことは必要がない。つまり、人口は多くはないってことかな。

 こんな極限な環境に住める人ってのは多くはない。ここに住んでいる理由も気になるな。わざわざここに住み続ける理由が。


「門みたいのはどこだろう?」

「道が続いている先にあるのが普通ですが」

「あ、あれっぽいよ!」


 ベッキーさんが指さしたのは、そこだけちょっとだけ氷の色が青くなってる部分だ。ちょうど道がまっすぐそこにつながってる。


「出入り口はたいてい開閉するんだけど、あれって氷のまんまに見える」


 どうなってんのと思うけど、まぁ、行けばわかるでしょ。

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