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第百四話 イゴール村

 聖なる山を出てすぐ高度を上げた。ゴーゴーと風を切る音が騒がしいけど雲ひとつない空を駆けていくのは気持ちがいい。下さえ見なければ。あと。


「寒すぎ!」

「さ、さむい!」

「こんなに寒いのは初めてですわ!」


 3人とも叫んだ。

 高度がどれくらいか知らないけど聖なる山の周辺がすっかり見えるくらいの高いと気温が半端なく低い。動いてるわけじゃないから酸素とかは平気なんだけど鼻水が止まらない。北限はもっと寒いはずで。


「防寒着は必須! ぶちこ、ちょっと高度を下げて!」


 ぶちこの背をペシペシと叩いて合図する。わっふぅと返事が来て高度が下がり荒れ地が近づいてくる。大きめな集落が見えた。


「エルエッサ村ですわ」

「もうここまで来たの?」

「ぶちこちゃん、はやい!」


 空を制限なしに走れるのがうれしいのかぶちこの速度がパナイ。リーリさんはが風よけとして風の魔法で障壁のようなものを正面に作ってるからだいぶ低減されてるんだけど風圧はすごいのよ。向かい風オールバックなベッキーさんは楽しそうだけど。

 新幹線並みの速度でエルエッサ村を通り過ぎたらすぐに芋の村だ。広大な畑に土に這いつくばる蔦のような海が見える。その中にポツンと小島が浮かんでる。それが芋の村だ。正式な名前は忘れた。


「もう芋の村?」

「さすが、ぶちこちゃんだね!」

「北に向かう道も見えますわ」


 背後のリーリさんが腕を伸ばして指し示すさきには、荒れ地に埋もれて消えそうなくらい細い道がまっすぐ北に延びている。道行く人影や竜車の姿もない。

 水が乏しい地域に向かう人は少ないんだろうか。


「徒歩だと3日と聞いています」

「ぶちこだと今日中にはついちゃいそう」

「きっと、もっと早いよ!」


 芋の村上空で右に急旋回したぶちこはさらにスピードアップした。

 岩山を避けたり砂漠地帯を避けたりとか細い道はグニャグニャ曲がりながら北に続いてる。芋の村からそろそろ1時間経つかなって時に、地平線の端っこに建物が見えた。荒れ地の中にあって、レンガ造りの平屋ばかりで、本当に村という感じだ。井戸は何カ所かあって、ささやかながら畑も見える。作物の緑が見えるから、水不足は解消されたのかな?


「あ、白い砂羊ちゃんがたくさんいる!」


 ベッキーさんが目ざとく見つけてアッチと指さす。村を超えた荒れ地というか砂漠に小さな白い点々がぞろぞろ動いてるのが見えた。白いアリンコにも見える。なんかかわいらしい。


「あ、でも毛はかられちゃってるね」

「どうやら毛刈りの時期は終わってしまったようですわね」

「もしかしたら村で売ってるかも?」

「おそらく販売はしていないかと。わざわざここまで買いに来るのは商人だけですので」

「なんとー!?」 


 それは困る。防寒着なしで寒いところなんでいられないって。


「ともかく行ってみよう。ぶちこ、そろそろ地面に降りよう」

「わっふぅ!」


 村の手前の道に降りてから歩いて向かう。いきなり村の中に降りるとまずいでしょ。

 とはいえ、柵のようなものもなく、まぁ、盗賊とかもここまではこないんだろう。

 村の入り口にはもう掠れて読めない文字が書かれた金属の板がある。イゴール村って書いてあるんだろうな。

 村というか集落というか。人口が300人くらいって話も聞いてたんだけど、限界集落のようにも通じる寂しさがある。

 道が村の中にそのまま続いてるんだけど、両側に店があるわけでもなく、ただ住居があるだけ。見えないだけかもだけど、販売はしてなさそう雰囲気が強い。


「イゴール村は砂羊の村と聞いてはいましたが」

「ちょっと寂しいね」


 ふたりもそう思ったらしい。とはいえ人がいないわけではなく、小さな子供もいる。


「おじちゃんたち、どこから来たの?」


 5歳くらいの獣人の男の子に見つかった。住居の入り口からこっそり俺たちを覗いてる。警戒するよね、そりゃ。


「おねーさんたちはねー、砂羊の毛が欲しくって来たんだけどー、売ってるかわかるー?」


 ベッキーさんがにぱっと笑顔で話しかける。子供の扱いはベテランなベッキーさんに任せるのが一番だ。


「ぼくわかなんない。あっちにおとうがいる」

「じゃあお父さんに聞いてみるね! ありがとう!」


 ベッキーさんが手を振ると、その子は隠れてしまった。人が少ない村で、村外の人にあまり会わないから人見知りなのかもしれない。


「教えてもらえたから、行ってみよう!」


 ベッキーさんを先頭に、村の中へ歩いていく。家からは声が聞こえるけど、訪問する勇気はない。ぴしゃんて戸を閉められちゃったらショックだもん。

 ちなみに武器は出していないので、盗賊とかに間違われることはないと思う。たぶん。

 少し歩くと広場のような場所に出た。そこには大人が数人屯してる。みな獣人さんで俺と同じか上くらいに見える。ただ栄養が良くないと歳を食ってるように見えるから、外見だけで判断は難しいんだけど。


「あんたらはなんじゃ、見ない顔だが」

「どこから来た?」


 ちょっと警戒してる感じで声をかけられた。そこ近寄るのはやめておく。


「あの、アジレラからきまして。砂羊の毛が欲しいんですが、販売とかしてます?」


 俺が尋ねるとお互いが顔を見合わせてる。怪しいかどうかのチェックだろうか。いきなり知らない人間がこんなところまでくれば怪しむよね。


「ちょうど毛刈りが終わって出荷しちまったとこだ」

「あと数か月たたねーと羊の毛が生えないぞ」


 残念な答えが返ってきた。


「空から見たら羊さんの毛がなかったもんね」

「タイミング悪かったなー」

「困りましたわね……」


 いきなり躓くとは思わなかった。俺たちがあからさまに困ってるからか、声がかかった。


「そんなに羊の毛がいるんけ?」

「あー、訳あって北限に行かないといけないんですよ。それで防寒着を作りたくってですね」

「北限ん?? なんしに行くんだ?」

「北限で水に困ってるとかで、解決しに行くんですよー」

「「「水に困る!!」」」


 獣人さんらの声が重なった。そういえばここも水不足で困ってたはず。この人らは肌艶もいいし困っていない感じだけど。


「イゴール村も水で困っていと聞きましたが、大丈夫なんです?」

「あー、あんちゃんみたいな水色のローブ着た水の教会の人が来て、井戸に水を戻してくれたさ」

「でっけー熊のねーちゃんだったなー」

「連れの男二人がいて、飛竜で飛んできたな」

「風の教会のなんだったけ?」

「ダライアスつったっけ?」

「ほんと、ぎりぎりで助かったな」

「ほんとほんと」


 獣人さんらはなにやらしみじみと語りだした。

 熊の獣人の女性。背が高い。


「ダイゴさん、もしやエラン教皇では?」

「かもしれない」

「それと、風の教会のダライアスといえば、教会トップの座主ですわ」

「……なにそれ。教皇様と風の教会のトップが何で一緒に?」

「わかりませんが、風の神様の御指示があった可能性があります」

「……水の神様が面白そうなことやってるからついていけって感じかな」


 いやー。神様たち、フリーダムすぎるでしょ。


「あの、もしかしたらその女性はエランと仰ってませんでしたか?」

「おー、エランっていってたなー」


 リーリさんが聞いてくれた。もろにビンゴだ。


「ちょっと歳食ってるけど別嬪さんだったな」

「あんたらも別嬪さんだがな、ガハハ」

「俺の嫁と交換してほしいくらいだ」

「まーた嫁さんに縛られて吊るされっぞ!」

「がはは、もう慣れたさ!」


 酔っぱらいの駄弁りになってきたな。中断させないと止まらないなコレ。


「あのー、やっぱり羊の毛はなさそうですか?」

「うーん、水の困りごとと聞いちゃ無下にはできねーが。そうだちょっと村長を呼んでくるで、そこでまっとりゃ」


 獣人のひとりがだだだっと走っていった。

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