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第九十八話 双子の狐娘アゲイン

 隙間の先は岩をくりぬいたような壁で覆われてて、すれ違える程度の幅がある。炎柱の周囲を回るような螺旋階段になっていて、誰かしらが入って出ることを想定してる作りになってた。


「エルエッサ鉱山を思い出すなぁ。入りやすく出やすい。自然じゃできないよねこれ」

「わ、階段の先が騒がしい!」

「魔獣だ囲め、と聞こえてきますわ」


 魔獣とは穏やかじゃない。危険は危ないと書くんだ。


「……えっと、急用を思い出したので引き返します!」

「ダメですわ」

「えーそんなー」


 リーリさんに背後からしっかり抱きかかえられてしまった。リーリさんの方は背が高いから足が浮いたまま運ばれて階段下まで来た。

 目の前には岩石のような氷の柱があって、その中心には炎の柱が透けて消える。明かりは炎の柱しかないので遠くは闇に包まれてさっぱりだ。

 炎の明かりで見える天井は岩盤だった。何かで削ったかのように凸凹が目立つ。

 空気がヒンヤリしてるのは氷のせいか。でも湿気が多くて不快指数は高そうだ。なんだか香辛料っぽい匂いがするんだけど気のせい?


「そっちに行ったぞ!」

「うわぁ来るなぁ!」

「ウグワー!」


 少し遠くの方で怒鳴り声と悲鳴がこだました。そっちに意識を向ければ、炎に包まれた巨大なカメレオンがハンターらしき人影を尻尾でぶっ飛ばしている場面だった。燃えているカメレオンは、ざっと5メートルはありそう。よく見るとあちらこちらが赤く光ってるから、結構な数がいそう。

 にしても。


「なんでカメレオン? なんで燃えてるの?」

「あれは、もしやサラマンダーでは?」

「サラマンダー?」


 ゲームとかには必ず出てくるし有名だけど、俺の思ってたのとだいぶ違う。なんでカメレオンなんだぁぁぁ!

 リーリさんも聞いた話でしか知らないけど、主に火山火口に住み、火を食料とする魔物ではないかと。肉は辛みがあって珍味とされ、かなりの高額で取引されるのだとか。

 香辛料っぽい匂いがしたのは肉が辛いから?


「珍味と聞けば食べたくなるのは世の必定です。ブランデーにも合うにきまってますわ!」

「絶対、食べたい!」

「となれば狩り一択ですわ!」

「わっふぅ!」


 食いしん坊お嬢様たちがご乱心だ。サラマンダー(仮)が哀れに思えてきた。


「おら、3級の雑魚はどけ!」

「こいつはアタシらが先に狩ってたじゃん!」

「ハッ! 狩る腕もないくせにうるせーんだよ!」

「イタッ! ちょなにするじゃん!」

「サイ、アク」


 どこかで聞いたことのある声が、と思ったら、いつぞや会った魔法使いとスカウトだっけか、な金髪双子の狐娘が先ほどの腕白小僧たちに絡まれていた。魔法使いの子が腕で押しのけられてしりもちついてる。


「トルエとマヤですわ」

「ふたりも来てたんだね!」

「コルキュルの巡回も無くなってしまいましたし、稼ぐのが大変なのかもしれません」

「……ちょっと行ってくるね!」


 ベッキーさんが狐娘ふたりに向かって駆けだした。魔法使いがトルエでスカウトがマヤだったっけ。


「こらー、ハンター同士の揉め事は禁止だよ!」


 ベッキーさんが盾と巨大ハンマーを構えて狐娘ふたりを庇うように立ちはだかってる。背は低いかもだけど、どっしり構えるベッキーさんはカッコいい。


「なんだ邪魔するのかチビデブ」

「悪い子にはお仕置きだよ!」

「ギャハハ、3級に何ができるって?」

「えーい!」


 ベッキーさんがドスンとハンマーを地面に叩きつけるとゴゴゴと地下空間が大きく軋んだ。腕白小僧たちが腰を落としあたりを警戒する。


「次はやっちゃうよ!」


 ベッキーさんが叫ぶと、わんぱく小僧たちの顔に焦りが浮かぶ。


「アニキ!」

「ちっ、ここは見逃してやる」

「……次にあったら容赦しねーぜ」

「そうだぞー、わかったか!」


 捨て台詞を吐いて腕白小僧たちはそそくさといなくなった。ほんと、なにあれ。

 腕白小僧がいなくなったのでベッキーさんが狐娘ふたりを連れて戻ってきた。


「ベッキーさん、カッコよかった」

「わ、ほんと!」


 手を叩いて褒めればベッキーさんが嬉しそうににぱっと笑う。今日もベッキーさんの笑顔は花丸だ。


「……あの人族じゃん」


 魔法使いの娘は睨んできたけど口数も少なく、スカウトの方は無言だ。腕白小僧たちとのいざこざがショックだったんだろうか。いや、顔とかに煤がついてるから、サラマンダー(仮)からのダメージがあるのかも。


「トルエとマヤはサラマンダーを狩りにきたのですか?」

「とんでもないものができたから見にきたら魔獣がいるじゃん。なら狩れば金になるじゃん」

「コルキュルの依頼がなくなってしまいましたが相手はサラマンダーですよ?」

「……いろいろ入用だったじゃん」


 リーリさんとトルエの会話から察するに、金がないと。身体に装備してる革っぽい防具も欠けがあったりヒビがあったりとよろしくはない感じ。

 ベッキーさんとリーリさんはコルキュルに沸くスケルトンを定期的に間引きする依頼を受けてたって聞いてた。一回の依頼で数日かかるから複数のハンターが入れ替わりで巡回してるって。確か狐娘ふたりとは一緒に依頼をこなしたりしてったて。

 コルキュルにスケルトンが沸かなくなって仕事が減ったってことは……。


「……それって遠回しに俺のせい?」


 親玉をやっつけたのはぶちこかもしれないけど俺がいなければそもそもコルキュルにはつながっていないわけで。仕事を奪っちゃったのは本位じゃない。水神様が仕向けたかもしれないけど責任を感じちゃうな。

 かといってハンターでもない俺にできることはないしなぁ。

 何かを頼むとしても、あのカメレオンの肉が欲しいけどベッキーさんとリーリさんが取ってきちゃうだろうし。


「ん……あのカメレオン、何するんだ?」


 サラマンダー(仮)の1匹炎柱のある氷に近づいて、びみょんと舌を伸ばして氷をぶっ壊した。また舌を伸ばして炎柱に突き刺し、ベロンと炎をもぎ取って食べた。


「アイツら、炎を食べに集まったって感じ?」

「火が主食ならそうかもしれません」


 たぶん火の神様が絡んでるから、さぞかしおいしい炎なんじゃないかな、なんてのんきに考えてたら、そのサラマンダー(仮)がぴかっと光った。背中からパカっと割れてぬぬっと脱皮し始めた。その後はまた炎柱にアタックして火を食べ始めてる。

 炎柱付近にはくったりしたサラマンダーの茶色い抜け殻が転がってて、それが炎の熱で焦がされて腹を刺激する香辛料系のいい匂いが漂ってくる。嗅いだことのあるこの匂いはまさか。


「もしかして、カレーの匂い?」


 バッとサラマンダー(仮)の抜け殻を見る。

 遠くからだけど、わかるのは茶色い固形物だけ。


「あの抜け殻、取れないかな」

「あれを取ってくれば良いのですか?」

「もしかしたらすごいおいしい食べ物が作れるか――」


 も、といい終わる前にベッキーさんが抜け殻の大きな頭部を両手で掲げてガガガと引きずりながら持ってきた。


「取ってきたよ! すぐに作るの? おいしいんでしょ?」


 ベッキーさんは期待にうずうずしてなのか落ち着かない。


「ベッキー、トルエもマヤも怪我をしているようですので、部屋を出しましょう」

「美味しい食事もね!」

「わっふ!」


 トルエとマヤのふたりを連れ炎柱から距離を取った暗がりでリーリさんが2階建ての家を出した。あからさまに怪しいから隠れないとね。


「ちょ、リーリこれはなんじゃん?」

「ナニ、コレ。イミフ」

「トルエもマヤも中に入ってください、治療しますよ」


 リーリさんが唖然としてる狐娘ふたりの背を押して中に押し込んだ。

 1階は10畳くらいしかないので5人いると狭いけどそれは仕方がない。それよりも手当てが先だ。


「ポーションを出しますわ」

「あー、俺が手当てした方が安くですむから。ついでもあるし」

「で、ですが」

「いいからいいから」


 渋るリーリさんには断って、狐娘ふたりを椅子に座らせ、肩に触れて手当を念じる。ついでに清掃スキルもかけて顔の煤も綺麗にしてしまおう。ついでなら修繕で防具も直しちゃおう。

 ビカっと強く光るとふたりの顔の煤がなくなった。近くで見比べてわかったけど、そっくりすぎて服装でないと区別がつかない。


「な、痛みが消えたじゃん? 姉さんの顔も綺麗になってるじゃん!」

「オジ、ナニ?」

「オジサンなにしたって言ってるじゃん」

「スキルで治療して綺麗にしてついでに防具も直しただけだから。通訳も大変だね」

「大変じゃないじゃん。大変なのは口がきけなくなった姉さんじゃん」


 口がきけなくなった?

 無口なだけじゃなかったの?


「ダイゴさん、マヤは人浚いにあったショックでうまく話せなくなってるんです」


 リーリさんが耳元で教えてくれた。トラウマでなのか。

 俺のひどい勘違いだった。無口だって決めつけちゃダメだったな。


「無問題」


 マヤは目を閉じたまま、そうつぶやいた。

 そうは言ってるけど、辛いだろうに。


「お詫びとしちゃ安いけど、珍しい食事を作るから食べてってよ」

「オッサンが作るじゃん?」

「トルエ、オッサンではありません、ダイゴさんですわ」


 にこやかな笑みのリーリさんがトルエの顔にアイアンクローを決めた。


「あだだだ、顔面をつかむのは反則じゃん!」

「ダ・イ・ゴ・さ・ん、ですわ」

「わ、わかったじゃん、ダイゴさん。覚えたじゃん!」

「ぶっふぉ!」

「姉さん、笑わなくってもいいじゃん!」

「指跡、草」

「姉さんひどいじゃん!」

「あはは!」

「ベッキーもじゃん!」


 女が3人集まれば姦しいと言うけど4人いても姦しい。楽しそうなので俺はそっとテーブルを離れて調理の用意をする。作るのはもちろんカレーだ。

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