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第八十四話 エルエッサ鉱山(2)

 わふわふと走っていくぶちこの後をついていく。えーるえっさーえるえっさーと歌いながら鋭い金属音を立てる鉱夫たちの後ろを通ったり他のハンターとすれ違ったりしつつ、いくつかの分岐を過ぎた。もちろん帰り道なんて覚えてない。大丈夫、ぶちこが覚えてるさ。きっと。

 ぶちこが時折壁から飛び出してくるナニカを体当たりで瞬殺しているけど何が出てきたのかさっぱりわからない。


「気配的には、砂トカゲでしょうか」

「僕の記憶では、砂トカゲって弱くはないですよね」

「ぶちこちゃんは強いからね!」

「ぶちこちゃんて、いったい……」

「サィレン君、ぶちこは()()のワンコ。イイネ?」

「ア、ハイ」


 というような会話をしてるうちに、行き止まりについてしまった。そこだけ色の違う岩肌で、明かに堅そうだ。

 でもぶちこはそこの前に座って前足で岩肌をぺたぺた触ってる。


「この岩を掘れってことなのかな?」

「あたしのハンマーだと、衝撃でここらへんが埋まるかも……」

「わたしの矢ですと、穴しかあきませんわ」


 どうしたものかと手元を見る。聖ノコギリ(エクスカリバー)が震えているように感じた。俺を開放するんだ、という謎の声が頭に響いた気もしたけど、さすがにそれは気のせいだ。

 ベッキーさんとリーリさんの期待のこもった視線も感じるし、物は試しだと聖ノコギリ(エクスカリバー)を岩肌に添えた。

 はずだったけど、スッと刃が岩に吸い込まれた。そのままストーンと地面にまで刃が通り、岩が切れてしまった。板を切った時の記憶がよみがえる。このノコギリを使うときは気を付けないといけなかったと。

 またつまらぬものを斬ってしまった、という嘆きにも似た厨ニセリフが聞こえた気がしたけどスルーだ。


「わ、すごい!」

「ほ、本当に切れてる!」


 ベッキーさんとサィレン君が岩肌を確認しながら叫んだ。

 ちょっと調子に乗って1メートル角に切れ目を入れたけど、そこで俺の快進撃が止まった。周囲を切っただけで岩の背後はまだくっついてるんだよね。


「岩を切ったけどこれを壊さないとダメなんだなー」

「あったしのでばーん!」


 肩を落とす俺の横に意気揚々のベッキーさんが来た。世紀末覇者ばりにボキボキ指を鳴らしてる。ぽっちゃりかわいい笑顔のベッキーさんがそれをやると、軽くホラーだ。

 巨大ハンマーを野球選手のように構え、軽く一振り


「えーい!」


 気の抜けたフルスイングは岩を砕き、破片をそこら中にまき散らした。その中に、ソフトボールくらいの大きさの黒いの球体がある。リーリさんが手に取って掲げた。


「ベッキー、鉄が出ましたわ!」

「やったね!」

「幸先いいですねぇ」

「……こんな形で出てくるの?」


 俺だけが違う反応だ。みな知っていたらしい。鉱床はないとは聞いてたけとさ、なんだよー、教えてよー。


「普通でしたら鉄すらも出ないのですわ」

「何も出ないことのほうが普通と聞いてますね」


 リーリさんとサィレン君のエルフ常識組が述べているってことは、そうなんだろう。砂金を採るよりもギャンブルだ。

 ベッキーさんが岩を壊したけどまだ岩は続いてる。俺が切りベッキーさんが砕くを何回か繰り返すと、岩に隙間が見えた。向こうは暗く、指を差し込むと風を感じる。岩の向こうに空間があることがわかる。


「岩の向こうに空間があるみたいだ」

「わ、大発見!?」

「行くしかないですね!」

「商人的に、ここは行くべきかと」


 俺以外はノリノリだ。先の空間が危険とか、そんな助言はない。俺がチキンなだけだろうか?

 でもここで撤退しても行くあてはないし、まぁやってみようか。

 わずかに空いた隙間に聖ノコギリ(エクスカリバー)を差し込んでほんの少し力を入れれば地面までストーンと切れる。縦横に切れ目を入れれば、岩はズズーンと向こう側へ倒れた。ふわっと風が出てきて俺のほほを撫でていった。


「……あたりまえだけど真っ暗だってぶちこ行っちゃだめ!」

「わっふぅ!」


 止める間もなくぶちこが先に走ってしまった。暗闇からドカンバキンベキバキと嫌な音が聞こえてくる。


「中に何かいるようですがブチコちゃんの敵ではないでしょう」


 リーリさんがいくつかの燃える石を暗闇に放り投げた。鈍く照らされた中に、いつもの大きさに戻っているぶちこの姿があった。モグモグゴックンしてたので何かを食べたんだろうけど。ぶちこの足元には、銀色の人型が数多く転がっている。身の丈は3メートルを超えそうだけど、どれもこれも動かない。


「……知識でしか知りませんが、シルバーギガースでしょうか」


 リーリさんが右手の人差し指を顎に当てて記憶をたどっているようだ。


「シルバギガースというと2級討伐対象ですが、全身が銀でできているゴーレムのような魔物と記憶していますわ」

「わ。全身が銀なの!?」

「……これをドワーフに加工してもらって売れば、ぼろ儲けできそうです。明るくしたいので魔道具を使ってもいいですか?」


 サィレン君が野球ボール大の白い石を取り出した。シュッと撫でるとピカっと目が眩むほどに光りはじめた。サィレン君がそれを地面に転がすと暗闇だった空間を照らされた。


「わ、明るいね!」


 嬉しそうなベッキーさんが岩の開口をくぐって行ってしまう。「もぅ、行動は慎重にと言っているのに」とこぼしながらリーリさんも行ってしまった。サィレン君を見れば苦笑いをしている。いいコンビなんだよ、ふたりは。


「俺たちも行くかね」

「そうですね、魔物はいなさそうですし」


 俺たちも岩の開口をくぐった。空気がひんやりとしている。すえた臭いなどなく、逆にすがすがしいくらいだ。


「おーーー、結構広いなぁ」


 見えなかった空間は大きなドーム型になっていて、出てきた壁以外は土でできてる。1本の通路が先に続いていてるけど真っ暗でわからない。暗がりの先からはなにやら水の流れる音が聞こえる。


「あの先に地下水脈があるかも。だとすると、ここで水神様が遊んだ可能性が高いな」

「じゃあ、ここを掘ってみようよ!」


 やる気満々のベッキーさんが盾を取り出した。あれで掘るつもりなのか。リーリさんはナイフを取り出してる。みなやる気なのだ。


「じゃあ掘ってみるか!」


 各々が自分の道具で掘り出す。俺は聖ノコギリ(エクスカリバー)しかないし、これでやってみるか。


「わっふぅ!」


 ぶちこがガガガとすごい勢いで壁を掘り始めた。あという間に土が山になっていく。

 負けてられないなと壁に聖ノコギリ(エクスカリバー)を突き立てればぼろぼろと土が崩れていく。こりゃ楽でいいや。

 サィレン君はスコップで鼻歌交じりに掘って、ベッキーさんは豪快に盾を壁に突き刺してガッポリ掘って、リーリさんはナイフで慎重に掘ってる。うん、性格が出てるな。

 ぼろっと落ちてきた土の中に黒い球があった。手に持つと非常に重い。鉄だなこれ。

 鉄の球を脇に置いてまた掘る。たまに出てきても鉄の玉ばかり。うーん、土の神様の機嫌はよろしくないようだ。


「わ、あった! 宝石だよ!」

「宝石が出てきましたわ!」


 二人の興奮した叫びが同時に聞こえた。どれどれと野次馬根性で見に行く。


「ほら、これ!」


 とベッキーさんが見せてくれたのは、親指くらいの赤い石だ。ルビーだろうか、かなり濃い赤だけど透明度が高くて向こう側がくっきり見える。大きさもそうだけど、とにかく綺麗だ。


「私のはこれですわ!」


 興奮からか耳がピクピクしてるリーリさんが差し出してきたのはやはり親指くらいの深緑の石だ。エメラルドよりも濃い色がほうれん草っぽくてリーリさんが好きそうな感じ。濃いけども透明度は高くって、向こうの景色がゆがまないで見える。これまた綺麗だ。


「あ、僕にも出てきました!」


 ちょっと離れた場所を掘っていたサィレン君が叫んだ。見せてもらうと、ゴルフボールくらいの特大な紫の石だった。これも透明度が高くて、彼曰く、気泡が全くなくて透明度が高く、カットして磨けばかなり高額で売れるとのこと。ほくほく顔のサィレン君だ。


「くっそー、俺だけ坊主かー」

「ボウズって?」

「俺の住んでた国では、成果なしってことの例え、かな」


 釣りでの言葉だけど、ここで釣りって言ってもわからないだろうし。

 気を取り直して、掘るぞ!

 と気張ったはいいけど、掘れども掘れども鉄ばかりで宝石はおろか金も銀も出ない。あれか、物欲センサーを発揮してるのか?


「おなかすいたー」

「お昼のことを考えていませんでした」

「僕の箱に携帯食くらいならありますけど」

「ダイゴさんの食事になれちゃうと携帯食はちょっと……」

「だよね!」


 という女子ふたりの意見が通り、俺は坊主のまま鉱山を後にすることに決定された。もちろんシルバーギガースは持ち帰りだ。悲しみに暮れながら鉄の球を魔法鞄に詰め込んでいく。

 帰る準備をしていると、リーンという鈴のような音が響いた。


「あ、割れた!」

「宝石が割れました!」


 ふたりが揃って声を上げた。

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