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幕間二 上司と部下

「水神様、少々宜しいでしょうか」


 大悟に派遣されていた精霊あらため調理スキルさんは主である水神のもとを訪ねていた。


『なにかあったかの、調()()()()()()()よ』

「……水神様、そんな拗ねないでください」

『拗ねてなどおらぬわ、ぷい』

「ぷい、じゃありません」


 子供ではないのですよ?

 彼女は小さくため息をついた。


『お主はええのう、美味しい食べ物をお供えされて』


「そこですか……」

『我、偉いのだぞ?』

「はい、そうでございますね」


 悠久の時を経ているからこそ、癖のある性格になってしまっている主だとは理解している。

 だからといって認めたくはないが。


「それに関しては、大悟様にそれとなくお伝え致します」

『……期待しているぞ』


 威厳を保とうとしているが、ビッタンビッタンと尻尾がうねっているその姿に、尊厳は感じられない。

 これでも神々の中では()()が可能な善き神なのだ。それは彼女もわかってはいる。他の神は取りつく島もないのだ。


「それはそうと水神様、ぶちこちゃんをどこから連れてきたのですか?」


 水神はふいっと顔を逸らした。

 突然あの地に何者かが現れることはない。あそこは水神が結界を張り、何人(なんぴと)も寄せ付けないようにした土地だ。

 大悟にスキルを使わせるためにあえて怪我のまま連れてきたのだろうと、彼女は推測している。

 まさか水神が怪我をさせたなどとは僅かにも思ってはいない。

 あの犬は賢い。賢すぎる。明らかに大悟の言葉を理解し、助力を申し出ていた。また体躯は単純に強さに直結する。あの子は相当強いはず。

 それがぶちこに対する印象であった。


『大森林の最奥で一族のものに襲われておった』

「なぜそのような酷いことを」

『お主も気づいておろう。あやつにはフェンリルとケルベロスの血が流れておる。それも()()のじゃ』

「なんですって?」

『だからこその牛柄じゃ』

「水神様、わたくしが驚いたのはそこではなくって……純血の血を引いているということです」


 孤高の白と称されるフェンリルと地獄の門番と恐れられるケルベロス。性別も、接点すらもないふたつの存在。


『……闇の神の悪戯じゃ』

「……それは……」

『見えざる手で生まれてしまった子じゃ。ふたつの一族眷属からは迫害され、命からがら大森林の奥にたどり着いたところ、ということしかわからんかったわい』

「申し訳ありませんでした」

『お主は悪くなかろう。やらかしたのは闇の神じゃ。先ほど彼奴の住処を水浸しにしてやったわい』

「水神様GJです」

『なんじゃGJとは』

「異界で学んだ、素晴らしい仕事を称える言葉です」

『そうかそうか。まぁ、混血とはいえ純血直系じゃ。我が神水を原水で大量に取り込みかつ名も得た。二段進化くらいはしておろう。そこらの野良ドラゴンなぞ尻尾でびたーんじゃ。大悟の護衛にはうってつけじゃて』

「はい、ですが、少々問題が……」

『なんじゃ?』

「大悟様が、ぶちこちゃんの食費が(かさ)むと絶望しております」

『……よきに計らうのじゃ』

「報酬をお決めになったのは水神様でございます。ぶちこちゃんを送り込んだのも水神様でございます」

『むぅ、お主も厳しいのう』

「屋敷の倉庫には色々売れるものがあるのですが、今の状況ではどうにもなりません。ある程度外界と接点を持つ必要がありそうです」

『うーむ、あやつ(大悟)がそれを望むかであるが。まぁ、そうなるように仕向けてしまえばよいのじゃ。そうじゃそうじゃ』

「……人選は厳正にお願いしますよ?」

『異界の人間は酒池肉林を好むと聞いたぞ? なんじゃその白い目は……』

「……一応、わたくしも大悟様の御傍にいるのですが」

『ぬ、お主も加わるか?』

「そうではなくてですね」

『望むならいま一度下界に降ろしてもよいのだぞ?』

「……いまはまだ……」

『無理をするな、人の世に良い思いはなかろ。そうじゃな、外界との接触の際に水の供給を増やしていくかのぅ』


 水神は大きく頷いた。


『ばーーっと水を増やしてやるわい』


 水神はカカカと高笑いした。

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