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その6 収納整理

その6


あれから4日後の朝、私はD級冒険者として魔封じの森へと足を踏み入れていた。


東の森から戻った私は討伐部位や薬草を提出した。


かなり驚かれた上に昇格条件を達成したのでE級冒険者になれた。

 

それで気を良くした私は翌日に西の森、その翌日には南の森でゴブリン狩りを決行した。


東の森で慣れたので、それぞれ50匹以上のゴブリンと30匹前後の角兎、あとホブゴブリンやメイジゴブリン、ソルジャーゴブリンにアーチャーゴブリン、ゴブリンリーダーなど目に付くゴブリンを尽く狩りまくった結果、リューネさん始め職員の皆様からめっちゃ怒られました。


森の中で極端に一部の種が減ると、それを食べたり食べられたりしていた生物に影響が出るらしい。


言われてみればその通りだね。


ごめんなさい。


これ以上狩ると他のF級やE級が困る上に、森の外周部にまで中層やもっと奥の魔物が出てくるかも知れず、影響を調査するパーティーが各森に派遣された。


それとゴブリンの上位種だけど、何故か南の森に集中している事も問題になり、そっちの情報は一応褒められた。


もしかしたらゴブリンのより上位な変異種、ゴブリンジェネラルやゴブリンキング、下手するとゴブリンロードが生まれているかも知れないと言う話になり、南の森にはB級C級冒険者のパーティーが複数調査隊として送られたらしい。


今回のゴブリン騒動は功績と言うより汚点に近いものの、冒険者ギルドとしても取り過ぎ注意なんて勧告は出していなかったので、ギリギリセーフ、お咎めなしとなった。


そして冒険者ギルド的には不本意ながら昇格条件を達成した私は晴れてD級冒険者となったのだ。




色々やらかして疲れた私は、D級冒険者になったばかりだけど、宿で朝食をとった後、ゆっくり収納魔法内の整理をする事にした。


床に直接胡座をかいて座り、収納魔法を発動する。


ちなみにこの収納魔法、とっても消費が少なくて、品物の出し入れや収納先の空間の保持にも魔力、つまりはMPを消費しているはずなのに実感出来ない位なのだ。


流石にレベルやスキルレベルが低い頃は、「あ、1減ったよ!」とステータスウィンドウを見て楽しんだものだったが、レベルが上がるとそれすらも分からないほどだ。


どうやら消費より自然回復の方が上回っているらしい。


物を取り出す時、たまに空間の穴を出して使う事があるけど、実はなくても普通に使える。


イメージしやすいので穴を出す事はあるけど、普段何かを出し入れする時は、傍から見ると触れたら消えたり、気付いたら手に持ってたり、急にテーブルの上にポトッと落ちたりしたように見えるだろう。


気分の問題で使い分けてると思ってくれて問題ない感じだね。


そんな訳で今日は穴を出さず、脳内に収納された品々を表示した。


一番前に入れた食料品をイメージすると、元リンゴと表示が出た。


早速床の上に出してたら、りんごがナゾの消炭のように黒くて硬い物体になっていた。


「何これって元リンゴか。

いやでも時間遅延が掛かってるのに?

数十年、下手すると百年以上前に入れた物ってこと?」


他の食べ物も出してみたけど、ここ数日入れた記憶のある物以外全滅状態だった。


収納魔法の空間は何故か腐敗や発酵、カビが生える事もないので、干からびたり変色変形したり蒸発して残骸がお皿にこびりついていたりが基本だ。


ちなみに生き物も収納出来ないので、動物がミイラになっていたなんて事も無かった。


死んでいると普通に入れられるのに不思議だ。


「あ、食べ物以外も危なかったり?」


ちょっと危機感を覚えた私は経年劣化の可能性が高い物を確認し始める。


ロープや安物の服は黄ばんだりもろくなっているし、テントの布もぼろぼろだった。


天人の里産の衣類は全て無事だった。


ちなみに天女の羽衣と言う物があるけれど、これは変身同様天人の種族特性と言う名の謎装備で、変身同様着ようと思えば勝手に着た状態で現れる。


これが中々の優れ物だ。


見た目は優美で柔らか滑らかサラッサラで、飛行の補助具として、勝手に守る防具として、自動で判断して硬度を上げ武器としても使えるし、何なら器用に動いて手足の代わりにもなる。


背中の手が届かないかゆいところを掻く事も出来ると言えば、どれだけ高性能か分かるというものだろう。


目立つから使わないけど。


一応種族隠してるしね、面倒なの嫌だからさ。


無事な衣類を全て収納してから今度は金属製品を調べてみた。


テントを張るのに使う金具類やハンマー、その辺で買った安物の短剣や片手剣なども錆びて来てる。


命を預ける道具にこれはないわーと捨てる事に。


錆びてても金属は売れるのかな?


一応鍛冶屋さんに持っていってみよう。


ポーション類は見た目に変化はないけれど、どのくらい保つんだろ?


「お店で聞けばいいか。

駄目ならその場で買えるしね!」


ポーション類を割れないように布を間に入れたりして、まとめて木箱に入れた。


薬草を使った丸薬などは一回り縮んでいたので捨てることにした。


「アムリタとかちょっと高い品も捨てるの勿体ないし、薬屋さんで見てもらおう」


アムリタ以外にも天人の里で売っている薬品がいくつかあったので、それもポーション類の木箱に何種類か瓶を突っ込む。


アムリタが5本にソーマが7本、他にも色々とあるので木箱から溢れそうになる。


買った記憶は無くても、見た瞬間何なのか分かるって鑑定みたいだよね。


「そうか、鑑定すればいいのかっ?!

でも面倒だしお店見てみたいしなー」


やはり店で見てもらう事にした。


種類も数も多い上に、結構な時間整理をしていたので外に出て気晴らししたい。


何より面倒なんだもん。


武器防具やアクセサリーなど、ミスリル銀やオリハルコン、ヒヒイロカネなど魔力を帯びた物やドラゴンやフェンリルなど上位の魔物素材の物は錆びも朽ちもしていなかった。

 

3時間ほどかけて収納空間内の整理を終了させ、燃えるゴミや金属製品などそれぞれ分別してズタ袋に詰めて再び収納する。 


ポーションの空き瓶とか串焼きの串とかも沢山出てきて、ポイ捨てするのもなーと思って収納したままだったゴミも整理中に出て来たので、それも一応分別してある。

 

ゴミがかなりの量と種類になったので、宿屋さんのゴミ箱に捨てるのはどうよって感じだし、良い捨場を見つけるまで再び収納する事になった。


「行くお店と必要そうな品物をメモしてっと」


収納魔法で紙とペンを出したけど、どちらも普通に使える状態だった。


ペンは記憶に残ってて、成人の祝に長老から貰った物で、世界樹の枝を分けてもらって〜とか言っていた気がする。


そう言えばインクを足した記憶がないし、魔法の品なのかも知れない。


紙も普通の状態なのは、こっちは当たり前なのかもしれない。


だって天人族ってめっちゃ長寿だから、200年や300年で駄目になる紙とか困る訳ですよ。


色々読み返す必要が物もあるし。


だから人間からしたらかなり特殊な材料や製法で作られてても不思議じゃないんだよね。




宿屋の女将さん(食堂で注文受けてた人ね)に評判の良い薬魔法薬を扱う薬屋さんと、人柄の良さそうな鍛冶屋さん、それに冒険者向けの雑貨屋さんを教えてもらって出掛ける事にした。


雑貨屋さんが一番近かったので最初に立ち寄ることにした。


2階建てのそのお店は宿屋と同じ通りにある。


店内は奥行き20メートルくらい、横幅15メートルくらいで結構大きくて、ロープやテントセット、楔に小さい手鏡、その他目に付く物を適当に買うことにした。


勢いに任せて金属製と木製の食器類も4セット、外で使える鍋やフライパンなどなどの調理器具も買ったけど、後で考えてみたら私一人だし料理もしないよね?


まぁいいや。


そしてお次は薬屋さん。


マーレンさんという錬金術師で薬師な男性が製造から販売までしているらしい。


こちらのお店は縦横10メートルあるかないか位のちょっと大きめのお店だった。


所々に布や板で太陽の光を遮るようにしてあって、薬品などの劣化を防いでいる。


店先には花の咲いたハーブが植えられていて、結構入りやすい雰囲気だった。


店内に入ると薬草に煎じ薬や丸薬、ハーブティーやポーションなどがそれぞれ別々の棚に陳列されている。


そして店の奥にはカウンターがあって、そこにマーレンさんと思われる20歳前後の青いエプロンをかけた青年が立っていた。


緑がかった銀髪に優しそうな緑の瞳、すっと通った鼻筋に少し先の尖った耳。


ハーフエルフだった。


エルフの血を引いているだけあって、かなりの美形だ。


「いらっしゃいませ。

何かお探しの物はありますか?」


そう声を掛けられたので、


「こんにちは。

実は欲しい物もあるのですが、その前に見ていただきたい物がありまして」


と答えると、

 

「こちらへどうぞ」


とカウンター横にある丸テーブルに案内された。


薬師さんは治療師同様診察をしたり、薬や体に関する相談を受けたりもするのでその為の席なのだろう。


2脚ある椅子の片方を勧められて座ると、収納魔法からポーション類の入った箱を取り出した。


「実はこちらのポーションや魔法薬はかなり古い物でして、果たして今も使えるものなのかを調べて頂きたいのです」


「なるほど、分かりました。

それぞれ鑑定料が掛かりますが宜し…

なっ?これはっ?!

拝見しますね!!」


話しながらも箱の中を見たマーレンさんは、何かを見付けた瞬間ガバッと立ち上がり箱の中にあるポーション以外の魔法薬を次々と手に取っては唸り声を上げた。


「花妖精の涙に世界樹の朝露ですかっ?

それはソーマで、こっちはアムリタじゃないですかっ?!」


血走った目で薬品名を叫ぶマーレンさんはなんか怖かった。


天人の里で普通に売られている魔法薬とかなんだけど、人やエルフには珍しい物なのだろうか?


「あのぉ、それでまだ使えるかどうかは分かりますか?」


「使えますとも!全部1000年以上保ちますとも!」


どうやら余裕で使えるらしい。


良かった。


「良かったです。

それで他のポーションなどは…」


「はっ?!

失礼しました。

どれどれ…いやこれも中々に凄くないですか?

エルフの里で手に入れた物でしょうか?

人間の国ではまず買えない品質ですよ。

あぁ、ふむふむ。

違いますね、エルフの里の物より少しだけですが品質が良いです。

材料が一部違うのかな?

それとも製法に秘密があるのか?

それにこの薬瓶、僅かながら魔法が掛かっていますね。

これは凄い技術ですよ!

ポーションの魔力を変質や阻害させずに瓶その物の耐久性とポーションの品質保持を付与されています!」


薬品鑑定とか錬金系の鑑定の類かな?


私のギフト鑑定の魔眼とは見え方が違っているような気がするね。


じゃなきゃ天人族の事バレてそうだし。


いやー、また私の詰めが甘かったよね。


普通の鑑定をされてたら天人の里産なのバレバレじゃん。


いや、この感じならご先祖様の遺品とか言っとけばどうとでもなる気がする。


「そうなんですねー」


とりあえず適当に返事をしたけど、マーレンさんは全く聞いていない気がする。


「お客様、お願いがあります。

先程の魔法薬は一つであっても私のすべてを掛けても支払い切れない程高価な物。

そちらを譲って欲しいとは申しません。

ですが、このポーション!

こちらをいくつか分けてはくださいませんか?」


血走った眼差しで、何か出したら駄目な感じのオーラを全身に纏い、グイグイと迫ってくる。


と言うかこのマーレンさん、また本来の要件を忘れ去られているけど、この勢いならきっと薬効はそのままなのだろう。


瓶も保存性とか凄いらしいし。


私は回復魔法が使えるので、ポーションはいざって時にしか使わないし、ここまで言われたらいいかなー?とも思えた。


と言うか正直早く帰りたい。


この町には圧が強い人が多い気がする。


冒険者ギルドの中年女性の職員さんとか、アシュリーナさんに眼の前にいるマーレンさん。


もしかして紹介された鍛冶屋さんもこんな感じなのかな?


なんか疲れた。


「では低級ポーション2瓶、中級ポーション2瓶、上級ポーション1瓶ならお譲りします」


私がそう答えると、天にも昇りそうな表情で祈りのポーズを取っていた。


「ありがとうございます!

こんな素晴らしい品を分けて頂けるとは!

まるで伝承にある天女様のようです!」


ん?何処かで聞いたフレーズだ。


確かアシュリーナさんも似たような事を言ってたね。


この町には天女の伝承があるとかなんとか。


聞くに聞けない雰囲気になってそのままだったのを思い出した。


私は木箱から先程譲る約束をしたポーションを取り出してテーブルに並べると、マーレンさんは物凄い速さで店の奥へと姿を消してすぐに戻ってきた。


「こちらが代金になります」


そう言ってテーブルの上に置かれたのは大金貨3枚と金貨4枚だった。


「いやいやいやいや。

ちょっと待ってください?

これ絶対におかしいですよ!

こんな大金頂けませんから!」


あまりの金額の多さに両手首をすごい勢いで左右に振ってマーレンさんに突っ込んだ。


「いえ、そんな事はありません。

エルフの里で作られたポーションは、効果や稀少性もあって人間の町だと地域にもよりますが、通常のポーションの5倍から6倍、時には10倍以上はします。

これはそのエルフのポーションよりも稀少性や効果が高く、そして何より繊細かつ高度な術による魔法付与された瓶!

こんな素晴らしい術式は見たこともありません!」


「そっちかい!」


薬瓶は天人族の中では特別凄い物と言う訳じゃない。 


これは人間の知識や技術力などの問題じゃなく、種族としての問題だった。


私達天人は寿命の関係で物を長持ちさせる魔法や技術に力を注いでいる節がある。


例えば宿屋の部屋で使った紙とペンとかもろだと思う。


人間より遥かに寿命で青年期が長い分、どうしても必要性が高いからね。


魔法やスキルでどうにかしようとする天人族と違って、人間社会の方が技術や知識など凄いものが結構あるんだけど、それは必要性や優先度の違いなんだと思う。


エルフは自然や精霊と共に生きようみたいな種族なので、凄いポーションは作ってもこの手の魔道具もどきは作らないのかも。


単に高レベルの収納魔法使いが何人もいるのかも知れないけどね。


「分かりました。

ではこうしましょう。

お金はこの大金貨1枚、それとこのお店にある上級ポーション1つ、中級と初級ポーションを2つずつ頂くと言う事にしましょう」


私はそう言うとテーブルの上から大金貨を1枚手に取り収納する。


「本当にそれでよろしいのですか?」


「はい、なんなら捨てようと思っていた空瓶もありますので、それも差し上げますよ?」


「へっ?」


と言うことで交渉は成立した。


こちらの求めたポーションは何故か10倍分無理矢理手渡された。


それ以外にも解毒ポーションや麻痺治癒ポーション、石化治癒ポーションや中級MP回復ポーションなどなどを空き瓶10本分のお礼として受け取ってほしいと大量に渡された。


空き瓶は空になったからと言って魔法の付与が消えたりしておらず、研究に使えると喜んでいたけど、売り物殆ど無くなってない?


商売として平気なの?


ちなみにこのお店で、と言うより領都のポーション販売価格の平均的なお値段はというと、


初級ポーション=銀貨2枚


中級ポーション=銀貨5枚


上級ポーション=大銀貨2枚


だった。


私が譲ったポーション、定価で見たら大銀貨3枚に銀貨4枚じゃん?


エルフの10倍価格ポーションでも金貨1枚と大銀貨4枚だよ。


どうやら興奮し過ぎて定価の百倍払おうとしたらしい。


大金貨1枚でも貰い過ぎたのに沢山のお土産付きとか、色々と思う所はあったけど、マーレンさんが喜んでいたし良しとした。


良い薬草とかポーションの材料を見つけたらお土産に持ってこよう、そう心に誓いながら。

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