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その5 受付嬢?

その5


朝早くに目覚めた私は食堂で朝食を済ませると、仮の身分証を返却する為に門へと歩いていた。


昨日はあの後出来たての食事がやってきて、アシュリーナさんはそれに合わるように部屋へと戻っていった。


「差し出がましい事を申しました」


そう頭を下げるアシュリーナさんは、きっと私よりずっと優しい人なのだろうと思った。


てか天女の伝承ってどんなものだったんだろう?


私とは関係ない気もするけれど、記憶が穴だらけになっている今、記憶を取り戻す何かしらのヒントになるかも知れない。


ちなみにご飯は晩、朝共に美味しく頂きました。


朝は柔らかめのパンにサラダと野菜や根菜、肉が入ったスープだった。


余り物を出したりしないし、流石お勧めの宿だよね。


今朝は宿を出る前に追加で5日分泊まる事を告げて、支払いも済ませてある。


あの後小綺麗な部屋でベッドに横になり、少しだけアシュリーナさんの言っていた事を考えてみた。


天人族の常識と人間の常識が違うのは分かる。


でも彼女が言っていたのはそこじゃないのだろう。


冒険者としての常識の事だ。


荒くれ者も多く、日々命を掛けている人々だ。


善人もいれば悪人だっているだろう。


冒険者には非情にすら感じるルールがある。


でもルールになるって事は、それだけ基準や決まりになる事が必要だって事だ。


そこを理解した上で行動しろとアシュリーナさんは教えてくれたのだろう。


私がそんな事を考えながら歩いていると、門のすぐ近くまで来ていた。


領都には東西南北それぞれに門があって、私が入ってきたのは北門だ。


魔封じの森が一番近い門だね。


門はすでに開いていた。


この手の物は大抵きっちり時間が決まっている方が少ない。


季節によっても明るい時間は違ってくるからだ。


明るい間は開き、暗くなる前に閉じる。


比較的安全な地域だと季節毎に開門している時間を決めている所もあるけど、それ以外の地域では魔物の影響もあって臨機応変な部分があるのだ。


門の周辺にはやっぱり複数の兵士が居て、その中の一人が私に気付くと、 


「おはようございます。

どうされましたか?」


と声を掛けてくれた。 


昨日の青年とは違う人だった。


どう見ても荷物や武器も持たない私は町の外に出る格好じゃないからかな?


荷物は財布以外全部収納済みだし。


「おはようございます。

仮の身分証を返却しにきました」


私は冒険者カードを提示して自分の身分を示した後、返却の書類にサインをして身分証を返して町中へと戻った。


冒険者ギルドへ向かう為だ。


依頼内容によるだろうけど、その日のうちに済ませる事が出来る依頼を受けるなら、早めに動かないとまずい。


暗くなる前に門が閉まっちゃうからね!


冒険者ギルドの中はそれなりに人が居て、依頼ボードを見たり受付で何かを話していたり、食堂で朝食を食べている姿もあった。


何人かは私をチラチラと見ている人がいた。


悪意は全く感じなかったので、そのまま掲示板の前で受けられそうな依頼を探してみた。


F級だと数種類の薬草採取やゴブリンの討伐、角兎の討伐などの常時依頼くらい、後は町中のお手伝い各種しかない。


ゴブリン1匹銀貨1枚銅貨5枚、角兎1匹銀貨1枚。


傷薬用の薬草は10本1束で銅貨3枚、毒消し草なら10本1束で銅貨5枚か。


宿代を考えると赤字だよね、これ。


頑張って数で勝負ってところかな?


ゴブリンや角兎なら沢山狩る、薬草なら大量に持ち帰らないと一泊分にもならない。


昨日リューネさんに聞いた時は、普通のF級が泊まる宿は大部屋素泊まりで銀貨一枚、個室なら銀貨1枚銅貨5枚と言っていたけど、それだと宿代だけで無くなる事になる。


食費やポーションの購入、装備品の購入や整備なんかを考えたら、かなり頑張らないと必要経費だけで手一杯だ。


アシュリーナさんが言っていた事が少しだけ分かった気がした。


命を掛けてこの金額なら、生き抜く為に必死にもなるしお金の重さも全く違ってくる。


確かD級だと普通に生活出来る位には稼げるし、C級だと平民では裕福な部類、B級以上は凄いらしい。


とは言え怪我なんかで働けない期間も出てくるし、治療費だって馬鹿に出来ない。


場合によっては引退、死亡する事だってある。


その辺を考えると冒険者の常識って言う物が一部だけだけど何となく見えて来た気がした。




結局私は薬草採取とゴブリン、角兎の討伐依頼を受けることにした。


受付に行くと中年の女性が座っているカウンターだけ空いていたので、そこで依頼を受ける事にした。


「おはようございます。

薬草採取とゴブリン、角兎の討伐依頼を受けたいのですが」


「おはようございます。

常設依頼ですね。

冒険者カードをよろしいですか?」


私は冒険者カードを取り出して職員に見せた。


「サラさんっと。

新人の方ですね?

常設依頼なのでこちらの札をお持ち下さい。

討伐確認部位はゴブリンは両耳、角兎は角ですから討伐後に採取して札と一緒にお持ちください。

魔石など小さな物の買取はこちらの受付カウンターで出来ますが、毛皮などは買取カウンターにお願い致します」


冒険者カードに書かれた名前と位階、番号を用紙に書き込んだ後、木の札を3枚渡された。


札にはそれぞれ番号が書かれていた。


「それと新人の方との事ですから、こちらをご覧下さい」


と彼女はカウンターの上に簡略化された地図を広げた。


覗き込んでみると略図なだけに、町や村、森や山、湖に川に草原などが描かれているけど、距離感とか規模は無視されていた。


「この町には東西南北それぞれに森があります。

北は魔封じの森、他の森はそれぞれ東の森、南の森、西の森と呼ばれています」


魔封じの森以外は普通の森なのだろう。


普通って言っても魔物は出て来るだろうけど。


「西と東の森はそれぞれ門から歩いて1時間ほど、南の森は2時間ほどになります。

ゴブリンや角兎はどの森にも生息していますし、薬草も採れます。

何れの森も魔封じの森ほど規模は大きくありませんし、魔物の数も魔封じの森よりは少ないです。

しかし奥に行けば強い魔物が生息していますのでご注意下さい」


ふむふむ。


獲物が居るのは有り難い反面、多過ぎたら命に関わる。


冒険者ギルドがそうなのか、それともこの受付嬢の人がそうなのかは分からないけど、かなり親切だよね。


「途中の草原や藪などにも小型の魔物が生息している事がありますのでご注意下さい。

それとポーション類は必ずお持ちになって下さいね?

どんなに弱い魔物でも傷を負わされる事はありますから。

血の臭いで他の魔物が寄ってくるかも知れません。

それから薬草を探したり採取する時には集中しすぎないで下さいね。

そちらに集中し過ぎると魔物に襲われた時に対処が遅れますので。

あとはそうですねぇ…」


うん、この人だけ人があまり並んでいなかった理由が分かる気がした。


かなり親切な、人によってはお節介と感じるような人なんだ。


でも私はこういう人好きだな。


そんな事を思っていると、


「そうそう、人間相手にも気を付けて下さいね?

森の中など人目がない所は特に危険です。

冒険者の振りをした盗賊や、素行の悪い冒険者もいますから。

あ、そうそう、この飴美味しいんですよ。

どうぞお持ちくださいな」


少し声のトーンを落としてそう話し出し、気付いたら私の手には飴玉が3つ握らされていた。


「ありがとうございます。

暗くなる前に戻りたいのでそろそろ向かわないと」


「はい、気を付けていってらして下さいね。

馬車や暴れ馬にも気を付けて下さいね〜」


どうにか受付から離れると、他の列に並んでいた冒険者たちが生暖かい目で私を見詰めていた。


…私もちょっと苦手かも知れない。




結局私は東の森へ徒歩で道なりに向かう事にした。


空を飛んだら目立つしね。


革鎧に革のブーツ、小ぶりのメイスにマント、それから背負い袋ともろに冒険者な格好をしている。


メイスと言ってもトゲトゲとか付いていない、ほぼ金属製の棍棒みたいな物だけど。


魔力感知を発動させて、その辺の草むらからの襲撃にも対応出来るようにした。


たまに護衛付きの馬車なんかとすれ違うけど、一人で歩いている人は居ない。


普通はそういうものなので気にしない事にした。


道中早速角兎に襲われたけど、メイスで簡単に撲殺して収納した。

 

銀貨一枚ゲットである。


東の森は木々の間隔がそれなりに開けていて、魔封じの森より視界がずっと良い感じだ。


日差しもそこそこ差し込んでいるので草むらがいくつもあるけれど、人の出入りもあるからか獣道とは明らかに違う道がいくつも出来ている。


私は魔力を探りつつも薬草類を探した。


流石にレベルが45もあると、常人よりは索敵範囲も増え知覚や反応速度も上がる。


自然と知力も上がるので記憶力だってそこそこに…あれ?私忘れまくってるんですけど?


まぁ、薬草の形状なんかはパッと見ただけで分かるのでササッと採取した。


魔封じの森よりは数も少ないし質も落ちるような気がするけど、3束確保出来た。


宿代までまだまだ足りない。


よし、ここからは魔物討伐モードだ。


てか斥候スキル使い忘れてたね。


その道のプロは常時発動しているらしいけど、精神的に疲れるのでそこまではしたくないなー。


勿論依頼中なんかは忘れないようにしないとマズイけど。


反省しつつ足跡などの痕跡を探り、途中また襲ってきた角兎を2匹瞬殺して森の奥へと進んだ。


居た!


ゴブリンが5体、少し開けた所で普通の兎をバラして食べていた。


気配を消してある程度近付くと地を蹴って、一気に距離を詰めた。


ドス!ゴスッ!


鈍い音を立ててゴブリン2匹の頭をかち割り仕留めると、残りのゴブリンが慌ててこちらに構えようとした。


「遅い」


汎用武器戦闘のスキル以外はほぼ未使用でも、本来の能力値だけで十分に対応出来る。


ゴブリンは私の動きを目で追うのが精一杯なようで、あっという間に全てを倒す事が出来た。


私の体はどう見ても筋骨隆々って訳じゃないけど、筋力55と言えば一般成人男性の4〜5倍位の力がある。


そんな力にメイス、そしてスキルが乗ればその破壊力はゴブリンや角兎くらい一撃だ。


同レベル帯の前衛職ならもっと強いけど、魔法寄りの私でも物理戦闘はこれくらい行けるのだ。


その後もゴブリンや角兎を見付けては次々と殴り、収納しまくっていった。


時々ホブゴブリンも居たけれど、オークよりも弱い魔物だしね。  


丁度30匹目のゴブリンを倒し、そろそろいいかと森を出た。


太陽は少し傾き始めているから午後の2時ごろだろうか。


私は道を逸れて少し進み、地魔法で深くて大きい穴を掘った。


そして一体ずつゴブリンを出しては両耳と魔石を回収し、穴の中に放り込む。


ホブゴブリンや角兎も同じ要領で解体して、残りを穴の中へ落とした。


30分以上かけてそんな作業を続けてから、ゴブリンの両耳、ゴブリンの魔石、角兎の角、角兎の魔石、毛皮、ホブゴブリンの両耳と魔石とそれぞれ別の袋に分けて詰め込み、今度は地魔法でしっかりと穴を埋めた。


後々陥没したりすると怖いので、かなりしっかりと固めるのも忘れない。


今日の戦果はゴブリン30匹、角兎18匹、ホブゴブリン3匹と薬草3束だ。


それなりの稼ぎである。


私は地で汚れた手や鎧、ついでにメイスをクリーンで綺麗にしてから町へと向かった。

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