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その3 冒険者ギルドへ

その3


私はカウンターの奥にある個室へと案内された。


先程の件の書類作成や登録にはそれなりに時間が掛かるのでと受付嬢、リューネ・ザッターさんが総合案内で名乗った後、連れてきてくれたのだ。


お茶を出してくれたので一口飲んでみると、スッキリとした風味と仄かな甘みが知らぬ間に緊張していた私の体と心を解きほぐしてくれた。


「それではこちらの書類にサインして頂いてよろしいですか?」


ざっと内容を読んでみると謝礼の辞退と亡くなった冒険者の家族への譲渡、家族が居なかった場合の寄付に関する書類だった。


さらっとサインをすると、今度は別の用紙を出してくれた。


「こちらは冒険者登録用の用紙になります。

名前さえ記入してあれば問題はないのですが、出来る範囲で書き込んで頂けると助かります」


冒険者登録用紙には、氏名、年齢、性別、出身地、得意なスキルなどの記入欄があった。


名前はサラ、年齢は18歳、女性、出身地は山奥の村と書いた。


得意なスキルは祈願魔法と水風の属性魔法に収納魔法、あとは汎用武器戦闘だけ書き込む。


18歳の人間ならこれでも得意なスキルが多いかも知れないけど、ここが辺境である事を考えると案外普通なのかもしれない。


王都を含め魔物が少なかったり弱い地域に比べて、魔物が多い地域の方が平均してレベルが高いと言われている。


書き上がった用紙をリューネさんが確認した後、冒険者カードと冒険者のしおりと言う小冊子を持ってきてくれた。


犯罪行為の禁止、依頼の失敗や棄権時のペナルティ、依頼の受け方や特殊なケースの事、税金、手数料など基本的な事を小冊子を開いて説明してくれた。


表示されている成功報酬は既に税金や手数料を引いた金額となっているとか。


国としても魔物が多く戦力は少しでも欲しい為、育成の協力措置としてE級までは稼ぎの問題から納税が免除されているとか。


逆に魔物などに何かしらの変化があった時にはギルドへ報告する義務が遭ったり、非常時は原則拒否不可能な強制依頼がある事なども教えてくれた。


「冒険者は基本的に見習いのFから始まり、新米のE、一人前のD、中堅のC、一流のB、超一流のAと階位があります。

元々狩人や魔法使い、兵士として戦闘経験があっても、冒険者としての実績ではありませんので、上位冒険者や王侯貴族、その他信頼の置ける方からの推薦状がない限りFランクのスタートとなります。

ですので階位が必ずしも戦闘力の強さとは限りませんが、目安としては上位の方がレベルも高く強い事が多いと思った方が良いと思って下さって結構です」


何となくは知っていますよね?と言う表情でリューネさんが説明してくれる。


うん、わかるよ。


冒険者の階位は強さの目安にされる事が多いし、剣の腕は凄くても冒険者として経験が浅いと何かしら問題を起こす可能性もその分高い訳だし。

 

「今回の登録でサラさんはF級となります。

階位を上げるには冒険者ギルド内への貢献度、つまり実績と評価で上げることが出来ます。

ただしC級以上になりますと、試験やギルドが認める大きな実績や推薦など、何れかもしくは全てが必要になってきます」


ただ強いだけだったり、低位の魔物討伐や薬草採取を延々と続けて実績を築き上げても、それだけでは駄目ということだね。


私は「分かりました」と答えつつ頷く。


「なお基本的な階位の他にS級、SS級、SSS級と言う階位がありますが、こちらは英雄的な偉業と強さを認められた方のみが得られるものです。

滅多にお会いする事はない思いますが、その強さ故か変わった方が多いと聞きますのでご注意下さい」


凄腕の魔法使いなんかでも研究バカとか変わり者は多いし、突き抜けちゃった人々だと思うと何か納得の行く話だった。


「極力関わらない様にします」


私の返事に少しだけ苦笑いを浮かべで、リューネさんは説明を続けた。


「現在サラさんはFランクの依頼しか受ける事は出来ませんが、主に2つ特例があります。

まずは上位の階位の方が半数以上いるパーティーへ加入する事で、2つ上、この場合Dランクの仕事までは受ける事が可能です」


なるほど。

でもこれはあまりお勧めできないらしい。

まず本人の実力以上に危険な場所へ赴くからって言うのと、荷物持ちなど雑用しかさせてもらえない可能性がある事、中にはもっと酷い事があって事件にまで発展したケースもあるのだとか。


「新人育成に協力的な冒険者の方々もいらっしゃるので、全てが危険という訳ではありません。

もし何かございましたら私共冒険者ギルドへご相談なさってください」


お節介焼きな人とか世話好きな人って何処に行ってもいるもんね。


「そしてもう一つは、偶発的に起こった非常時における戦闘行為や護衛などです。

例えばですが薬草採取など他の依頼中に魔物の襲撃を受ける事があります。

また町の外を移動中に襲撃を受ける場合や、たまたま旅人を助けて近くの村や町へ連れて行くなどですね」

  

まぁ森の中で人を助けたのに罰則とか、魔物から助けたのにそのまま放置とか冒険者ギルドの評判ガタ落ちしちゃうもんね。


「分かりました。

あ、それと確認なのですけど、偶発的にと言うことは強い魔物の出る森の深部へわざと行って薬草採取をし、そこで階位より上の魔物に襲われて倒す事は禁止という事ですね?」


「はい、そうなります。

危険な地域と比較的安全な地域などは常時情報収集をした上で公表していますので、それを確認した上で依頼を受けて頂く事になりますので」


この他にも冒険者同士が同じ獲物を狙っていた場合の優先権や戦闘中の関与に関するルールとか、異常があった際の報告義務、ダンジョンや特殊な地域によってはこれ以外にも幾つかルールがあるなんて事も教えてもしてもらい説明は終わった。


「詳しく教えて頂いてありがとうございました。

所でもう一つ要件があるのですが、ここへ来るまでに採取した薬草類や討伐した魔物の買取をして頂くことは可能ですか?

それと地図は明日でも良いですか?」


「はい、可能です。

ただし魔物に関しては必要な部位のみ、また解体していない場合の解体や加工費、鑑定が必要な品物の場合は鑑定料が必要になります。

また地図に関しては明日納品と言う形で問題ありません。

これは冒険者ギルドからの依頼と言う形で処理させていただきますね」


買取に関しては予想通りだけど、地図については予想外だった。


階位を上げるポイントにしてくれると言う事だよね。


お金は先程言った通りにしてもらうけど。


「分かりました。

それでは買取をお願いしたいのですが、ここや買取カウンターではちょっと狭いと言いますか…」


「申告によると収納魔法が使えるとの事でしたね。

ではこちらへいらして下さい」


私はリューネさんの後について冒険者ギルドの裏手へと向かった。



冒険者ギルドの裏には大きな倉庫が幾つかあり、その手前には屋根付きのかなり広い解体場なんかがあった。


小さな町ではまず見られない光景だけどここは辺境、強い魔物や大きな魔物も出没する魔封じの森すら徒歩圏内の町だ。


領都のメインストリートやそのすぐ裏手にこれだけの規模の施設を置くのも当たり前の事だった。


それだけこの町、いやアルディーヴァ辺境伯領は危険な地域なのだろう。


この町にはないけれど、馬車で3時間程の町近くに一つ、半日行った所にも町とダンジョンが一つあるそうだし。


ダンジョン、迷宮の活性化などで魔物が氾濫し、滅びた町や国は結構多い。


魔封じの森みたいな所もある意味ダンジョンみたいなもので、魔物の大量発生が起こることもあるしね。


それでも魔物や森、ダンジョンは富をもたらす。


通常では手に入らない薬草や鉱石、宝石、魔石に魔物の部位、魔道具や武具などが溢れている。


富があれば人が集まるのは昔から変わらない事だった。

 

ダンジョンの近くに町が出来るのも同じ理由だし。


それに辺境伯領は国境もあるから、軍事力や人手も必要になり、他国と魔物、二重の意味で防波堤となっている訳だね。


勿論領主の実力や人柄もあるんだろうけど。


「ここなら大丈夫でしょうか?」


「はい、それでは小さな物から出していきますね」


解体場の近くにある大きなテーブルまでリューネさんに案内してもらい、私は収納魔法で次々と薬草やキノコ、最初に倒した雄雌のオークやその後倒したオークたち、森魔狼、岩熊などを取り出した。

 

魔物は全部そのまま収納していたので、床に置かせてもらうことにした。


熊とかテーブル壊れちゃいそうだし、森魔狼は群れを倒したので17体分あるし。


「…これを全部ですか?」


リューネさんがかなり驚き焦った様子でオロオロとしていたが、すぐに通常モードに戻って倉庫や解体場の人々に声を掛け、鑑定や査定が始まった。


私は適当な椅子に座らせてもらい、ボーッと査定をしている職員さんたちを見ていた。


収納魔法を使える人はある程度いるけれど、4レベルまで持っている人となるとそこそこ少ない。


特に冒険者志願の成人してそんなに経ってない人なら余計にだ。


まずレベルアップには基本的に大きく2つの方法がある。


経験と生物の殺傷だ。


世間ではこれを経験値と呼んでいる。


町や村で普通の生活を送っているのも経験なのでレベルは上がり、成人する頃には10レベル前後になるのが普通だ。


あとは狩りなどで魔物や動物を倒したり、畜産業で動物を屠殺する事でも経験値を多く得る事が出来るので、それらの経験者は成人直後でも15レベル以上になる事もあるらしい。


その後普通の生活を送る人は、かなりゆっくりとレベルを上げていき、高齢者でも15レベルに満たない人が多い。


鍛冶などの生産職で凄い商品を次々と生み出す人なんかは、それ自体が凄い経験扱いらしく15レベルを超える人も居るし、あえて魔物退治をしてレベルを上げ、より上を目指す人もいる。


畜産業や狩人、兵士などは中年期辺りで20から30前後まで上がる事もある。


そしてスキルだけど、これまた取得したりレベルを上げるのが難しい事が多い。


ギフトや才能、適性の有無なんかも関係するけれど、人種は生まれながらに幾つかスキルを持って生まれる。


それは天神族も同じだけど、その先が違ったりする。


亜神と呼ばれる理由の一つだ。


まず天人などの特殊な種族を除いて生まれたときの人種のスキル数はそんなに多くない。


少ないと1つ、多くても5つ位らしい。


あとは努力したり生活の中で新しいスキルを芽吹かせる。


そしてそれを使い続ける事でレベルを上げていく。


スキルのレベル上げは個人差があって、同じことをしていても早くに上がる人もいれば、途中で全然伸びない人もいる。

 

これは戦闘系のスキルだけじゃなく、スキル全般に言える事だ。


だから冒険者を目指す人なんかは、木刀で素振りをしたりして剣術スキルを芽吹かせようとしたり、道場に通ったり修行をしたりと努力する必要がある。


ただ思った通りのスキルが芽吹くとは限らず、剣術の代わりに棒術や汎用戦闘術が生えてしまったりする事がある。


これは魔法や他のスキルも同じだ。


つまりスキルを得たりレベルを上げるのには努力が必要な上に、必ずしもそれが上がるとは限らないのだ。


火属性魔法を覚えてレベルを上げようとしたら火魔法は殆ど育たずに、魔力操作がグングン育ったなんて人もいるし。


ちなみに人種は全て、必ずステータスを確認する事ができるので、今の自分のレベルを確認したり、スキルの育ち具合を確かめる事も出来る。


でね、スキルやレベルを研究した人がそれなりに居て、それで分かった事がある。


本人のレベルによって、スキルレベルの上がりやすさや上限が違う事。


向き不向きの個人差、種族差がある事。


ついでに怪我や病気のなりにくさ、治りやすさ、ようは丈夫さにレベルが影響している事。


つまりレベルが10の人よりも20の人の方がスキルは芽生えやすいし育てやすいのだ。


これは能力値も同じ事が言えた。


で、ここで出てくるのが天人など一部種族の特異性だ。


実は天人などはステータスウィンドウの他にステータスをある程度操作する事がある程度可能なのだ。


その上生まれた時から持っているスキルの数やレベルが多かったりする。


平たく言うと、レベルが上がる事で能力値ポイントやスキルボイントが得られ、それをある程度自由に割り振ったり、新しいスキルを得る事が出来る上に、最初から沢山のスキルを持っている、一般的な人種から見たら羨ましい存在なのだ。


才能や適性の問題なのか、何故か取れなかったり、レベルを上げようとしてもポイントが割り振れないって事は普通にあるんだけどね。


でも適性外でなければ取得しにくいはずの総合スキルもそこそこ簡単に取れてしまう。


前提条件も天人族内では普通に教え合っているから、スキルポイントさえ足りてればその場で取れちゃうって本当にズルいよね、これ。


ちなみに一度ポイントを消費すると戻せないとかの制限もあるよ。 


なので天人などはスキルの数も能力値も分かりやすい形で高いし取得も早い。


で、この事実を知った研究者がある仮設を打ち出した。


ステータスをいじれない他の人種も、実はレベルアップによってポイントは付与はされていて、それを行動したり努力する事で消費して、芽生えさせたりスキルレベルを上げているのではないか?って。


能力値も同様で、体を鍛えたら筋力や耐久に、頭を鍛えたら知力にと行動、経験によってポイントが割り振られているのだろうとなった。


多分それが事実に違いないとあっという間に世界に広まり、常識になっていったと生まれる前に書かれた本に載っていた気がする。


なので18歳で収納魔法を4レベルまで上げるには、魔法全般もしくは収納や空属性魔法などへの凄い適正があるか、かなりの頻度で脇目もふらずに収納魔法を使い続けていたか、高レベルで上げやすくなっているか、その何れかと思われてしまうんだよね。


なんて考え事をしていたら、査定が終わってた。


「買取に関する査定は終わりました。

ただこの件に関してご相談したい事があります。

今少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


リューネさんが結構真剣な表情をしている。


あれ?何かやっちゃったかな?


「あ、はい。予定はありませんから」


私はそう答えると、再び冒険者ギルドの中へと案内されるのだった。


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