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その1 おはようございます

その1


ふぁ〜、よく寝た。

ん?まだ夜なの?

凄く暗い。

眼の前も全く見えず、僅かな光すら無いくらいに真っ暗だ。


今何時だろう?


ガンッ!


「いったぁっ!」


起き上がろうと思ったら硬い何かに頭をぶつけてしまった。


頭もそうだけど、体の節々が強張っていて違うタイプの痛みを全身に感じた。


どうにか体を手足を動かそうとしたらすぐに冷たく硬い壁のような物にぶつかった。


これはアレか。


石か何かに閉じ込められてる感じだったり?


何が起きているのかさっぱり分からない。


記憶があやふやで寝る前の事を思い出せなかった。


何も分からない訳じゃないよ?

サラストリーって名前で名字は元々ないってちゃんと覚えてるし。


んー、取り敢えず光は必要だよね。


「小さく仄かなる光よ」


私の魔力に方向性を与え、イメージを正確にする為に言葉も添えて小さな光を目の前に生み出した。


普通に灯りを付けたら目をやられそうだしね?


うん。

どう見ても石壁に囲まれている。

眼の前の石と壁の石、微妙に色が違うのも光のお陰で分かった。


私、石箱の中で寝てません?


てかこれ、棺なんじゃ?


寝る前の記憶もないけど、大怪我やら病気になって死んだ記憶もない。


何があったのか全く思い出せないけど、埋められてたら不味いよね、これ。


私は軋む体を動かして、魔力を肩から両腕、背中にまで集めるとグッと力を入れて天井?石蓋?を押し上げてみた。


ガラガラと何かが崩れる音が響いて、案外簡単に蓋は持ち上がった。


埋められてなくて良かった!


「どっせい!」


気合の声と共に両手により力を込めて蓋を押し飛ばす。


吹っ飛んだ石蓋はどこかにぶつかったらしく、激しい音がしたけど急に動いたせいかあちこちが痛いのでそれどころじゃなかった。


「『神々よ。我が身を癒やす奇跡を与え給え』」


神々に祈り、癒しの魔法を自分へ発動する。


同じ回復魔法でも、属性や魔法大系によってその仕組みや効果は違ってくる。


本来の自然治癒力を常識外のレベルまで一時的に高めて傷や病気を治す魔法や、精霊の謎パワーで癒やす、事象の拒絶や時の巻き戻し、ついでに魔法薬であるポーションも薬草の効能やら魔力やら謎パワーで癒やされるみたいな感じで。


私が使ったのは祈願魔法、つまり神々へ祈りとMPを捧げ、奇跡の力で治してもらうと言うとても尊くも有難い魔法である。


自然治癒力を上げる魔法だと、体力が著しく落ちていたり、自らの体が原因で起こる病気だと逆効果なことがあるのだけど、祈願魔法は奇跡なのでその辺は関係ないしね。


頭の痛みと節々の痛みがなくなったのは良いけれど、蓋を開けてもまだやっぱり暗かった。


先程の小さな光だと全然先が見えない。


ちょっと意識してみると、風とも呼べない空気の動きはほんの僅かにあるような気がする。


湿った土の臭いと埃の臭い。


埃はまぁ、蓋を飛ばして壊したせいもかもしれないけれども。


そして鉄錆にも似た血の臭いも薄っすらと漂っていた。


どっちにしても暗いとどうしょうもないので、今度はかなり広範囲を照らせる光を頭上に生み出して辺りを見回した。


やっぱり全く見覚えがない。


うん、多分ここ洞窟だね。


それも行き止まりか最奥部ってところかな?


洞窟は岩肌が剥き出しな所が多いけど、あちこち人の手が加わっているのが分かる。


天井の高さは五メートルくらい。


石棺のあるここはホール状になっていて、直径30メートルくらいはある。


一番奥の壁にはかなり古い雰囲気で5体の竜が何かを囲むような図が掘られていた。


でもその何かは大きく壊れていて、そこに何があったのかは分からなかった。


その壁の手前に石造りの祭壇のような物があるけど、あちこちに大きな罅が入ってたり、割れて欠けていた。


そしてその祭壇を囲むようにして、

5人の人が倒れていた。


ピクリと動く様子もなく、魔力の流れも感じない。


これは亡くなってるな。


それぞれの体から流れ出たのか血が石の床に広がっていて、それが乾き始めているように見えた。


寝ている間に何が起きたのか全く分からん。


私は棺から出ると、一応生死の確認をする為5人の近くに血を避けつつ近付いた。


やっぱり亡くなっていた。


神々へと祈り5人の魂と体を浄化する。


放っておくとアンデッド化する事があるからだ。


彼らは全員人間の男のようで、金属鎧や革鎧を着ていたり、ローブをまとったりしている。


剣や杖なんかも床に落ちてるし、多分冒険者なんじゃないかな?


ちなみに私の服装は薄手の白い絹の服と厚手の布を巻きつけてるサンダルだけだった。


下着もつけてないってどーいうことよ?


明かりの魔法の下だとギリ透けてないけど、太陽の下だと不味いかも知れない。


あと濡れたりとか?


雨が降っていませんように。


どっちにしても外に出ないといけないんだけど、先に確認したい事があった。


「ステータスオープン」


私の声、というより意思に反応して、眼の前に半透明の光る板の様なものが現れた。 


ん?


名前:サラストリー


種族:天人


年齢:320歳


レベル:45


HP:2925

MP:4050+(MP増加5)=6075


筋力55

耐久55+10=65

敏捷60+10=70

器用55

知力60

魔力65+25=90

能力値ポイント0



戦闘スキル

汎用武器戦闘3 特殊戦闘:羽衣3 祈願魔法5 回避2 召喚魔法2

属性魔法:水5・風5・光3・地3・空3

精霊魔法3 身体強化3


一般スキル

舞踏3 礼儀作法2

生活魔法 収納魔法4

飛行練度3 魔力感知5 魔力操作5

魔法適正6 精神抵抗3 

MP増加5 隠蔽6 斥候術3


スキルポイント0



種族特性

ステータス表示・ステータス操作

天人スキルセット(スキル欄に表記)

神託

不老長寿【高】

変身2

飛行5

飛行適正5(風耐性5・冷気耐性5他)

天人装備


ギフト

言霊 鑑定の魔眼 【他封印中】



んんん?

名前や種族は覚えている通りだった。


でもそれ以外、年齢やレベル、能力値にスキルにギフト、表示されている全部に違和感を感じた。


てか【他封印中】って何よ?初めて見たし。


あれこれ考えてみると他にも違和感はあった。


記憶があちこち飛んでいるのだ。


例えば名前や種族は覚えている。


天人の里にある自分の家でゴロゴロしてたり、友達と遊んだりみたいな日常生活は飛び飛びで覚えている。


仕事の関係で人間の町に行く道すがら、魔物や盗賊と戦った事があるのも覚えているし。


でも天人族の里が何処にあるのか全く分からない。


仕事の関係であちこち出掛けたのは覚えているのに、何の仕事をしていたのかも思い出せない。


それに知識として320歳の天人のレベルが45とかほぼあり得ないのも分かる。


多分それだけじゃない。


両親の事も思い出せないし、あちこち記憶が虫食い状態の本みたいなっているっぽい。


私の中で違和感がどんどん増して行く。


「おぇっ」


あれこれ思い出そうとしたけど、頭痛と吐き気がして来たので今考えるのはやめとく事にした。


まずは外に行こう。


外の空気を吸ったり、違う景色を見たら何か思い出すかも知れないし。


でもその前に。


この格好じゃ魔物でも居たら不味いよね。


下着も着てないしさ。


私は収納魔法を発動させ、頭の中に収納品リストを出して中身を確かめてみる。


武器防具を始め、記憶にある物もない物も入ってるな。


この収納魔法、商人や軍隊、それに冒険者たちがめっちゃ欲しがる魔法の一つだったりする。


レベルや魔力によるけれど、かなりの量を[此処ではない何処かの空間]に収納保存出来るのだ。


時間停止機能はレベル6以上ないと使えないけど、レベル4だとかなりの時間遅延は掛けられる優れもの。


便利過ぎて色々放り込めるので、もぎたてのリンゴを50年後に取り出してもギリギリ食べれる状態で出てきた位だ。


私は薄い服とサンダルを脱ぎ、下着や厚手の布服、革鎧にブーツ、ショートソードとナイフ、ベルトに小袋なんかを取り出して身に着けた。


そして生活魔法のクリーンで遺体を綺麗にしてから服の中や荷物を確認してみると、5人とも冒険者カードを持っていた。


やっぱり冒険者だったんだね。


家族や親しい人たちもいるだろうし、これ位は冒険者ギルドに届けてあげようと思う。


私はカードを収納魔法に回収して、地魔法でホールの床に穴を開け、そこに風魔法で5人の遺体を運んでから埋めた。


地魔法は地に属する物を魔力を変換して一時的に作り出したり、そこに実物があれば操ったりも出来るんだ。


ちなみに水魔法だと魔力から変換した水は時間経過で消えちゃうから飲めないけど、大気中の水分を操って作り出したり出来る。


石を積んで墓だと分かるようにすると、再び神々に祈ってから洞窟の外へと向かった。


洞窟は殆ど一本道の上り坂で、特にこれと言った事も無く一時間程で出入り口へ到着した。


洞窟は外が近付くほど徐々に小さくなって行き、出入口付近は岩肌が完全に剥き出しで縦横2メートルほどになっていた。


外に出ると目の前にはかなり深い森が広がっていた。

 

光魔法のお陰である程度外の明るさに耐えられたけど、それでも陽の光がちょっと眩しい。 


洞窟の出入口付近は殆ど森に飲み込まれていて、明るい時間帯なのは分かるけど、枝葉が殆ど頭上を覆っているので午前中か午後なのか分からない。


肌寒くはないし、暑くもないし、ここが温暖な気候なのか、それともそんな季節なのかも不明だった。


場所どころか季節すら覚えていない事が分かり、不安と苛立ちが胸の内に広がっていく。


駄目だな。


どんな魔物がいるかも分からない森の中、混乱したり変な感情に流されたら危険だしね。


深呼吸して心を落ち着け、背後を振り返ってみると地面が隆起していて10メートル位ある崖になっている。


そして洞窟の近くには縦横3メートル近い大きさの苔生した岩が転がっていた。


地面を見ると引きずったような形跡もあるし、これで洞窟が塞がれていたのかも知れない。


他にも調べる事が出来れば良いんだけど、生憎そんな魔法も技術も…持ってたよ。


斥候術スキルだ。


これは統合スキルとか複合スキル、職業スキルとも言われてて、幾つかの手段で取得出来るものなんだけど、他にも狩猟術や鍛冶術や薬師術、隠密術に何なら暗殺術すらもある。


薬師術だと一般薬調合、薬草薬物鑑定、採取、薬草栽培、薬物知識に薬草知識、傷病知識、応急処置に診察、ポーション作成などが一つのスキルで使えたりする。


得るのは大変な反面、かなり多くのスキルが必要となる職の人たちにとっては育てやすいスキルでもあったりする。


斥候術だと罠の発見解除や鍵開け、足跡発見や追跡、潜伏や気配消しに気配察知、探索や軽業、聞き耳、地図作成などまさに斥候職に特化されたスキルで使い道が良かったりする。


似たスキルが多いけど、それは本人の才能と好みで別れてくる。


普通は冒険者や兵士の斥候系などが持っている物なんだけど、寿命が長くてスキル取得が他の人種よりかなり楽、ほぼチートな天人だからこそ取れた感じだ。


人種でありながら、亜神とまで言われることもある種族の一つだしね。


まぁその辺は追々説明するとして、斥候スキルで地面や岩、洞窟の入口付近を調べてみると、かなり長い間岩で塞がれていた事が分かった。


形跡からして岩もなかり長い年月動かされていなかったのを、魔法か強化した筋力で動かしたっぽい。


一本道の洞窟で長年入口は塞がれていた。 


私は一体何年ここに居たのだろう?


また気分が悪くなるのも嫌なので、森から出る事に意識を向ける。


太陽も伸びた枝葉で見えないから方角も何も分からないけど、その辺はあまり心配していない。


天人は皆、翼など無くても空を飛べるのだ。


トンっと軽く地を蹴って、私はゆっくりと体を注へと浮かばせる。


枝葉の隙間が大きい所から森の上へ歩く程度の速さで上っていく。


太陽の位置が高いので昼前後だろう。


そんな事を考えながら足元を見下ろせば、かなり大きな森である事が分かった。


天人は空を飛ぶ関係上、方向感覚や視力、高度に対する耐性なんかはそれなりに優れていて、大まかな方角は分かった。


森の北側には雪を被った山脈が見える。


見覚えがあるね、これは封印山脈かな。


だとするとこの森は…


「魔封じの森?」


西大陸にある国家の一つ、アースタ王国最北端にある広大な森だった。


封印山脈を国境として、その向こう側にはレイ・ラーサ聖王国と言う名の国土は中規模、人口は小規模な国があったはず。


ここへ来た記憶は無いのに、地形などを見た瞬間に知識として地名なんかは普通に出てくる。


違和感を感じつつもまたもやそれは無視する事に。


空も安全という訳じゃないので。


視界を遮る物が無い、逆に言えば私の姿も丸見えなのだ。


生息する魔物にもよるけど、空は隠れる所が複数ある森の中より危険な事も多いのだ。


確かこの山脈付近にはドラゴンやワイバーンを始め空を飛べる魔物が多く居るはず。


今更な気もするけど、高度30メートルほど上った所で止まった。


天人の飛行速度は、スキルやレベルによるけどかなり早い。


子供の頃はスズメくらいの速さが精一杯だけど、大人になると鷲並みは普通だし、隼よりも速い人もいる。


短距離ならもっと速く飛べたりもするけど、全力疾走するとかなり疲れるのと同じ感じで、魔力的な何かで飛んでいるはずなのに滅茶苦茶しんどい。


長時間飛ぶのも普通に疲れるしね。


ただ歩くのよりずっと速いから、近場なら疲れる前にすぐ着いちゃう訳だけど。


私は森の木々より少し上の高さまで降りると、山を背にして無理のない速さで飛ぶ事にした。


それでも鳩やカラスよりは速いけど。


幸い今の所空飛ぶ魔物の姿や気配はなかったけど、目立ちにくい位置の方が安全度は高いと思うし。


伸びた枝なんかを避けつつ、魔力感知を発動させて辺りを探りつつ飛んでいるけど、明らかに魔物と思われる魔力をあちこちから感じる。


実は虫や植物、普通の動物なんかも多少は魔力があるので、魔力感知に慣れないうちは使うと結構大変らしい。


らしいと言うのは天人にとっては生まれた時から持っているスキルなので、物心ついた頃には意識的にも無意識的にもコントロール出来るようになっているからだった。


例えば索敵なら低級の魔物や危険な動物、レベルの低い人間辺りから反応する感じで適当なイメージをして発動すれば良いだけなんだけどね。


危険な動物ってほら、ゴブリンや角ウサギより普通の熊の方が魔力は少ないけどずっと危険だからね。


現状こちらに向かって来るものはなかった。


向こうが気付いてもあっという間に通り過ぎてるしね。


そんな感じで2時間近く進むと、森の端の方に辿り着いた。


木々もやや間隔が広めになってきて、地面や下草が見える部分もかなり多くなってきてる。


やっぱり飛べると楽だよねぇ。


ん?


私の魔力感知に引っ掛かる存在が複数進行方向の先にあった。


この感じは複数の魔物だ。


多分オーク辺りが5体かな?


そう感じた時にはかなりオークたちに近付いていたのだけれど、その内の一体から明らかな魔法の発動を感じて咄嗟に水魔法で氷の障壁を張った。


森の枝葉の間を抜けて飛んできた炎の矢が、ジュッと音を立てて消え去る。


「ムカつく」 


ボソッと口に出しつつ私は氷の障壁で身を守ったまま空中で止まり、すぐ近くにいるオークたちを見つけて睨みつけた。


体は大柄な人間に似ているけれど、その顔は持つ猪に近い。

 

ちなみに人間に似ていてもオークやゴブリンなどは人種とは言わない。


人種は人間をメインとしてエルフやドワーフ、天人など人間と交配してハーフなどの子を為せる複数の種族の総称だ。


亜神扱いされちゃう天人も一応人種なのだ。


オークやゴブリンの様に他種族と交配しても単一種しか生まれないものは人型の魔物だ。


棍棒なんかを持っているオーク4体、そして杖っぽい物を持っているオークが1体。


あれ?杖のオーク、雌なんじゃ?


体にボロ布をローブの様に纏っているからハッキリとは分からないけど、明らかに体型が違う。


オークは8割以上が雄で、稀に雌が生まれると言われてる。


雌はオーク社会でお姫様扱いされ、下手な上位種よりも高待遇を受けて我儘に生きるらしい。


ま、ここで死ぬから今回は関係ないけどね。


「貫く氷槍!」


4体のオークが武器を構えて私に向かって来たけど、気にする事なく魔法を放った。


長さ2メートルを超える氷の槍が十本現れると、グルグルと回転しながら高速で5体のオークたちに襲い掛かる。

  

普通の氷槍ならそのまま敵に飛んでいくけど、私はちょこっとアレンジして使ってみたのだ。

 

魔力操作に慣れると、数を増やしたり範囲を広げたり、その他イメージと力量次第でちょっとしたアレンジをする事が出来る。


氷槍はオークたちの胸や腹に刺さっても回転を続け、そのまま体を貫通して地面に突き刺さるのだった。

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