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夏のうだるような暑さに

作者: 暑くて死にそう



 夏のうだるような暑さに、私は地面を這う干からびたミミズのようにダメージを負っている。ほんの十年前には、ここまで辛いものではなかったように思うのであるが、今ではもうどうしようもない。エアコンの人工的な風は私の体に合うことはなく、しかし、自然風だけではやっていけないもので。一日に二時間ほど眠る前に、28度に設定した冷房を入れる。朝目覚め、ほのかな暑さの気配に億劫になりながら、朝食をとり、支度をする。あとは会社に行って仕事をすれば、何とか気はまぎれるものだ。

 しかし、休みの日はそんなことは全く関係ない。高尚な趣味など一切持たない私にとって、休みはただ休む日なのである。世の中の人々がどうして外に出て活動的に動けるのか、甚だ疑問だ。そんな私にとって、夏は地獄である。どうして、夏などが存在するのだろうか。

 ……いや、昔はよかったのだ。夏の風物詩である花火や蝉の声は私に思い出を作ってくれたし、色とりどりの樹々や花は私の心を潤してくれた。特にヒマワリは、とても好きだった。いつも、花は太陽に向かって真っすぐに立っている。それがしおれたり、枯れてしまったとしても、それからとれる種はおやつにもなった。ああ、とても懐かしい。

 しかし、しかしである。今の夏は、暑すぎて外に出る気にもなりはしない。蒸れる服に、太ってしまった体、身体にこたえる暑さに神経は衰弱、蝉のミンミンうるさい音は耳障りになってしまった。まだ、眠ってろ!と蝉につい文句の一つや二つも言いたくなるというものだ。花火も夜にすれば虫がやってくるだけで、そんなことを一緒にできる友人もなくしてしまった私には、ただ空しい夏の幻想である。虚妄だ。

 そんな私は今。久方の休日に万年床と化してしまった布団の上で腹を出し、ブリーフ一枚で転がっている。夏バテだ。おお、そこら辺に湧いているハエや虫のほうが、よほど動いているではないだろうか。ああ、暑いのにどうして動かなければならないのか。……実家暮らしは悠々自適であったものだ。このままコロリと逝かぬものか。母よ、父よ。息子の親不孝をお許しください。




 ああ、散らかった部屋が私の心をさいなむ。誰か小人を連れてきてくれ。

 やることは山ほどある。後回しにしていた掃除や書類の整理など、見るだけでいやになるものがたくさんだ。


「ああ、夏場はだめだ。やる気もおきないし、物は腐りやすくなる。日差しは強いのに、雨はよく振り、異常な暖かさは野菜の値段も高くする。」

「もう秋もなくなっているイメージしかないのだが。どうしてだろうか、ものすごく最悪だ」


 ぶつぶつと独り言を漏らし、ゴロゴロと寝返りを打つ。暑さで体がべたべたする。シャワーにでも入るか。でも、今入ったところで汗は出る。面倒だ……今、何時だ。10時か。

 布団から一歩も動かずに、一日が終わりそうだ。うーん、やることがない。

 リモコンでテレビをつけるが、面白くもない政治の話しかしてない。それもコメンテーターの偏見と確信の持てる証拠とはいいがたいものを並べ立て、まるでそれを真実のように話している。正直不快だ。偏向的な情報しか得られない機関に何の意味があるというのか。

 ……スマホは触らないのかって?そうだな、極力触らないようにしている。ゲームなどもそこまで熱中してやれるようなタイプではないし、はっきり言って面倒なのだ。SNSなどのつながりもテレビと同じく偏向的で浅はかに思えてしょうがない。ネットという狭い社会に閉じ込められたくはないのである。

 文句ばかりだな?自分でもわかっている。不満を内にため込み、生活バランスは崩れ、情緒不安定。ストレスで爆発しそうな毎日を送っていることくらい。

 しかし、考えてほしい。絶対にこんな奴は世界にありふれている。どうしようもなく社会に不満を持ち変わらない日常を嘆くのだ。自分で変わろうとはしないくせに。全てを社会のせいにして、心の中では自分が悪いのだと知っている。あぁ、私が悪いとも。

 認めたところでなんだが、そもそもこんな他者に縛られなければ、生きていけない社会なんて滅べばいいとは思わないか。金に縛られ、国に縛られ、他者の目を気にして生きていく。仕事は安定せず、どの会社がつぶれた。この業界の調子はいい。公務員が一番安全だ。この国はもうおしまいだ。いろいろな不満が表層上に大量にあふれている。他者に感謝しあう世界ではなくなり、他者に不満を押し付け合う社会へと変貌を遂げた。持たざる者が持っているものを妬み嫉む。

 今からこの社会に無まれてくる子供たちに、幸せを夢見ることはできるのだろうか。私の人生は、この不健康な生活から考えて寿命は残り二十年そこらだと思われる。しかし、医療が発達していくこの世界で、今から生きる子供たちは今後、何十年もしかしたら何百年と生きていかなければならないのかもしれない。そこに希望はあるのだろうか。


 ――ふっ、ばからしいな……。


 ジラジラと照り付ける夏の日差しの中、とりとめのない思考の中で取り留めもなく世界を見つめなおしていた。暇な奴にはこんなことしかやることがない。

 否定的な意見しか頭の中には浮かんでこず、ついボソッと私はつぶやいた。

「もうそろそろ日本も終わりかな」と。

 それが、この日本の終わりを初める最初のきっかけになるだなんて、私は知らなかったのだ。私は縄文人にでもなって、今の社会の便利さを改めて見直す必要があったようだ。後悔しても遅いのだが。



***************************************

 まあ、そんな私の愚痴を聞いてしまった隣人の社会人が、それもかなり地位の高い社会人(何でこんなアパートに住んでるんだよ、なんで私の独り言が聴けたのかもわからない)が職場をボイコット(というか突然やめた)。自由にしたいことをしだしたため、株価が暴落。この幹部に寄せられていた期待が高かった分、それは大きな結果となって振りかぶってきた。その会社が日本が誇る大企業であったため(それも実質全ての権利を握っていた会長が無くなった直後)、さあ大変。日本の利権を奪いたがる近隣諸国の企業が、それに付け込もうと様々な事件が多発。テロリストもなぜだか急に活動を活発化させ、てんやわんやの大騒ぎ。アメリカ軍は本土におらず、大事な時に使い物にならない。東京が集中攻撃されて、日本のネットワークはぼろぼろに。日本はいたって平和な国(呑気に生きてた)であったため、騒乱になれておらず死者多数。軍権の問題からなにからひっくり返ってしまい、日本は混乱状態に陥った。天皇制も廃止される(そもそも、もう後継者がいない)かの如く、一気にいろいろな事件が重なり政府はパンク。面白いくらい簡単にまるでドミノ倒しのごとく社会は壊れていったという話であった。


 ちなみに私の会社もつぶれた。なぜか、隣人と一緒に暮らしている。高校の時の後輩であったらしい。食事や生活環境を整えられ、至れり尽くせりの毎日だ。ちょっとやせた。ちなみに隣人は大企業の闇、つまり政治社会とのつながりなどの情報を山ほど持っているらしく、要注意人物としてマークされており、今はアメリカ大使館にお世話になっている。私は関係ないはずなのだが、隣人のボイコットに巻き込まれたからなのか、そのままずるずるとこいつの隣に居座っている。


「なぁ、夏暑くないか?」

「冷房つけろよ」

「クーラーは嫌いなんだ」

「おっさんめ、扇風機つけろよ……。夏が暑いのはあんたが外に出ないからちょうどいいだろ」

「……?」

「そもそも、俺がボイコットする羽目に陥っていったのは、あんたが今まで垂れ流してきた妄想がすべて真実に変わり始めていたからなんだが。窓辺でぶつぶつとつぶやいていた内容が政治の重要機密だったら、それは驚くだろうが」

「……妄想は妄想だ。現実と混同してはいけない。」

「……一事が万事、そんな感じだからほんと困る。あんたがそもそもあそこに住まわせられていた意味を考えたらわかりそうなものなのにな。」

「……わからんな」

「自覚なしかよ、もう勝手に言ってろ」







ちなみに2050年くらいを想定したお話。こんなことになってたらいやだなっていう。主人公40歳くらいで、おっさんらしいおじさんをイメージ。

作者も夏の暑さに狂わされてます。

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