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AM8:57

「やっばい、遅刻ちこく~ッ!」


 空耳を疑うほどベタな第一声を耳にして、落合(おちあい)出海(いずみ)は顔を上げた。


 何の変哲もないただの住宅街。サラリーマンや主婦や小学生が行き交う、平和な朝の風景。

 その中に混じって通学途中の高校生もまた、お世辞にも個性的とは言い難い、普通で平凡で著しくモブ顔の少年だ。


 勉強もスポーツもこれといって得意なものはなく、何をやっても成績は中の中。将来の夢もなく、熱中する趣味も持たず、毎日なんとなくソーシャルゲームや動画配信サイトで時間を浪費している。

 とはいえ本人はそれを悲観していない。周りの他の学生も似たようなものだったし、意識高く生きなければならないという義務はない。

 未来ある十七歳の少年としては、そんなことより彼女が欲しかった。絶対そのほうが人生が潤う、とだけはなぜか無根拠に確信していた。


 ――ひるがえって、冒頭で耳にした例の声だ。

 彼女いない歴十七年の出海少年は、まずそれを「女だ」とタグづけした。次にトーンや音域の高さから「声の主は同年代、つまりJK」と解析、最近観たアニメと照らし合わせて「ヒロインの声優と似た声質。けっこうカワイイ」と結論づけた。


 自然、少年の心は躍る。

 声がしたのは曲がり角の向こうだった。一般日本人の有するメンタルモデルとしては、冒頭のセリフから導き出される彼女のイメージは『食パンを咥えながらバタバタと走ってきて、出会い頭に人とぶつかる』であろう。

 そして今、具合よく周囲には他の人間の姿がなかった。タイミングさえ合えばの話だが、衝突する可能性があるのは自分しかいない。


 ボーイミーツガール、しますか?

▷はい

 いいえ


 入念に耳を澄ませた出海少年は、向こうから見えないであろうギリギリのポイントを目視確認したのち、歩調を緩めてその瞬間に備えた。


 脳内では古いJ-POPが鳴り響いている。少年が生まれるより前の楽曲だが、母が聴いていたので知っている。

 ――さぁ来いロマンスの神様、俺に感謝させてみろ!


 そして、運命の(とき)が――。


「……ばいやばいやばいこうなったら秘術しかなッ……!?」

「――え?」


 出海少年は眼を見開いた。

 それは妄想どおり、かわいらしい顔立ちをした同年代の小柄な女の子だった。

 口に白いものを咥え、手は頭の上に回っていて、どうやらポニーテールを結んでいたところらしい。身支度すらままならないとは、よほど大胆に寝坊したのだろう。

 制服は出海くんと同じ学校のものを着用しており、このぶんなら校内で再会できる可能性は充分。


 ただし、ひとつだけ少年の想定を斜め上に越える大きな問題があった。


 彼女が咥えていたのは食パンではない。朝陽にきらりと輝くそれは、刃渡り二十センチはあろう小さめの刀。

 当然ながら剥き身の刃先は外に向けられている――それが、少年の頸動脈をものの見事にすっぱりと切り裂いた。


 月曜朝八時五十七分。

 出海少年のボーイミーツガールは、鮮やかな血飛沫に彩られた。



 →

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