アリスとエミール短編~美味しいご飯の代償~
割と思いついた勢いで書いてみました。
ボクの名前はレム・アリソン。皆からは『アリス』って呼ばれている。
最近、酔った勢いのまま関係を持ってしまったエミールと正式に恋人として付き合うようになったのだけれど……
「早くも危機を感じてるんだけど」
ボクの言葉を聞いて一番上の姉が眉を潜める。
「えっ?どうしたのよ。まさかクズ男だったの?」
「いや、きちんと話し合って付き合う事になったのいいんだけどね。正直、別にデートしたいと思わないんだよね」
「あんた、彼氏いないあたし相手によくもまあそんな事を……」
ボクとケイト姉、そして最近結婚して家を出た次女であるリリィ姉は同じ日に生まれた三つ子ではない姉妹だ。
その中で現在の所ケイト姉だけは相手が居ない。
いや、何となくケイト姉に想いを寄せているであろう男性はちらほら見かけるけどこの姉は恋愛に関してはポンコツこの上ない。
「でもさ、リリィ姉と違って元々恋愛に興味ない人間だったから、正直デートが楽しいものという発想が無いんだよね」
「なるほどね。確かにあんたは外を走り回る方が好きな子だったからね」
昔は3人でよく外を走り回ったりしていた。
だけど大きくなるにつれ姉二人は女の子らしい趣味とかも持ち始めた。
ボクは変わらず外で遊ぶのが好きだったしある出来事の後はひたすら剣技を磨くことに専念していた。
「ちなみに彼……エミールとはどんなデートをするの?」
「ご飯に行く事が多いよ。でもなぁ、何というかボクは酒場で食べるのが好きだけど彼はきちんとしたご飯屋さんに連れて行こうとするんだ。何か居心地悪いんだよね」
「それってお高いお店?」
「違うよ。だけどボクとしては酒場のおつまみ好きなんだけどなぁ」
まあ、酒場に連れて行ってもらえない理由はわかっている。
ボクが酒乱だからだ。そもそもエミールと関係を持ったきっかけも酔った末にだ。
ちなみに付き合い始めてからエミールとはそういう事はしていない。
意外とその辺はきっちりした人だった。
「まあ、相手に合わせるっていうのも大事だと思うわ。それに、あんたの場合は酒場に行かない方がいいわけだし」
「うえぇぇ……」
ちなみにギルドの酒場は出禁とまではいっていないがボクに対してお酒を提供することがNGとなっているらしい。
「すぐに結論を出さずにもうちょっと彼に付き合ってみたらどうかな?それでどうしても合わないならその時は仕方が無いからお別れするとか。そういうのでいいんじゃないかしら」
「うーん、そうかなぁ。正直不安だなぁ」
この後も彼と会う事になっている。
だけど正直、不快にさせたりしないかとちょっと不安だ。
「それじゃあ、行ってくるね……」
□
それから半年後。
心配していた風にはならずエミールとの仲は続いていた。
そして家で夕食を摂っている時だった。
「何かアリス姉ちゃん、最近太ったよね」
妹のメールが呟く。
何か一瞬、お母さんの動きが止まった気がするけどまあ、太ったのは事実だと思う。
「あはは、やっぱり最近よく外食するからかな」
最初は嫌だなぁと思っていたがエミールが連れて行ってくれるお店はどれも美味しいお店ばかりだった。
酒場のおつまみとかも美味しかったがそれとはまた違った満足感があるし色々な話をするのも楽しくなっていった。
でももう少し運動量を減らさないとお腹が少しなぁ。
お腹をさすっているとまたお母さんの動きが止まった気がする。
「うーん、何かエミールとじゃないと満足できなくなっちゃってさ」
酒場が懐かしく感じる時もあるけどエミールとご飯に行く時間もまた楽しみだ。
以前はお酒、お酒!だったからなぁ。
食べ物の嗜好も変化したと思う。
実の所、甘いものが苦手だったのだがエミールに連れて行ってもらったスイーツのお店で価値観が少し変わった。
「エミールって結構強引でさ。嫌だって言うのに『いいからいいから』ってさ。結構大変だったよ」
上品な甘さというか、甘い物でもこんな美味しいものがあったのだと驚いたものだ。
「それで気づいたら夢中になっちゃってね。あはは……」
ふと、視界の端で今度はお父さんが固まっている事に気づく。何だろう?
よく見ればお母さん以外の母親二人も動きが止まっている。
どうしたんだろう?やっぱり娘が彼氏の話をしているのは複雑な気分なのかな?
「へぇ、姉ちゃん変わったねぇ」
「うん。そうだね。エミールのおかげでこんな体になっちゃったよ。あはは。責任とって貰わなくっちゃね」
パキッ!
お父さんがティーカップの取っ手を握りつぶしていた。
お母さんが表情を無くし、お父さんに目配せをした後、立ち上がった。
周囲を確認するとやはり他の母親二人も表情が固い。
そして末妹は少し青くなっていた。笑顔なのはボクと四女であるメールくらいだ。
あれ?何だろうこの張りつめた空気?
「ねぇアンジェラ、空飛ぶ絨毯…………出せるよね?」
お母さんがボソッと呟く。
「あ、う、うん。勿論……出せるよ」
アンママが少し怯えた表情になる。
「それじゃあ、あいつの父親……エルマーの所まで『最高速度』で飛んでいくとしようか」
お父さんの顔が笑っていない。
「それじゃあ私はアリスを病院に連れて行き話を聞く役を務めましょう」
メイママも肩を回しながら言った。
「あのさ、だけどもう夜だし明日にした方が……」
アンママの提案に無言で微笑むお母さん。
『ひっ』と小さな悲鳴が漏れた。
「あっ、そ、そうだね。こういう事は早めに動くのが良いよね。うんわかった、行こう。それじゃあ……あたし達はちょっとコランチェ迄飛んでくるね」
「コランチェって昔母さん達が住んでた街だよね?いいなぁ、あたしも一緒に……むぐっ!?」
目を輝かせるメールだが横に居た末妹に口を塞がれる。
「き、気を付けていってらっしゃいませ……」
こうして親たちは後片付けもせず出て行った。
はて、一体どうしたんだろう?
この後、何故かボクはメイママに連行される形で病院に連れて行かれた。
え?太っただけなのに?
□□
翌朝にはお母さん達がエミールの両親を連れて戻ってきて何事かと思った。
物凄く気まずそうな顔をしたメイママが何かを伝えると皆が大笑いをはじめ最終的にはいつものお母さんたち戻っていた。
そして皆でわいわい食事をしていたけどあれは何だったのだろう?
エミールに聞いてみると結構な修羅場になりかけていたらしい。
「あっ、気づいてなかったんだ。まあ、その内話すよ……」
苦笑しながら、彼は言うのだった。
え、本当に何がどうなってるんだろう?
太っただけで修羅場?
いきなり息子が付き合っている女性の親が乗り込んで来たらビビるだろうなぁ……