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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第一章 竜の隠れ里編
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第八話 悪魔とトラウマ

後回しにしている場合ではなかった。フェアリー達は図書館の中を飛び回りイタズラし放題好き放題をしていた。一般の入館者にその姿は見えておらずポルターガイスト事件が只今勃発中である。


「マサヤくんどうしてここにいるの?」


「どうしたもこうしたもない!カエデ!試練をする時はあれほど俺を呼べって言ったのに!」


マサヤは試練の事を知っているようだ。という事は千手一族である事を少年は察した。


「そしてマサヤくんじゃない!俺を呼ぶ時はお兄ちゃんと言えっていつも言ってるじゃないか。…やっぱりニーニも捨てがたいなぁ。んん…」


突然ブツブツと自分の世界へ飛んだマサヤを他所に少年はまさかカエデさんの兄だという事実に驚いていた。


そこにミネコが割って入り本題に戻した。


「マサヤ、外で何が起きているか説明して」


状況を確認した時には既に図書館はめちゃくちゃになっていた。鞄やスマホを奪い取ったフェアリーたちが空中を旋回しそれを見て悲鳴を上げる人達。警備員がホウキを持ってそれを突いている。もはや収集のつかない大パニック状態だ。


「やっばー」


ミネコが面白そうに呟いた。


「大丈夫なんですかこれ?警察が来ますよ」


心配する少年と冷静に状況を見るその他3人。また自分の知らない何かがあると勘付くのはもう慣れたものであった。


「何か大丈夫な理由があるんですね」


もうなるようになってしまえと半ば呆れたように少年も状況を傍観し始めた。


「実はね」


カエデが少年のために説明し始める。この試練は基本的にこの図書館の中だけで起きる。一族でない他人が何をして何をされようと図書館の外に出て仕舞えば全て元通りになりすっかりその事を忘れてしまうという。


「そんな都合のいい事があるんですね」


「そういう事もあるんだよ」


何と不思議な世界。なぜ他人の自分にフェアリーが見えているのか疑問は残るがそんな事より少年は自分の懐が無理やりこじ開けられて広くなっていく感覚を味わいどうでも良くなった。


「対処方法がわからない以上このまま続けるしかないみたいね」


日記はどうでもいいメモ書きや痛いポエムのような事が殆どでたまに試練のことが書いてあるぐらいだった。3冊全て手分けして読んだがわかったのは次の試練が「悪魔の囁き」である事ぐらいだった。


「悪魔の囁きには目に見えない声が封じ込められている。正直これは堪えた…どういう意味かしら」


隠し部屋に戻った4人は着くなり次の本が光りだす。順番が正しければこの本の題名は「悪魔の囁き」だ。それを手に取ったカエデが最初の犠牲者になる。


「何これ声が聞こえる…」


他の3人には聞こえていないらしくお互いに目を合わせて肩をすくめた。急に落ち込み背中に影が落ちてカエデを心配してマサヤが声をかける。


「カエデ大丈夫か?何が聞こえた?」


するとカエデは「言えない」と言ったきり何も言わなくなった。次の犠牲者はマサヤだった。


「おい嘘だろ…何でそれを知ってるんだ!?」


面食らったようにそわそわしだし「頼むそれだけは誰にも言わないでくれ!」と目に見えない何者かに悲願し始める始末だ。


次に挙動がおかしくなったのはミネコである。口には出さないが確実に機嫌が悪くなっている。仁王立ちになりつま先が激しく上下し始めた。


そして最後は少年だった。


(お前なんか要らない…)


囁くような男とも女ともつかない声が意識の中に幻聴として聞こえる。


(邪魔だ。早くこの家から出て行け居なくなれ)


少年は言葉を失った。一番聞きたくなかった言葉だ。手足は震え押されられないほどの涙が溢れ出した。


「止めて!それ以上言うな!」


静止も聞かず囁きは続く。


(お前は捨てられたんだ。要らない子だから忘れられたんだ)


「やめろー!!」


耳を塞いでも無意味だった。それは自分自身の声だった。心の奥底にあった否定し続けた事実が無造作に開かれ解放されたのだ。


「大丈夫だよ。一人じゃないから」


気が付くと後ろから抱きしめられていた。カエデは自分も苦しいだろうにそれに耐えて涙を流す少年に()()った。何があったかは知る由もない。だがこんな小さい子が泣いている。その方が自身の事よりも辛かったのだ。


「大丈夫。落ち着いて…」


そのお陰か、いつの間にか囁きは聞こえなくなった。その代わりに背中の温もりが強調され忘れかけていた母の愛情を思い出していた。

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