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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第一章 竜の隠れ里編
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第七話 本と妖精

幼子の笑い声が木霊した。複数の視線が四方八方から感じる。空気は異様なものに変わり異界に迷い込んでしまったと錯覚した。


「始まったみたいね」


カエデとミネコに驚きはない。少年は二人を別世界の住人のように感じた。


「きゃ!」


何者かがカエデの髪を引っ張り上げた。


「私!髪を引っ張られた!」


クスクスと小馬鹿にした笑い声がする。


「ぎゃ!」


少年は小学生以来忘れていた屈辱的なお尻の痛みに悶えて顔を顰めた。


「大丈夫!?どうしたの?」


少年は「お尻が…」と容量を得ない発言をするが何かしらの攻撃を加えられたのは間違いない。


何者かはその度にクスクスと笑い合う。まるで小さな子供のように。


そんな中、ミネコは飛び回る羽音(はおと)に意識を集中していた。隙を狙うやんちゃ盛りなそれはおそらく小さい。そして羽を持っている。動きは早いが捕まえれない事はないと思った。後はこの暗闇の中どう対処するかだ。


お尻を(いた)わっていた少年は()えていた手を戻し固く握り拳を作った。幼い顔は鬼の形相に変わり怒りに燃えていた。決して許しはしないと、この屈辱を絶対に晴らしてやると息巻いた。動けるようになってからは壁際に行きチャンスを(うかが)うようにしている。その姿はまるで目からサーチライトを出す警備会社員のようだ。


カエデはその場で頭を抱えて座り込んだ。ただミネコだけが微動だにせず立ち尽くし瞳を閉じた。無数の羽音が通り過ぎた。相手もその只ならぬ気配に日和(ひよ)っているのかも知れない。そしてチャンスは訪れる。


羽音の一つが痺れを切らし高速で迫ってくる。けれど隙だらけに見えたその姿はむしろ一切の隙がない完全集中の状態だった。


「そこ!」


掴み取ったそれは人の形をしていた。トンボのような羽を生やし眼球の黒目部分が複眼で触覚がある。まさに人間と昆虫のハイブリットであった。


それを見たカエデは立ち上がり駆け寄った。


「凄い!これはフェアリーよ!ほら」


カエデは祖父の日記をペラペラとめくってとあるページを指差した。そこには「妖精の園にはフェアリーが封じ込められている。特に害は無いが時に厄介である」と記載されていた。


「本当だ。他に何か手がかりはある?」


文字を読むにはこの暗闇は障害であった。とりあえず日記について話すために隠し部屋から出ようとする。隠し扉のカラクリが作動しシーリングライトの光がその隙間から差し込んだ。それを待っていた者たちがいる。


何語かわからない号令のような言葉が飛び交った。すると部屋中に隠れていたフェアリーたちは一斉に隙間へ飛んで逃げ出した。それを追いかけるにしても隠し扉の隙間が人一人が通れる広さになるまで待つしかなかった。隠し部屋から出る頃には彼らは四散し手に追えなくなっていた。


「逃げられましたね」


「んー仕方ないよ」


だが1匹だけ逃げ遅れた者がいた。ミネコの手にそれが怯えるように絶望している。


「あら貴方美味しそーね。食べちゃおっかなぁ〜」


ミネコが口を大きく開けて食べるそぶりを見せた。自分の上半身を一口で噛みちぎりそうな上下の歯が目前に迫る。フェアリーは恐怖のあまり白目を向いて失神した。


「あ、ごめん」


祖父の日記には「フェアリーはイタズラ好き」や「他人には見えない」などのメモがあった。しかしこれをどう対処したかまでは記載されていなかった。


「これは何ですか僕は夢を見ているんですか?」


少年は状況をよく受け止めきれていない。むしろそれが普通で彼女らは異常だ。それは千手一族だけに託された秘密の試練で実在する普通のことのように育てられてきたのだ。


「夢じゃないわ。これは現実よ。私の助手を名乗るならこれぐらいでびっくりしないでね」


少年は目を閉じこれまでの人生を振り返った。家に居場所がなく。友達も学校だけの付き合い。勉強はズバ抜けて出来るのが唯一の取り柄で運動は中の下という自分。学生が何時にいても目立たない図書館という逃げの一手に甘えてきた消化試合のような毎日。


そしてそこに偶然起きたアクシデント。普段の自分なら誰かが黒板に何を書こうが気にする事はなかっただろう。しかしそれを書いたのがカエデさんだった。たったそれだけの要因で僕は非日常を選んだのだ。今さら何が起きても彼女への想いは変わらない。ファイナルファンタジーへの道はとっくに始まっているのだ。


「何笑ってんの?ウケる」


ミネコの一言で少年は現実に戻ってきた。今現在起きている事は試練の一つでありまだ7つも残っている。3人はフェアリーの事は後回しにして祖父の日記から次の試練が何なのか予習しようと話したその時だった。


「おい!何やってるだお前たち!」


身長2メートルを超える大男マサヤが緊迫した表情で乗り込んできたのだった。


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