第六十七話 幸福と不幸
ここまで読んで頂き本当に本当に感謝に絶えません。誠にありがとうございます。嬉しくて涙が出ます。
この作品「少年とJKと不思議な図書館」を書き上げる事ができたのは貴方のお陰です。先に読んだ方も後に読んだ方も私に勇気と希望を与えます。
そして次がいよいよ最終話です。魂を込めて書きました。
どうぞ、楽しんで、感じて、お読み下さい。
無は人を恐れさせる。時には希望を与える。それはゼロという性質特有の概念だ。今までに築いてきたものが無に帰る。そう思うだけで虚しさと絶望感に襲われて自暴自棄な感情が込み上がってくる。人間はそういう生き物だ。けれど苦しい時、どうしょうもない悲しみに苛まれた時、人は静かな死を求めてしまう。
言うなれば、幸福はプラスの状態であり不幸はマイナスの状態を指す。前者から見た無は恐ろしく、後者から見たらより幸せに近いのかもしれない。
人の世では常に無の概念が吊り上がる。火は当たり前になり、光も当たり前になった。食もいずれは当たり前になる。暇を持て余した人類は娯楽に幸福の矛先を向けるだろう。
無い状態から何かを得るとそこが幸せの基点として脳が認識する。当たり前は無に等しくなるのだ。その上限に限界はない。人はどこまで行っても不幸を探して傷つくのだ。
石の仙人はその呪縛から解き放たれた者たちの成れの果てだ。希望を持って生きている人々からは哀れな目で見られるている存在である。逆に苦しみ絶望する者には救いの象徴に見えてしまう。
人はいつしか彼らを祭り上げた。その思想を学ぼうと何人も弟子になる事を願う。けれどそれは拒まれた。仙人は言う「救われたいのなら。そこに座り、何も考えるな」と。
それだけ言うと仙人は何一つ反応を示さなくなった。食べる事も横になって寝る事もない。彼らの体は次第に石質化し石像となった。
その事実は仙人を神格化させ誰もが羨むようになる。その教えは一つだけだ。この異界の人類はその存在に精神的な救いを求めた。やがて全ての人が考えるのをやめる結果となる。世界も大きく影響を受け無を象徴する石に変化した。
それが再び考える時が来るなど思いもやらない。モトコが心の悪魔と交わした契約は「絶対に目を逸らさない」というものだ。彼女がそれを実行し続ける限り悪魔は力を貸す。
それによってうちに秘めた可能性や些細な感情に意識がフォーカスされる。モトコの能力下では仙人が生きることから目をそれらす事が難しくなったのだ。心を無にするという事は並大抵なことでは無く、とても繊細な作業だった。仙人は怒る事も悲しむ事なく。ただ事実だけを聞く。
「お前さん達の目的はなんじゃろな」
それは他人への問いのようであり自問のようでもある。独り言にも聞こえる。少年はそれに答えを出してみた。
「僕たちの世界を救うために来ました」
答となる言葉は幾つかあった。「秘宝を探している」とも「この世界を調べている」とも色々な内容が浮かんだが何故かこの答えが一番しっくりきた。
始まりのキッカケは褒められたものでは無い。それはカエデに気に入られてあわよくばお付き合いする関係になりたくて頑張っていた。それがいつしかトラウマを克服する為になり、親子関係を修復する為になり、今では世界の命運を背負っている。
沢山の異界を見てきてその理の在り方を体感して思った。地球という世界は意外と素晴らしい世の中だったと。何か一つの答えに全員が向かうわけでもなく。それぞれが解り合うわけでもなく。凡ゆる民族が多様な文化を尊重する事もあれば迫害する悲しい側面も持ち合わせる。決して一方に振り切らない。決定的な事実を目の当たりにするとちゃんとブレーキをかける人がいる。それに耳を傾ける人がいる。それを阻止する人がいる。良くも悪くも沢山の思惑が世界の秩序を生み出している。
自分はそこで生きていたい。そんな世界をもう一度再開させたい。そんな想いから出た言葉だった。仙人は「そうか」と一言だけ言って興味を示さない。ただその視線はある方向を差していた。そこには石ころが転がっている。それはミネコの能力下でもその本質が変わらない「ただの石」だった。仙人は石ころから視線を逸らす事なく呟いた。
「羨ましいのう。これがワシの絶望だったか」
どれほど自分を上げようと、精神を学びから解き明かそうと、たどり着かない境地がある。それは憧れた他者になる事はないということだ。
モトコと少年は「ただの石」を拾い上げ故郷に帰る。仙人はその姿を静かに見守った。その目は悲しみを含んでいる。そして心の悪魔がもたらした束の間の時間は過ぎ、仙人は再び考えるのをやめた。
これで全ての秘宝は揃った。それはただ一つの奇跡を呼び寄せるための媒体になる。それぞれの世界の理を持った形あるモノたち。その全てが合わさり神話を再現する。それは全能をもたらす神の霊薬「エリクサー」にその姿を変えるのであった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
皆さんの心に届く物語が描けたと信じています。
今後の執筆活動に期待していただける方は是非とも高評価をお願いします。更にちょっとでも面白いと想っていただいた方もお気持ちの評価をお願いします。
それが私にとっての最高の喜びです。幸せになります。貴方もきっと幸せになります。
そして次回はいよいよ最終話です。お見逃しなきように是非ともブックマークもよろしくお願いします。
喜郎サ




