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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
最終章 異界巡り編
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第六十四話 ケジメと決意



世界は変わり果てた。有機物が何一つない。無機物だけの環境。大地は剥き出しで太陽に晒され。カラカラに乾き。ひび割れる。土壌細菌は死滅しミクロレベルでの生態系の循環はもはや崩壊した。


この土で畑を起こしても植物は上手く育たないだろう。まるで現代の大規模農場の末路を見てるかのようだ。土を化石燃料でひたすら耕し、虫を殺し、菌を殺し、剥き出しで太陽に晒す。そこに化成肥料や化学物質を投入し続ける事で野菜に不自然な成長を促す。一度それをやめてしまえば、残るのは野菜の育たない痩せこけた土壌になる。いずれ限界が来ると知りながら延命治療を続けているに他ならない。そうやって人の手を加えられた土地は無理矢理病気にさせられているのと同じだ。貴方が口にしたフォアグラのように。今に見ているがいい。いずれわかる事だ。


けれどそれでも自然は偉大だ。時間をかけ少しずつ豊かさを取り戻そうと懸命に働く。痩せこけた土にはその環境に適した草が生える。背の高い。太陽のエネルギーを集める力の強い植物が土に養分と細菌を呼び寄せるのだ。やがてその土地が豊かさを少し取り戻すと背の低い草が生え、木が生え、いずれは森になる。


森の樹々は葉を落とし地面を覆い尽くす。その下でミクロレベルでの生命の循環が行われる。虫や菌が枯葉や死骸を分解し植物に栄養を与える。それを狙って鳥類や小動物が住み着き更にそれを狙ってより大きな生態系が生まれる。命は次世代に譲り与えられるのだ。そこには生命の循環があり輪廻転生はこうして完成する。私たちの体は生きた何かで作られるものだ。死んだ者はまた誰かの中で生まれ変わる。それは尊い事だと思う。けれどそれを壊滅させる力を人は持ってしまった。


緑の魔法使いシータはそれを予感していた。命尽きるまでその問題に立ち向かった偉大な魔法使いだ。彼女が生涯をかけて作り上げた魔法は「深緑の苗」。それはこの世界に住む生命を一つ一つ記憶し補完する装置。数千年前のものになるがもう一度世界は生命に溢れるだろう。少年は彼女の知識を頼りにそれを探した。風景や大地の隆起ではもう頼りにならない。


太陽と方角から座標を計算し大まかな位置を割り出した。きっとこの下にそれは眠っている。少年は皆を一度自分から離れさせ一人ポツンと立った。そして人格をシータに譲る。彼女は数千年ぶりに生まれ故郷の姿を見た。


「やはり。こうなってしまったのね…」


戦の絶えない血生臭い民族性に危機感を覚えていた。だからいずれ世界は何かしらの方法で滅びる。その可能性がある。それは自分の生きる時代より遥か先。子孫が生き残っていれば。その現状に胸を痛めることがあれば、力を貸すために用意した遺産だ。


少年はその時を迎えていた。シータは「ありがとう」と礼を言う。故郷を救う機会を与えてくれた事に感謝した。


シータは手を広げ世界を感じる。感覚で装置の居所を探した。それは今立っているところの真っ下に埋まって眠りについている。その種に語りかけた。「目覚めよ」。命を再生させる装置がその呼びかけに応えて発芽した。


大きな地響きがなる。大地は揺れ動き大きな裂け目ができた。シータを宿す少年はカエデ達と共に宙に舞いこれから起こる一部始終を見届ける。


裂け目から巨大な植物の芽が顔を覗かせた。それは双葉になり、ぐんぐんと空へ伸びた。やがて表面が木質化すると天空を覆い尽くす程の巨大な樹木になった。まるで日食がやって来たかのように昼間に夜が訪れた。


そしてその周辺一帯がポコポコとぼんやり光っている。地面が隆起して根の生えた丸いカプセルが地表に浮き出た。その中には2匹の生物が入っている。動物のつがいだ。液体の中を眠るようにぷかぷか浮いている。


他にもそれと同じようなカプセルが無数にあった。1匹だけのモノも有れば植物の種もある。中には無色透明の肉眼で確認できないモノもある。


この装置は言うなればノアの方舟だ。数千年前に現存していたほぼ全ての生き物が再び地上で目覚める。これらはこの時より始まる新世界のアダムとイブになるだろう。けれどそこに決定的に欠けているモノがある。カエデはそれを口に出して確認した。


「気のせいかな。人類が一人もいない」


見渡す限り様々な生物が見える。けれどこの世界の人種は多種多様でその民族の数も多かった。にも関わらず一体も目に付く事はない。その疑問にシータが答える。


「ケジメよ。人類は十分に繁栄したわ。人生が一度きりなように文明も同じでなくては…」


少年の顔でそれを言ったシータは泣きそうな表情をしていた。本当ならこんな事はしたくない。兄弟や友の子孫も出来るならば復活させてやりたい。けれどこの装置に人類を補完させる勇気は彼女には無かった。


それは同じ過ちを二度と起こさないための覚悟と決意の表れであった。

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