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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
最終章 異界巡り編
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第六十二話 諦めと救い



6つ目の異界。その名を「大群の襲来」。名付けたのは光の魔法使いゲレルだ。本当の名を知る者は残り僅かである。世界は大きな大きな問題に悩まされ絶滅の危機に瀕している。


前回のマサヤ達の襲撃により警戒が益々強くなっていた。けれど追加で手を下さずとも時間が彼らを刻々と蝕んでいく。


食糧危機は死に直結している。植物も動物も何もかもを食い滅ぼしたこの世界に残されたのは共食いによるその場凌ぎだけだ。唯一の都はもはや蟲壺のように死が蔓延していた。


マサヤは定期的に偵察のために転送され状況を事細かに記録してきた。もうそろそろかと攻略再開の時は近かい。貧民街はもぬけの殻。中央へ続く門を守る者は誰もいない。けれど標的はまだ生きている。手薄になった今ならマサヤの単独でも攻略は容易に出来るだろうと踏んで城に乗り込んだ。今度は正面から堂々と。


確認するまでもないがやはり敵は襲っては来ない。城門を爆破して中に潜入する。これだけ派手に登場すれば残党がここに集まるだろう。その数を確認する。それでも誰一人現れなかった。


マサヤは胸騒ぎがした。標的は生きているというのにそれ以外は誰もいない。そんな事があるのだろうか。その足で玉座の間にたどり着く。王はこの中だ。一歩たりとも動く気配がないとカエデは報告する。観念したのか。前回と違って随分と(いさぎい)い。


罠の可能性もあった。けれど何となく普通に扉を開けて入った。マサヤは目を見開く。玉座に座るのは豚面ではない。紛れもなくあの青い鬼だった。傍に同種の女性が立つ。侵入してきたマサヤに冷たい視線を送った。鬼の王は語る。


「久しいな門の使いよ。ここに現れたと言う事は私の命が欲しいのだろう。だが残念だったな…」


青鬼は不死身である。だからマサヤの目的は叶わない。そう言った。それはつまり現在は青鬼が王を宣言しているのだろう。そして戦う事に積極性がない。話し合いが出来るとマサヤは思った。


「今はあなたが王という事だな。確かに私は王を殺しにきた。だが戦う意志がないのなら別の道を探す」


マサヤは思った。この異界の秘宝である「暴君の心臓」それはそもそも何なのだろうと。この世界の事をもっと知る事ができれば平和的な解決ができるかもしれない。まるでミネコのような事を考えたものだ。


青鬼に問う。「何故にあなたが王になったのか」と。青鬼はそれを聞いて鼻で笑った。すぐに浮かんだ言葉で「よそ者に話す価値はない」とそう言おうとした。けれどふと思いとどまる。二人しかいない世界でよそ者呼ばわりとは滑稽な事だと。どうせ滅びるのだ。誰か一人でも自分達の愚かな歴史を知る者がいれば少しは救われる。そんな気がした。鬼の王は語る。


「なに。簡単な事だ。この世界に私と妻の二人だけだ。王も何も国民すらいないのだがね」


笑えない冗談に無理矢理笑顔を貼り付けた。こうなるまでの経緯を語る。


前任者であるオークの王は古の禁術だった召喚の儀を復元した。それによりあらゆる異界からそこに暮らす種を呼び寄せる事ができたのだ。ドラゴンなどの強力な種族からゴブリンなどの殺戮狂まで様々な種族で増強した国軍は無敵を誇った。けれどそれを維持するためには膨大な食糧が必要だった。


召喚の呪いは強力だ。王の命令を絶対として裏切る事はない。オーク王は雑な命令を下した。攻め入った国に食えるものは何でも食え。それは過大解釈を起こし行く先々で全てを食い尽くした。残るのは不毛の地。草一本残らなかった。


そして世界はオーク王の名の下に初めて統一された。しかし一国しか現存しなかった。その後、危機的な食糧問題にぶち当たる。一度召喚の儀で呼び出した軍は極限の飢えにより次第に制御下を離れた。巻き起こる》(おぞ)ましい共食いの連鎖。ほぼ全ての者が食われた。


鬼の王は歯を食い縛り絶望を思い出す。傍で聞いていた妻も感極まり(すす)り泣く。我が子達も皆食われた。その光景が脳裏に焼き付く。守ることの出来なかった自分達は不死の体によって再生し生き延びた。しかし目覚める頃には誰もいなくなっていた。青鬼に語ることはもうない。


「それが我が世界。何と虚しい…」


この先、夫婦二人で子を作ったとしても食わせてやれるモノは何もない。不死の体を宿すまで40年以上かかる。希望も何もない。後は自分達が老いて力を失えばいよいよ死がやってくる。それが怖くて仕方ないのだ。けれどこの苦しみからも解放される。それが待ち遠しい。


青鬼の夫婦はそんな絶望すら(すが)る対象にする。それしか生きていけない運命を背負ったのだ。


マサヤは思った「救いたい」と。こんな悲しい結末はもう懲り懲りだ。見てきた世界の半分は悲しい結末を辿っていた。一つぐらい自分達の手で何かしてあげたい。そんな風に思っていたのである。


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