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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
最終章 異界巡り編
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第五十四話 無償と親孝行



母の無償の愛。誰もが耳にする言葉だろう。モトコも母親とはそういうものだと思っている。だから血のつながっていない息子は愛せないと結婚当初から考えていたし実の息子はお腹の中にいる頃から愛していた。それは一つの事実だ。


幼い頃の少年と赤ん坊の頃のガイアを思い出す。初対面の大人の女に対して明らかな抵抗感を示した少年は常に空気を読んで顔色を窺ってきた。その不器用な笑顔が正直、気持ち悪かった。可愛いくない。前妻の匂いがして好きになれなかった。だから余計に(すが)りついてくる実の息子が可愛くて仕方ない。そう思っていた。


けれど今だから思う。私の愛は何処へ行ったのか。ガイアは側に居ない。当たり前の生活も失った。少年は以前のように顔色を窺ってくる。全てを失ったような気分だ。けれど自分は生きている。死んでいないならまだ何か出来ることがあるかも知れない。そうして辿り着いた答え。何か一つ自分を幸せにしてくれていたのは何だったのか。今一度考えた。


本当に取り戻したいのは実の息子であり、その無邪気な愛だった。私の無償の愛など些細なものだ。子供の無償の愛に比べたのなら。私がどこで何をしていても。忙しいから邪魔だと邪険に言っても。機嫌が悪くて理不尽な叱り方をしても。子供は私を求めて脚に(まと)わりついてくる。健気なものだ。そんな鬱陶(うっとう)しくも愛おしい不器用な存在が子の愛情表現で無償の愛だったと今更に思う。それをもう一度見られるのなら。


モトコは全てを知りたいという姿勢だ。協力したい気持ちを汲み取るならばある程度の情報は必要だろう。ナオスケがその役を買って出る。


「モトコさん。大変いい心掛けです。こちらとしても人手が足りていない。貴方がどれ程の覚悟か試させて貰いますがそれでも宜しいですか?」


何を試すというのか。ナオスケは今何が行なわれていて何をしたいのか。それを一通り説明した。そして彼女にピッタリな世界から秘宝を取ってくるように言った。


「モトコさんに行っていただく異界は悪魔の囁き。この世界は貴方のような強い覚悟を持った人でなければ生きては戻れません」


生きて戻れない。それは肉体的な死を意味するものではない。完全な魂の死。復活すら不可能な最も危険な試練だった。その事をまだカエデ達には言っていない。元から自分が行く手筈(てはず)だ。


ただ攻略法はある。愛すべき誰かを強く念じ忘れない事だ。少年のように自己肯定が得意な者にはなんて事ないが強く自責の念に囚われやすいと魂を簡単に盗まれてしまう。故に復活は出来ない。けれど不安材料も多い。これまでの異界全てが以前の条件と大きな違いがあるからだ。ナオスケはモトコを実験に使う気である。それに気付かない少年ではない。


「ナオスケさん。それはちょっと危険すぎます。モトコさんを行かせるなら僕も一緒に行きます」


それでモトコが鼻息を荒くして少年の横顔をハッと見る。彼女は強く興奮している。それで自暴自棄になったように、ただ息子を助けたい気持ちが先走っていた。握り拳を作った自分の手が震えていることにも気付いていない。隣に座った少年だけがそれを見た。だから助けたくなった。


それは愛されなかった可哀想な子供の性だ。そういう子ほど大人になってから親孝行をしたくなるものである。押し殺しても完全には消えない。良い子にすればもしかしたらという、言葉にならない無自覚な切なさが心の奥で燻り続けているのだ。モトコがそれに気付く事などないかも知れないのに。


ナオスケは少年の安全を考えればもちろん反対したい気持である。けれど成功率は格段に上がるだろう。決断をしぶる。すると突然ガオウが飛び出した。


(おうおう!こりゃぁ聞いてられねぇぜ!リクトが行くつってんだ。オメェらが想像するよりも遥かに決意は硬い!諦めねぇのが俺との魂の契約だ。舐めんじゃねぇ!!)


少年が言えなかった事をガオウが代弁した。もう止める理由はない。諦めた少年の恐ろしさをモトコを除いて全員が知っている。マサヤがそれを後押しした。


「父上。もう行かせたほうが良い。連絡を密に取る事を条件に。そして返事が途絶えれば即座に救出する。それでどうでしょうか?」


ナオスケは悩んだ。しかし決断するしかないだろう。渋々了承した。条件をもう一つ付け加えて。


「良いだろう。だがもう一つ覚悟してもらう」


少年に小さな箱を手渡した。それは魂を封印するための道具だ。ナオスケはそれを説明する。


「これはお前を封印するための道具だ。万が一死ぬ事が有れば以前のように復活はさせてはやれない。その代わりゲレルのようにその場凌ぎの管理者になってもらう。その意味はわかるね?」


それは光の魔法使いゲレルのように図書館の封印システムを再構築出来る者が現れるまで永遠に囚われる事を意味していた。しかしそんな猶予は残されていないのだ。


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