第五十話 ありのままと清らかさ
異文化との接触を交流と感じるか侵略と捉えるか。姿形言語。そして生きる時間軸。その全てが違ったとき。わかり合い。認め合う事など可能なのだろうか。ある程度の衝突は避けられないかも知れない。けれど一握りでも仲良く暮らしたいと願う誰かがいれば関係改善の余地はまだあるのだ。
そんな歴史の中で妖精の園は比較的寛容な時代を迎えていた。彼らは争うことを好まない。そう思わざる追えないほどの血を沢山流してきたのだ。だから一定の条件下で他種族を受け入れている。ミネコは普段と違う異常な生活の中でただそれを受け入れるほかなかった。
浜辺を歩くのは素裸で黒髪の美しい女性。ここはヌーディストビーチなのか。その背後を追うようにもう1人が付き添う。それは性別がなかった。同じく裸だがある所にあるものが何一つ備わっていないのだ。彼らは自然のままに潮風を浴びて身も心も清めていた。
凄く自分を取り戻した気分である。世界に全身が溶け込んだみたいだ。ミネコは指示通りに服を脱ぎ食べて運動して汗を流して心地良い疲労の中で眠りにつく。そんな日々を3日間過ごした。そして4日目の朝が今日だった。生物本来の清らかさを取り戻した者に争いは必要ない。生きるままに幸せを感じ取れるはずだ。
彼女はこの生活の中で随分と仲が良くなった同居人に素朴な疑問を投げかけた。
「アンタ。本当はリクトくんじゃないんだよね?だったらなんあの?」
白髪の美人は思った。「またその話か」と。けれどミネコにとっては重要な事だった。何度質問しても彼の説明が噛み砕けなかったのだ。せっかく仲良くなったのによくわからないままお別れするのは嫌だった。彼は丁寧に答えてあげた。
「厳密に言えば僕はリクトではないけれど元々一つの存在だった。けれど理は僕らを始めから分けるつもりだったんだ。…わかるかい?」
さっぱりだった。少年と彼は今でも一つと言い張る。細かい事は気にしないが軽くパニックだった。美人はそこに一つ考えを付け加えた。
「君がリクトを見ている時。僕も君を観ている。もう会えないかも知れないけれどいつまでも元気な姿を見せてほしいな」
彼の》穢れのない澄んだ笑顔。今なら私にも出来る。この関係に定義は必要ない。ただ清らかな平和そのものだ。今日のお別れは忘れられないものとなった。そしてその足で妖精の女王のもとに向う。
森の木々は彼女を快く迎えた。左右に一歩ずつ下がり来賓に道を譲る。彼らは「ようこそ」と言っているそうだ。次第に一本の線に繋がり女王へ続くロイヤルロードが出来上がった。そして遥か空まで続く大きな木とそこにある樹洞の中。大輪の花のような微笑みがミネコを出迎えた。
「貴方がミネコさんかえ?」
ミネコは「はい」と静かに返事をした。女王は全てお見通しのようだ。彼女を隣に座らせ優しく手を握る。何のためにここに来て何を欲し何をするのか。全てを言い当てた。まるで過去から未来を占われている感覚である。ここまで来て交渉すら必要がないらしい。その代わり浴びるほどお褒めの言葉を頂いた。
「貴方はとても良い娘よ。気は真っ直ぐで思いやりが深い。小さき者にも広い懐で接しているわ。素晴らしい。貴方の想い人には勿体ない花嫁になるわ」
ミネコはその相手に覚えがあったのか耳を真っ赤に染め上げる。女王は「あら可愛い」と気を良くして微笑んだ。相当にお気に入りらしい。そして最後にえこ贔屓して一つ忠告を与えた。
「可愛い貴方のためだわ。ルール違反だけれど一言だけ。青い肌の鬼を見たら想い人を逃しなさい」
それだけ言って空気に溶け込み姿を消した。その跡には金色に輝く妖精の粉が山のように積み上がっていた。ミネコはそれを袋に詰めて元の世界に帰った。
戻るなりカエデが心配して駆け寄ってきた。勢いのまま抱きしめられる。
「ごめん!何にも出来なかった。ケガは?体は大丈夫?」
ミネコは「全然平気よ!ほら」と言ってすべすべになったほっぺを差し出した。とても試練に臨んだ後のテンションじゃない。カエデは転送後に1時間ほど一切音信不通になった事に責任を感じて気が気じゃなかったらしい。いつものミネコが帰ってきてホッと胸を撫で下ろした。
けれどマサヤの姿が見えない。何処にいるのか気になりカエデに質問した。
「マサヤは?どこ?いないけど…」
しかしカエデは申し訳なさそうに答える。
「えっと。ごめんね。私は止めたんだけどお父様もご一緒するって言うからもう次の世界に転送してあげたの。でも大丈夫。連絡はちゃんと取れてるから」
ミネコは嫌な予感がした。けれど別に複数同時に進めることが悪いわけではない。ただ死んで復活できるのは1人までだ。きっと危険な世界じゃないのだろう。一応どの本か聞いてみた。するとカエデはとんでもない事を口にする。
「あのぉ…大群の襲来」
一番やばそうなヤツだった。本当に大丈夫なのか不安になる。そして女王の忠告。何か良くないことが起きそうだった。




