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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第一章 竜の隠れ里編
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第五話 告白と条件

少年は相変わらず図書館にいた。だが今日はいつもと違って目に決意が宿っている。カエデさんに想いを打ち明ける事を決めたのである。


あの駅での出来事以来、彼女には会えていない。黒板のやり取りもいつしか止まってしまった。だから先は無いと焦りを感じていた。


いっそのことダメ元で告白しようと考え始めたのはそんな時だった。少年は自分らしい方法で恋愛ノウハウ本を隠れて読み漁りちっぽけな勇気が芽生えていた。


「あらリクトくん、久しぶり。今日も勉強熱心ね。感心するわ」


「はい。僕はそれだけが取り柄なので…」


いざカエデさんに会うと暗記までして実践しようとしていた付け焼き刃な恋愛テクニックは思考の彼方に飛び去り一つの真剣さだけがゆらゆらと燃えていた。


「あの!」


「ん?どうしたの…」


少年は何か言おうとしている。それも小柄で弱気な中学生には纏えない只ならぬ雰囲気を出していた。カエデは少年に気圧(けお)されて黙って彼を見ていた。


「僕はずっとこの黒板でのやり取りが楽しくて仕方なくてこの気持ちはなんだろうって思ってて。一人で数式を解いている時には感じなかったのにカエデさんが返事をしてくれなくなってからその…」


少年は自分が何を言おうとしているのか途中からわからなくなった。すぐに言い訳が出るのも自分の悪い癖だと考えを改める。しかし今伝えたいことは一つでそれだけ伝えれば良いと思った。


「あの!」


「はい!」


カエデは思わず返事をする。きっとアレが来ると予感して身体が自然に強張(こわば)った。


「僕!カエデさんが好きです!」


予想は的中した。何となくそう来ると思っていた。カエデは表情が緩み少年を幼い子供のように思う。だが返事を先延ばしにするほど少年の事はその程度にしか考えた事はなかった。


「そっか。でもごめんね。嬉しいけど気持ちは受け取れないわ」


「そうですよね」


ショックではあったが()いはない。名門女子高生が一介の平凡中学生を相手にしてくれない事ぐらいは最初からわかっている。少年には既に次の策があった。伊達にミネコさんに仕えていたわけじゃない。カエデさんに恋人がいない事も助けを必要としている事も知っている。認めて貰えるように少しは足掻(あが)かせて欲しいとそう思ったのだ。


「でもカエデさんには僕が必要だと思います。僕はとある人からこの図書館についての秘密を知って僕なりに沢山調べました。これが僕の成果です」


少年はカバンから古びた本を二冊出して少女に見せる。


「これは千手ゴウザブロウという人が書いた日記です。この図書館の棚には幾つもの仕掛けがあってそこから見つけ出しました。これはきっとカエデさんに必要な物だと思います」


千手ゴウザブロウ。それはカエデの祖父の名前だ。そしてカエデもこの日記を一つ持っている。それをもとに秘密の隠し部屋にたどり着いたのだがそれ以上は行き詰まっている。


「どうして君が…」


カエデは動揺していた。この少年は只者ではない。既に自力で図書館の謎に迫っている。一人では辿り着けなかったその先を知っている。


「あ、ダメですよ。ただじゃ差し上げません」


自然と手が出ている事に気がついてハッとした。


「ごめんなさい…。ってそれは私のです。見つけてくれたのは嬉しいけど返してくれる?」


少年は大事そうに抱えて首を横に振る。


「ダメです。一つだけ条件を飲んでくれたら返します」


カエデは少年の評価を改めていた只の中学生としてではなく自分に匹敵する逸材であると、侮ってはならない曲者(くせもの)であると。


「わかったわ。内容次第では聞いてあげます」


少年がカエデの事を好きでいる気持ちには変わりはない。だから少しでも近くにいるための口実でしかない。けれどこの条件は彼女の野望を叶えるための最善の選択だと思った。


「僕をカエデさんの助手にしてください。僕はカエデさんにとって絶対に必要な人材です。」


カエデは迷った。しかしこの契約の先に明るい未来を見出すのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎日の投稿、ご苦労様です。登場人物たちを丁寧に描いていこうとする作者の姿勢が読者の好感を誘う小説だと思います。主人公がどんな人間で、人生にどんな訴えを持っているか、とか書いていって作者の我…
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