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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
最終章 異界巡り編
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第四十七話 救済と平和



心を無にする事。それが全ての苦しみと悪意から解放されて真に救われる瞬間である。その姿は自然のままに存在し普遍的である。けれど生命として生存しようとするその活動が(あら)ゆる異常を生み出す。それは食事をする事であり排泄をする事であり仲間や恋人を作る事である。


なぜそんなにもやるべき事があるのか。様々な考え方がある。その中でも活動の終着点に位置する睡眠という行為だけは異常ではなく正常に近い行為だ。その瞬間だけ生物は無になれる。救済の一瞬を勝ち取るのだ。


現在、最後の試練の封印が解かれた。その事によって世界全てが石化する。飢えも戦争も差別も全て救済され悪意のない世の中が再びこの図書館から誕生した。それは束の間のひと時だ。けれど今だけは本当に世界が平和に包まれる時間である。


ただ一つこの図書館内だけは悪意に満ちていると言っていいだろう。未だ活動を続ける救われない者達がそこにいるからだ。彼らの目的は皮肉にもこの束の間の平和を(おびや)かす事だ。石化の解除というパンドラの箱を開けて世界の活動を再開させることが最終目標だ。果たしてそこに正義があるかはわからない。世界を救ったのが彼らなら(おびや)かすのも彼らだ。それ自体に大きな変化はないだろう。元に戻る。そういう解釈である。


図書館の玄関口に全員が集まる。もう竜人化の効果は切れて皆普段の姿を取り戻している。どこかデジャブな光景だ。けれど1人新入りがいる。震えながら少年の腕に纏わりついている。見るからに精神を病んでいる。その扱いをどうするか悩むところであった。少年は身内として責任を感じている。


「モトコさんは僕が守ります。作戦は予定通り行いましょう」


今回の作戦で少年の最大の役割は試練達成後の封印システムの再構築に重点を置いている。だからある意味誰に子守を任せるかと問われたら少年しかいないと言える。他の仲間はそれぞれの役割で手一杯だろう。けれど危険なのは変わらない。皆渋々納得する。


父ナオスケは本作戦のリーダーだ。できる限り安全に作戦が進むようにもう一度各役割をそれぞれすり合わせる。そして最後に彼らしい言葉で締め括った。


「千手家は恐ろしく傲慢な一族だ。正直この事実をこれまで通り永遠に隠し通すのは無理があると私は考えている。だからその本筋を継承する私でなく。無垢なカエデが資格者に選ばれたのには意味があると思っている。試練の達成で得られる未来は君たちに託されるべきだ」


その言葉は本心から来るものだ。千手家一強の時代は終わりに近い。もう一度図書館の力を使ったとしても今起きている権力闘争や内部分裂を食い止める事は出来ない。強い権力者を必要とする組織に争いは絶えないのだ。それはいずれ自分のような哀れな男をもう一度生み出してしまう悲しい結末が待っているだろう。子供達にそんな未来を背負って欲しくなかった。


「マサヤ、カエデ。…これが終わったら父さんと一緒に母さんを取り戻そう。…もう一度家族になってくれるか?」


思う事はたくさんあった。けれど過去に囚われて自分で自分を傷つけるよりも受容の精神でこれ以上心の傷を深めず暖かい方へと身を任せるのもありだと考えた。傷付いた2人の兄妹と1人の父親が本当の意味で家族に戻った瞬間だった。そしてミネコにも声をかける。


「ミネコ。君には本当に感謝している。妻が居なくなってからカエデの母親代わりをしてくれていたのはずっとわかっていた。心から感謝する」


最後に少年はを見た。その顔はどこかゲレルの面影がある。伝えたい言葉は色々あるが今はやめておく事にした。そのかわりもっと諭してやらねばならない人がそこに居る。


「リクトくんに伝えたい事は山ほどあるが試練を終えた後の楽しみに取っておいてくれ。それよりもモトコさん貴方に話がある」


モトコは身構えた。この悪夢のような状況に置かれては覚めるまで耐えるしかない。不本意だが頼れるのは義理の息子だけだ。それでも平気で嫌った相手に身を委ねられるのが彼女の本質だ。今までもそういう生き方しか出来ない女だった。ナオスケはそんなモトコの性質を突くことで気付きを与えようとする。


「他人の家庭事情に首を突っ込めるほど私は愚かにはなりたくない。しかし貴方にはこれぐらいが丁度いい。今貴方が掴んでいるのは転ばぬ先の杖ではない。話す事も心を通わす事も出来る。どうせこれは夢なんですよ。覚めるまでお互いに洗いざらいぶち撒けて一度信じてみるのはいかがですかな?」


とても大きなお世話だ。けれど他人事とは思えない。理由は違えど歪みを抱えた家庭を持つ少年がこの場にいるのは運命だと思う。愚か者である自分がそれにちょっかいをかけてもより愚か者になる事はない。失敗してもこれ以上大事なものは失いようが無かった。


その想いが伝わったかなど誰もわからない。しかし少年の腕を掴む手の力は少し強まったように思えた。


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