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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
最終章 異界巡り編
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第四十五話 仮装と探し物



悪夢を見ている時。人はどのタイミングで夢だと気が付くのか。(おぞ)ましく。この世ならざる現象を目の当たりにする。誰しもが理解の枠を飛び越えて恐怖を覚えた。それが猛獣であればいずれその腹に収まる自分の未来を想像するだろう。けれどそれが未知のクエスチョンなら自分の無知に悩まされることになる。そんなモトコは助けを求めて他者と自分との間に共感を得ようとした。


「誰かお願い!助けて!」


警備員が「どうしました?」と聞いて駆けつける。しかし間もなくそれらは現れた。そこに変質者の姿を見る。その怪物的姿を見ればうむを言わせず事態を納得させる。目撃者は思った「よく出来た仮装だ」。しかしその結論は想像の域を出ない。実際に変身する様を見たモトコでなければそう思うだろう。けれど子供達は違う。とても素直に彼らをお化けだと認識した。


まだ言葉もおぼつかない幼い子供達が心細さに泣き叫ぶ。廊下に出た変質者達はそれを申し訳ない気持ちで観ていた。罪悪感から一礼をして見せると直ぐに散り散りに何処かへ去っていく。その中の一体がモトコの逃れた大図書館室めがけて走ってくる。子供達は一斉に悲鳴を上げて逃げた。勇敢な大人は「なんだお前!!」と小柄なそれを怒鳴り付けて取り押さえようとする。けれど片手一つで大の大人が跳ね除けられる。誰もその光景を理解できなかった。それをやってのけた者の正体は少年である。一番嫌な役を任されていた。とんでもないトラウマを植え付けてしまったが致し方ない。そのまま目的の方へと一直線に駆け出した。


図書館の中であれば試練中は一般人の被害の心配はない。けれど進んで傷つける趣味もない。出来るだけ被害の少ないところから捜索活動を開始する。


少年は背の高い本棚を見上げる。頬を膨らまし燐火(りんか)に輝かせた。その行動はドラゴンのブレスを吐き出す前の動作と酷似している。そして予想通りに口から火が放たれた。本が次々と燃え上がる。それを眺めていた司書が「嗚呼(あぁ)なんて事を…」と悲痛を漏らす。


こうなっては一般来館客の避難が最優先事項である。警備員の誘導も完璧ではないだろう。パニックを起こす避難民が我先に逃げようとして怪我人が続出するのは避けられない。けれどそれは館内を出た後ならばなんの問題もない。少年は耳に入ってくる騒ぎを無視して黙々と本を燃やした。


一方、騒ぎの群れを誰よりも早く切り抜けて外に出たモトコは又もや不思議の渦に飲み込まれ呆然とその光景を眺めていた。


入館口の避難民が切羽詰まった表情で外に出た。けれどその瞬間何も無かったかの様に普通に歩き始める。泣き叫んでいた幼児もどこ吹く風である。頬を伝った涙すらいつの間にか乾いて消えていた。


自分は何を観ているのか。図書館も外から火の手が上がっている。誰も見ようとしない。野次馬の1人も集まらない。何も信じられない。

これは幻覚だろうか。自分の頭がおかしくなったのだろうか。心細さで涙が出た。そんな彼女の袖を掴み背後から声がかかった。


「ママ大丈夫?」


ガイアだった。自分を心配してくれている。大事な息子である。真実を知るのは怖いが聞かずにはいられない。


「ねぇガイア。ママ、変なこと聞くけど図書館って今どうなってる?」


本当に変な事だとガイアは思った。けれど思ったままを答える。


「え?ん…普通?何もないよ」


ガイアの「何もないよ」とは「いつも通り」という意味だ。モトコは愕然(がくぜん)とした。自分は本当におかしくなったらしい。その原因には思い当たる節がある。アイツらだ。行き場のない不安が怒りに変わる。居ても立っても居られなくなった。勢いのまま息子の手をとって中に入ろうとする。けれどガイアは酷く嫌がった。


「やだ!やめて入りたくない!」


どうしてだと不思議に思った。これは自分の幻覚なのに息子は見えないのに嫌がる。ガイアはこの場で待つと言って聞かない。やはり何かある。そう確信した。仕方なくモトコは鞄からゲーム機を取り出して言った。


「わかった。絶対にここから離れちゃダメよ。これ貸してあげるから待っててね」


モトコは息子のオデコにキスをして抱きしめた。ガイアはそれを恥ずかしそうに嫌がるがそんなに嫌でもない様にも見える。その様子を少年は館内から眺めていた。


大図書館室の本は全て燃やし尽くした。けれどお目当てのモノは見つける事が出来なかった。後は他の仲間が見つけてくれる事を願うしかない。この作戦は完璧だ。誰かは必ず見つけ出すだろう。その余裕が少年に無駄な雑念を考えさせる要因になっていた。


モトコは少年にとって赤の他人だ。けれど曲がりなりにも自分の母親になると決断した女だ。だがそれがどうした。何も悔しくはない。自分は母親を覚えていない。だから何も知らない。何も羨ましくもならない。大丈夫。そんな葛藤(かっとう)は今回が初めてではない。だから深呼吸する。頭の中で自分を弁護してくれる優秀な人材をかき集めて脳内裁判を起こした。そして頭がクリアになったところでふと思った。


モトコはあんな風だけど一応母親をやっているんだな…。少年にとってはじめての感情だった。


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