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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
最終章 異界巡り編
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第四十四話 尾行と竜人



痺れを切らせて試練の開始の合図を先に知らせたのは図書館側からだった。館内に奇妙なボヤ騒ぎが頻発する。それはすぐに消し止められた。もっと奇妙なのが次の日には誰もその事を覚えていないようだった。それは間違いない。試練で起きた全ての出来事は図書館を出ると元通りになる。勿論それは挑戦者を除いての事だ。けれど一つの懸念を口に出すことで皆がこの事象に納得する。


「封印が弱まってる」


次の試練は「怒りの精霊」と「石の世界」。後に知ったが試練の順番に決まりはない。光の魔法使いゲレルが敢えて攻略順番を決める事で難易度を最適化していたのだ。今回は運の良い事に順番通りの世界が目を覚ましそうである。怒りの精霊は炎を(つかさど)るのだ。けれど出来ることなら自分達のタイミングで封印を解きたい。カエデ達はこれ以上の作戦会議は不要だと判断して本番に臨むことにした。


真の攻略法を身に付けた挑戦者達。試練始まって以来の最強精鋭チームが結成された。年齢や性別など関係がない。彼ら以外に今回の困難を乗り切れる猛者は他にいないだろう。世界の命運がかかっているのだ。皆自分の意思でここに来た。それぞれの想いを胸に抱き館内に踏み入った。


いつも通りの図書館だ。一般来館客もいる。警備員や司書達は当主ナオスケの突然の来館に慌てて頭を深く下げる。そんな彼らに「構う必要はない」と言って気を回した。余計なおべっかを嫌うことで有名なナオスケがそう言えばそれ以上食い下がる事はない。何事もなく引き下がって持ち場に戻った。ただ1人。後ろの方でコソコソと着いてくる母親と子供を除いて。


しかし母親の思惑を邪魔するかのようにその子供は来館を嫌がった。図書館の向かいにある公園に友達を見つけてしまったのだ。母親の手を引き駄々を捏ねる。その煩わしさに気を取られる中。ナオスケ達が立ち入り禁止区画の先へ足を踏み入ったのを見てしまう。母親は焦りを覚えた。


「わかったわかった。行って良いから絶対に違う所にいっちゃダメ!約束できる?」


小指を出すと子供は元気よく「出来る!!」と豪語して2人はゆびきりげんまんで軽い約束をした。子供は何も告げず「イエーイ!」と大はしゃいぎして館内を後にした。その母親モトコはむしろこの方が身動きが取れて良いかもと1人納得する。


その頃カエデ達は立ち止まる事なく秘密の隠し部屋へと向かう。慣れた手つきでカラクリを解除した。中から焼けるような熱さが噴き出る。部屋はまるで圧力鍋になっていた。ダーミーで置かれていた古本は全て灰になり本棚と書見台だけが残っている。その中に一冊だけ燃え続ける本があった。それが怒りの精霊だ。


生身では容易に近づく事が出来ない。けれどそれは想定の範囲内だ。この時のためにマサヤはナオスケから「竜の隠れ里」について猛特訓を受けた。その成果が今発揮される。マサヤは本を取り出し呪文を唱える。それは「竜の秘薬」を意味していた。


空中に現れた無色透明な器に赤い液体が満たされた。順番にそれを受け取って一人ひとりがその液体を一口飲んだ。とんでもない味がするらしく皆口を(すぼ)めてなんとも言えない表情を作る。吐きそうになったカエデの背中をミネコがさすってやる。その本人も吐くのを堪えていた。


(もよお)すほどの不味さを乗り越えるとようやく効果が現れた。肌の色が緑に変色し鱗がマダラに皮膚を覆った。瞳が赤くなり縦長の瞳孔に変化する。その姿は半人半竜。もはや今回は人間を捨てないとやってられない域に達したようだ。けれどそれも一時的である。


全員が人間をやめたと同時に後ろの方から悲鳴が鳴った。尻餅をつきその人物は腰が抜けたようだ。目覚まし時計のように誰かが止めるまでなり続ける。本当にうるさい。その正体を確認した少年は大きなため息を漏らす。


「モトコさん。なんでここにいるんですか?」


「ぎゃー!!化け物ぉー!」


話にならなさそうだ。可哀想だが無理矢理に腕を引っ張って廊下に放り出した。モトコはその勢いのまま「助けてぇ!!」と泣き叫んで逃げていく。


それに構っている暇はない。カエデは燃え上がる怒りの精霊を手に取った。けれど火傷をする気配が無い。それが竜の特性だ。火や熱に対して圧倒的な耐性を持っている。逆に水や冷気には命すら脅かされる。そういう生物なのだ。そして試練が開始する。本がものすごい勢いで燃え尽きたかと思うと床にマッチの火程度に勢いを失う。けれどそれは助長に過ぎない。所謂迎え水ならぬ迎え火であった。父ナオスケがそれを見届けると合図を出す。


「予定通りだ。急いで行くぞ!」


カエデ達は一斉に部屋を飛び出し何かを探し始める。タイムリミットは図書館が全て燃え尽きるまで。一刻の猶予もないのであった。

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