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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
最終章 異界巡り編
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第四十三話 養子とプロポーズ



自分がするべき仕事は自分で決める。やらなくてもいい仕事も同様にだ。それは時としてお金にモノを言わせて成立する場合もある。しかしそれ以上の見返りがあるとわかっているのならば躊躇(ちゅうちょ)する必要もない。


父ナオスケは部下に最適な任務を与え彼は間違いなくそれを遂行するだろう。何よりも時間が惜しいのだ。足早にカエデ達の待つ部屋に戻る。きっとあの小さな暴れん坊に手を焼いているはずだ。けれど相手はただの子供。ベビーシッターの手配は既に済んでいる。それでこの任務は無事完了だ。誰も傷付かない見事な作戦だったと我ながら思う。


再び戻ってきた部屋はとても静かだ。奇妙である。何かとても嫌な予感がした。ナオスケは慌てて扉を開ける。


「大丈夫か!」


一瞬にして視線を集めた。皆から人差し指を口元で立てられ「シー」と静粛を示すジェスチャーで咎められる。彼らの中心では幼い少年が寝息を立てていた。


ベビーシッターもその場にいたが自分達が来る前から幼児は静かに寝ていてミネコに抱っこされていたと言う。そんな彼女は痛めた腰を労わりながら「感謝しな」と言わんばかりにドヤ顔を作った。


後に寝ぼけ眼のガイアと酔い潰れたモトコは自宅まで無事に送り返される。その間に重要な話し合いがようやく開催されたのであった。


お題は勿論次の試練についてである。残された試練は二つ。「怒りの精霊」と「石の世界」だ。これまでの集大成とも言える試練となるだろう。話し合いは夜まで続き。少年は一晩この屋敷で泊まることになった。


少年は与えられた部屋でこれまでを振り返る。横になっても寝付けないのだ。フカフカなベット。アンティークな家具で落ち着いた雰囲気の間取り。蝋燭のように淡くゆらめく間接照明。その全てが慣れないのだ。そんな少年の気持ちを察してか目をかける誰かがやって来て扉をノックした。


「リクトくん。まだ起きてるかな?」


それはカエデであった。もし良ければ寝る前にハーブティーでもと誘ってくれたのだ。少年がその誘いを断るわけが無い。是非ともと二つ返事で着いていく。


今日の空は星で一杯だ。地上にそれを隠す街灯の光は一切消されていた。少年はそこに映る星座を全て言い当てることが出来た。けれどそんなうんちくを無駄に披露する事より少女の横顔を眺める事で幸せいっぱいだった。


2人はテーブルに少しだけ明かりを灯し星達を見ながら真夜中のティータイムを楽しんでいた。カエデが話を切り出したのはその後だ。


「もう少しで試練達成しちゃうね」


「はい」


カエデは感謝しても仕切れない気持ちであった。ここまで来れたことが奇跡であり少年は常にその中心にいた。彼の祖先が千手家にどんな因縁があろうとも必ず恩を返すつもりである。その前に一つだけ確認したいことがあった。カエデは「ちょっと良い?」と言って大胆にも少年の顔を両手で挟み自分の顔を近づけた。2人は見つめ合う。少年は「あわわ」と真っ赤になりカエデは一切顔色を変えなかった。


「そっかぁ…」


何が「そっかぁ」なのか。カエデはこれまでの活躍で少年を特別に思うことが多くなった。それは好きである事に間違いない。けれどそれはパートナーに対してのラブではなく頼もしい弟に対してのビックライクのようなモノだ。カエデは少年の両手を自分の手で包み込み言った。


「リクトくん。私たちの子にならない?」


それはカエデの子供になるということではない。千手家に養子入りすると言う意味の提案だ。父にも兄にも話を通していない。少女の独断であった。けれど少年は勘違いをする。


「え!?いや!?あの?!とても良い提案なんですけどそのぉ…。カエデさんを…お母さんって呼ぶのはちょっと恥ずかしいって言うか…」


カエデは「へ?」と変な声が出た。それから少年の勘違いに気が付いてお淑やかに噴き出す。最後には我慢しきれずに大きな笑い声が部屋全体に響いた。


「ち、違うの。私のじゃなくて千手家の養子になって欲しいの」


それは少年の現状を見ての判断だ。これからはどんな援助もするつもりだし千手家の重要な客人として一生迎え入れるつもりだ。彼の実家での扱いは可哀想だと思った。だからいっそのこと親族になればいい。そういうわけだ。けれど少年は首を縦に振らなかった。


「そういう話でしたらお受けできません」


少年にも譲れないものがあった。確かに魅力的な提案である。千手家の一員になれると聞いたら誰もが飛び上がって喜ぶだろう。世界トップレベルの生活が約束されるのだ。働くことはおろか一生使いきれないお金が手に入る。それを断るとはまともでは無い。


けれどそんな事よりも大事なモノを少年は知った。自分が持つ能力が最大限に発揮され誰かに評価される。そうして仲間や同志に支えられて生きていく。その時に味わえる達成感と充実感はお金では買えないのだ。誰かから与えられた幸せなどただ退屈なだけだ。


「正直に言います。僕はカエデさんの助手の座に甘んじるつもりはありません。これからもっと男を磨きます。牛乳もいっぱい飲んで背も伸ばします…。お金もいっぱい稼いで大金持ちになります。そして絶対に幸せにします!だから言いました。僕はカエデさんにとって必要な人だって…」


これからもずっと。そう言おうとして急に恥ずかしくなった。少年は言葉に詰まる。耳まで赤くなり沸騰しそうになった。これはプロポーズじゃないか。それに気が付くにはもう遅い。目の前の少女は少年以上に蒸発しかけていた。


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