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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第三章 光の魔法使い編
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第三十五話 警告と真実



その壁は健在であった。溶かし壊された跡など何一つ残っていない。中の設備もきっと無事だろう。ナオスケはいつものようにノックと合言葉でその隠し扉を開いた。


カエデ達はその背中にニーナのランスを構えながら着いていく。父ナオスケに不審な動きが無いことがむしろ不安を掻き立てた。この部屋に入った瞬間に良く無いことが起きてしまう。そんな予感がした。けれど何事もない。ナオスケはただ黙って設備を復旧し始めた。その準備が終盤に差し掛かるとその姿勢のまま振り向かずに口を開く。


「私の後ろを取るのは良いが君らが今立っている床の模様から少し離れてくれ。リスポーンポイントを起動できない」


ただそれだけだった。安全上の注意に聞こえる。カエデとミネコは矛先をナオスケに向けたままそこから距離を取った。そして異常がない事を検知した装置が起動し始める。基盤に嵌め込まれた四角い箱が光った。順を辿るように発光線が中心に向かって集まり魔法陣を浮かび上がらせた。とても儀式的な光景だ。それが光る物体を形成し始める。まるで胎児だ。それは急速に成長を経てちょうど12歳ほどの男の子になると途端に止んだのであった。そこに産まれたままの少年が横たわる。そして目を覚ました。


「へ!?何…これ?」


動揺していた。体が熱く焼けるような痛みを覚えている。息が出来ないままに意識は遠のいた。最期の記憶。けれど実感が無さすぎてまだなんとも思わない。まるで注射の後のようだ。少年は自分が裸である事とそれを見ている人がいることの方が気になって恥ずかしくなった。


「ご!ごめんなさい!!」


股間を手で隠して許しを乞う。何が何だかわからない。ただカエデさんとミネコさんが涙を流す。少年はこの空気についていけない。誰か説明してくれる人を探した。そして見知らぬ叔父さんがそこにいる。とても人の良さそうな人だ。(にこや)かに僕らを見ていた。それを察したかのようにナオスケがその役をかってでる。


「おはよう。目覚めはどうかな?」


ナオスケは少年がドラゴンの炎によって焼死したこと。この図書館にあるこの設備で復活させたこと。それを簡単に説明する。けれどそれはゾッとするような話であった。(にこや)かな笑顔が逆に不気味に見える。しかし誰かわからない。少年は次にそれが気になった。


「そうですか。ありがとうございます。ところで失礼ですがあなたは誰ですか?」


答えてあげようとしたその時だった。壁が力任せにぶち破られる。現れたのはドラゴンだ。その上にマサヤが乗っている。顔面蒼白でとても再開を喜べる雰囲気ではない。父ナオスケは息子が跨るドラゴンの主従関係を見て瞬時に名前与えたことに気が付いた。それが更に奥を目指して部屋の中に体をねじ込んだ。マサヤはようやく状況を説明しようとした。しかしそれは不要だった。壁に開いた穴の向こうから恐怖の化身が姿を見せたからだ。父ナオスケですらそれが何なのか分からなかった。けれど少年は違った。


「ガオウ!何で!その姿…」


ガオウは苦しんでいた。一時的に心が通わなくなった。それが悪魔の契約に不具合を起こしていたのだ。しかし少しずつ思いが伝わる。そこでどうしても拒否反応を示す感情があった。それは生への憎しみ。少年と交わした諦めない力と真っ向から対決した。


徐々に心から居場所をなくしていく。けれど一度産まれた者は死してこの世から消える。残念なことに憎しみのガオウは少年が生き続ける限り不死だった。やがて分離する。


不安定だったガオウの体が赤ん坊の状態に戻る。その傍にもう一体、不死のガオウがいた。けれどその眼は閉じている。赤い涙が頬を伝う。そして思いを語った。


「俺は絶望だ。それをお前が捨てた」


憎しみのガオウは異質であった。見たもの全てに死を齎す()むべき存在になってしまった。けれど原動力となる力は枯渇する。輪郭が薄れ少しずつ姿が見えなくなる。そして言葉を残す。


「リクト、覚えておけ。今後決して諦めるな。お前が諦めたとき全てが死に至る。この俺の手で」


少年にはその意味が痛いほど伝わる。死ぬ時に一瞬でも思ってしまったのだ。自分が死ぬのなら全てを壊して死んでやると。憎しみのガオウは紛れもない自分の本心だった。


4人は偶然にも合流を果たす。父ナオスケもそこに加わる。これから共に行動するには話合わないといけない事が山ほどある。それをマサヤがまとめる。


「父上。ご無事で何よりです。ですが本心で語って頂きたい。父上は敵ですか?それとも味方ですか?」


父ナオスケはマサヤの中に自分を見ていた。カエデのように誤魔化す必要がないのではと考える。一番大事なのは彼らを無事に生きて帰す事だ。そこが通じている気がした。


「マサヤ。茶化すわけじゃないがお前は立派になった。誇りに思うよ。だから私の知る限りをここで話そう。それを信じるかはお前達次第だ」


そして、ここで千手家が抱える問題を明らかにする。それは一族の問題に止まらない。世界を巻き込んだ由々しき難題に発展していたのであった。


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