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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第三章 光の魔法使い編
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第三十四話 不死と絶望



心の悪魔にも死の概念がある。簡単に言えば宿主の死亡がそれに直結する。けれどそれは正しい解釈ではない。心という器が損失した。それが悪魔にとっての死だ。


少年は肉体の死を経験した。では心はどうなったのか。それは魂という一つの概念と共に禁断の装置に回収されてしまったのである。生きているとも死んでいるとも言えない。説明し難い状態であった。


ガオウはパニックに陥っていた。死は全ての生き物にとって最も回避すべき事態である。自分はもう死んだ。そう認識している。だからこそ意味がわからない。少年の思いが届かない。けれど自分は生きている。絶望は怒りによって消化された。目につくもの全てが憎い。自分をこんな風にしたあのドラゴンはもっと憎い。絶対に殺す。その思いが唯一の原動力になっていた。


大型のドラゴンは敵の一体を仕留めた。それは喜ばしいことだ。しかし突然そこに新たな個体が出現したことも瞬時に察知する。敵の数が未知数だ。より油断が出来なくなる。長距離のブレスにはインターバルが必要だ。追撃に来ない様子から向こう側は先ほどの攻撃でこちらを警戒していると見た。次の一発まで時間を稼ぐことが出来そうであった。そうして一瞬の油断をしてしまったのである。本当の化け物が目の前に現れるまでは。


ガオウは血走った眼でドラゴンを捉えた。伝説上のドラゴンに相応しいフォルムである。体長15メートルを超える胴体は象のように大きく足は絶滅した恐竜のようだ。長い首を持ちコウモリのような羽と太い尻尾を持っている。顔はワニのように大きく凶悪な顎だ。ファンタジーな世界にしか存在しない事を物語っている。


そしてドラゴンもガオウを見た。目視で見える距離に近づくまでその存在にすら気付くことが出来ない。この世のものではない事は一目瞭然である。まるで掴みどころのない地獄のような生命体であった。核のようなものから手足や顔などの四肢が無数に生えたり消えたりを繰り返す。不完全な存在である。それは恐怖そのものだ。こんなものは見たことがない。完全なブレスを吐き出すには力が不十分。だがこの距離なら殺すには十分だ。そう踏んで一撃必殺の黒炎を浴びせた。


しかしガオウだったものにダメージの気配は無かった。既に死という一つの選択肢すら奪われた身ではどんな破壊的外傷をも意味をなさない。所謂不死の存在になっていた。生きる者を全て憎み死をもたらす以外にやる事が無くなった憐れな存在だ。それが高速で迫ってくる。ブレスを吐き終わる頃にはもう目の前にいた。

それは無数の手でドラゴンの首を締め上げる。一思いには死なせない。たっぷりと苦しませてから殺すのだ。それでも満足はしないだろう。


一方、マサヤは急いでいた。少年が死にカエデとミネコが父ナオスケと接触している。あの部屋で見てしまった水晶の映像だけでは状況が十分に掴めない。だがまずい状況である事はわかる。早く合流せねば。そんな思いが込み上がる。しかしどこへ行けばいいかわからない。そして思った。何故アテルイは魔法使いの位置を知っていたのか。


父からはドラゴンの習性を教え込まれた。試練で挑戦者を執拗に追いかけるのはその習性の一つである。それは何らかの方法で位置を知ることができるからなのでは無いかと考えた。アテルイに自由な行動をさせるという事は一番近い挑戦者に会いに行くと言うことでは無いだろうか。マサヤはそんな風に考えた。


だから思考停止だと思われるかもしれないがやはり焦る気持ちを抑えてアテルイの本能に任せた。それが(おぞ)ましい光景に鉢合わせる。通り過ぎようとした脇道に何かが居た。もう原型の残っていない背骨が露出した肉塊。そしてそれを貪り食う化け物。それと目が合った。


背筋が凍りつく。アレは絶対にヤバイ。アテルイに言葉が通じるかどうかなど。どうでも良い。マサヤは急いでこの場を離れたくて叫んだ。


「アテルイ!急げ!頼む!急げ!!」


もちろんアテルイも気付いている。その走る足を更に早めて全速力に切り替えた。そして奴は追ってきた。壁、床、天井。掴み取ることの出来るその全てに手を伸ばし己を加速させた。狂気を全身をもって表現し猪突猛進の如く追い迫る。それは恐怖の権化(ごんげ)だった。


マサヤはこれまでの試練で何度も死にかけたが怖気付く事など一切なく。勇敢に立ち向かってきた自負がある。だから自分は勇者の名に相応しい勇猛果敢(ゆうもうかかん)なカッコいい男だと思っていた。しかし今回は次元が違う。相手はホラー映画のラスボスだ。脳みそに垂れ流された恐怖を司るホルモン物質がとにかくヤバイと警鐘を鳴らす。怖くてチビりそうという感覚を初めて知る。とにかく夢であって欲しい。そう願った。


そしてマサヤの向かう先はカエデ達のいる方角である。とてつも無いトラブルを引き連れての合流が予想されるのであった。


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