第三十話 撤退と合流
竜騎士。ドラゴンライダー。それは世の少年がヨダレを垂らして成りたがる職業で現実には存在しない…はずだった。けれどこの日をもって現代に爆誕する。その騎士の名はマサヤ。竜騎士マサヤである。
頭の付け根に棘は生えていなかった。それが唯一の救いだ。そうでなければマサヤは今頃大事な穴を掘られざるを得なかっただろう。アテルイの首に跨り全速力で逃げていた。
咄嗟の判断はマサヤでは無くアテルイによる見事な機転だった。野生の本能が死を予感したのだ。主人の命を守るため口で摘み器用に首に乗せたのだ。意外と乗り心地も悪くない。風を切る感覚は爽快で気持ちがいい。後ろから怒涛のように迫る化け物達がいなければ最高だった。
とにかく逃げるしかない。幸いにしてここは迷宮だ。撒くのは簡単だった。マサヤの指示で右左に何度も方向を変え、時には上下左右に重力が変わり訳がわからなくなった頃に敵は1匹も後ろにいなかった。その代わり完全な迷子になってしまったのである。
カエデ達が心配だ。何とか戻りながら合流したいと思っていた。けれどマサヤは自分が良いところまで来てたことをまだ知らない。
一方カエデ達はフェアリーの大群に取り囲まれていた。それは少年が呼び出した者達だ。当たり前のように妖精語を話すその姿にミネコもカエデも驚いていた。最初の試練からずっと少年は夢の中で別人になって交流していたのだ。それが前回で具体的なものになった。眠りにつけばいつだって妖精の園に行き来が出来る。そんな体質になったのである。
少年はミネコの作戦通りに魔法使いを探すことにした。しかし敵に鉢合えばまた戦いになる。そこで危機察知能力に優れたフェアリーの力を借りることにしたのだ。これで四方八方全ての方向にアンテナがある状態だ。怪物達の距離まで正確に教えてくれる。
体調を取り戻したカエデはマサヤの事が心配だった。ドラゴンを使って生き延びていると信じているがそれでも安否を知りたいと思っている。それでフェアリー達を使って居場所がわからないかと少年に頼んだ。
「リクトくん。お願いがあるの。マサヤくんのドラゴンの居場所ってわかるかな?」
少年はフェアリーに相談する。しかし耳打ちされたその結果はとんでもないものだった。この図書館内にドラゴンは全部で3体もいたのだ。フェアリーにとって最大の捕食者であるドラゴンは特別だ。数も位置も正確にわかるという。
そしてその大きさもザックリとわかる。一番大きな個体がここから最も離れていて逆に小さいのはこちらに近づいているらしい。もしかしたらそれがマサヤかもしれない。ミネコは自分達と合流しようとしているのではないかと推測した。
「確かドラゴンって私たちに引き寄せられてくるとかじゃなかった?」
けれどそれは絶対ではない。敵の位置が把握出来るなら隠れて姿を確認する事にした。そして現れたのは全長8メートル弱のコモドドラゴンだった。敵の目はサーモグラフィーのように隠れた獲物を確実に捉えている。一切の迷いなくこちらに近づいてきた。それを先行してガオウが迎え撃つ。
(先手必勝!!)
瞬足で突撃し拳を叩きつけた。しかし紙一重で躱される。そして口に何かを溜め込み黒い液体をスプレーのように吹きかけた。それは溶解性の毒であった。ガオウの体が煙を出して溶ける。そのダメージは少年の気力で補われた。息が荒くなり脂汗が流れる。初めて敵の直撃を受けた。今の瞬間一度死んでいた。それが常人を超えた精神力で保たれただけだ。二度目は無いだろう。けれどドラゴンはそれで油断した。この戦法で負けた事がなかったのだろう。間髪つけずにガオウが首の付け根を羽交い締めにして捕らえた。ニーナとカエデはそれを見逃さない。
「(任せて!!)」
カエデがニーナのランスを構えて猛スピードで突っ込んできた。ドラゴンは又もや毒を吐こうとする。それをガオウが首を捻る事で逸らした。強烈な一撃がドラゴンを貫き確実に仕留める事に成功する。ランスを引き抜くと大量の赤い血がこびりついていた。カエデは深呼吸して眼を逸らさない。これからはこんな事が何度も繰り返し行われる。気分を害している場合ではない。ミネコが心配して駆け寄る。
「大丈夫?無理しないでね」
カエデは「大丈夫」と答えた。内心では吐きそうな気持ちで一杯だが自分には戦う力がある。足手まといにはならない。そう決心した。
これで分かった事がある。目分量だが最も大きいドラゴンはマサヤでは無い。中位のドラゴンの方だと目星をつけた。フェアリーの情報ではそこに他の敵はいなさそうだとの事だ。恐らくマサヤはドラゴンを連れて後退しながら逃げたのだろう。カエデ達は一旦合流する事にして作戦はその後だと移動を始めたのであった。




