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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第三章 光の魔法使い編
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第二十八話 迷路と異変



人はなぜ本を書くのか。歳を重ねるとその想いが少しずつわかる。何となくではあるが自分の知識や経験を書き残したい欲求が高まっていくのだろう。それは人間の習性であり本能なのかも知れない。故に本は著者の魂が宿っていると言われている。魔法使いは手に持っていた大きな本をカエデに差し出した。それはこれまで以上の光を放っている。


(これは僕の本だ。受け取ってくれ)


罠かもしれない。けれどその澄んだ瞳からは嘘を感じとれなかった。カエデは前に出てそれを掴んだ。魔法使いは微笑んで言った。


(ありがとう。楽しいゲームの始まりだ)


地響きが起き上下左右全てからカラクリが作動する機械音が鳴り響く。魔法使いはその騒動の最中(さなか)に姿を消した。やがて静かになる。それも気持ち悪いほどに。後ろを振り返ったミネコが真っ先にその変化に気付く。


「部屋がない!ここは何処!?」


隠し部屋の外は本棚ではなく廊下に直接繋がった。高い天井に吊るされたシャンデリアが車のハイビームの如く眩しく光る。こちらに直接差し込んでいる。廊下の向こうは真横から天井が見えているのだ。もう試練は始まっている。今回の鬼は挑戦者側だ。これはいなくなった魔法使いを見つける試練なのだろう。この部屋に留まり行動をためらう者はこの場にいない。


少年が前に出る。そしてガオウが率先して何か危険がないか廊下に出て確かめる。すると不思議な現象が起きた。心の悪魔は振り返って勿体ぶった風に言った。


(これ、面白いぞ)


ニーナが「勿体ぶるな!」と情報を急かす。けれど「来ればわかる」とのことだ。少年は2番手に足を踏み入れるとすぐにその矛盾に気付く。空間の重力に異変が起きて違和感を感じたのだ。部屋の境目を基点に足先が重い。向こう側は引力のベクトルが90度回転しているようだ。


4人は手を引っ張りあって廊下の床に這い上がった。想定できる危険は落下や上昇などの急激な重力変化が予想された。ミネコが鞄を漁り2本のロープを取り出して片方をマサヤに渡した。長さは両方とも6メートルある。それで体を縛り命綱にしようと言う提案だった。


マサヤと少年、ミネコとカエデをペアにして腰にロープを結ぶ。後方に悪魔を使える2人を配置する事によって万が一の時は即座に切り替わり対応できる隊列を組んだ。それは今までにない高いチームワークでの館内捜索を実現するだろう。


この対応の早さは彼らが現場慣れしている証拠かもしれない。敵も手強いがこちらも黙っていないのだ。探検家が持ち歩いていそうな装備は一式揃えてある。彼らは今日の冒険を楽しんでいた。


一方、魔法使いはとある部屋で見つけてくれるのを待ちながら水晶玉で彼らの様子を鑑賞していた。歴代の挑戦者の中で最強クラスの人員だと賞賛(しょうさん)する。こちらも喜んでおもてなしが出来るというものだ。


その雰囲気に水を差すように耳障りな呻き声が足下(あしもと)から聞こえプルプルと震え始める。座っていた人間椅子の高さが下がり始めるとお尻の部分をひと叩きして調整した。


別にそういう性癖があるわけではない。父ナオスケと悪魔の囁きは随分相性が悪かったらしく終始発狂し続ける彼を見ていられなくなった。それで仕方なく触れてあげている。あくまでもこれは優しさから出た行動である。


そんなナオスケは額に血管を浮かび上がらせ真っ赤になっていた。日頃の運動不足からか歳のせいからか体力はそんなになく開始1分でこの有り様だ。けれど精神的苦痛から解放されたおかげで気分がおかしくなる。むしろ気持ち良さすら感じるのだ。それを屈辱と思う自分もいて心は二分していた。


魔法使いはそんな彼を無視しておもてなしに取り掛かる。少しずつ追い込んでいくのが自分のスタイルだが今夜はサービスするつもりでいる。本来なら6冊目の試練だが彼らにはこれぐらいでないと詰まらない。対価の支払いは自分の奢りだ。是非とも楽しんでほしい。そう思いながら魔法使いはその本の封印を解いた。


ミネコが悪寒を感じて立ち止まる。この先に自分を見る視線があった。それはとても嫌らしく穢らわしい目だ。一瞬にして戦闘態勢に切り替わる。最前線にガオウとニーナで武装したカエデが敵を待ち受ける。現れたのは小柄で痩せギスの何か。肌は酷く病的で目は血走って真っ赤である。それは一体ではなく何十体もいる。


所謂(いわゆる)ゴブリンだった。カエデ達はそれが何かを知っている。祖父の日記に書いてあったからだ。けれどその登場はまだ早い。何故なら魔法使いの攻略後6冊目の試練の序盤で現れるはず。本来はもっと恐ろしいのだ。その嫌な予感は的中している。


地下水路にあった門は一方的に開き魑魅魍魎の類が雪崩れ込むようにこの図書館に溢れ出していた。予想以上の事が起きるのが試練であった。その感覚は既にある。けれどこの組み合わせは最悪だ。


何故なら6冊目の対策は予め決めていたのだ。しかし館内の間取りがわからなくなった今ではもうその策は封じられたようなものだ。鉢合わせる毎に倒さなくては前に進めない。絶体絶命がまたもやカエデ達を苦しめるのであった。


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