第二十七話 決意と再開
もう2度と戻らないさよならの瞬間。それは大昔の出来事。光の魔法使いが世の理に近づいた。彼は世界が一つでは無い事を知る。やがて時空を跨いで移動できる魔法を開発すると人知れず旅に出た。
様々な世界に固有の文明があった。魔法使いは冒険をして世界を渡り歩いた。そして友達と愛する人が出来た。共に刺激的な旅をしたものだ。若かりし頃の思い出である。
そんな彼も今ではやる事が無く隙を持て余している。長い白髪の髭を撫で下ろし時間が過ぎるのを眺めるだけだ。けれど今夜は違う。待ち侘びた挑戦者がやってくる。試練開始前に現れたのはルール違反だが封印が弱まったのは自分のせいでは無い。
来向かう客をもてなすのに準備は必要なかった。この施設はもう既に十分なサプライズで満たされているのだ。久方ぶりに高鳴る心臓が愛おしく。時が来るまで余韻を楽しんだ。
数時間前、マンションの前に黒いセダンが4台停まっている。その周りをSPが囲み更に記者が囲む。建物からサングラスとマスクと帽子を身につけた高身長な男性と平均的な女性が2組出てきた。恐らく片方がマサヤとカエデだが見分けがつかない。それぞれが2台に分かれて乗り込んでいく。どちらかが本物。当てる事が出来るかの2択のゲーム。記者達はその演出に興奮してフラッシュを焚いた。車が走り去ると記者達もその後を追いかけた。マンションは再び平穏を取り戻す。
しばらくしてから2組の老夫婦がエントランスからゆっくりと出てくる。一方は長身でもう一方は平均的だ。残った記者がそれを一瞥したが隠居したセレブの仲良し老人だと気にもとめない。
老人達はバスに乗り千手図書館前で降りた。図書館は既に閉館している。運転手も変わった人たちだと首を傾げるが赤の他人にそこまで興味はない。
彼らは老いぼれているがそれは見た目だけだ。敵である魔法使いの協力を得たのは止むを得ない。そうでなければここへ辿り着く前に記者に捕まっただろう。
当たり前に館門の鍵を開けて中に入るとすぐに魔法は解けた。カエデ率いる4人が若い姿でそこにいる。そして再び対面した建物はお化け屋敷然としていた。それで怖気付く事はない。もう随分と肝が据わっている。
玄関口は彼らが近づくと1人でに開いた。自分らは招かれているようだ。ペースは向こうが握っている。公平な闘いはして貰えなさそうだ。それが最も彼らを震え上がらせた。
震えるカエデの手を少年が握った。それを見た兄も負けじと握る。残るミネコがマサヤにそれとなく目で訴えると照れ臭そうにその手も握られた。4人の気持ちは一つだ。不安は勇気へと変わる。
今日万が一の事があっても後悔はないとは言い難い。けれど人生でこれ程の冒険が今後もあるとは思えない。悔いの残し方は人それぞれだ。彼らはただそれを極力残さない選択をした。マサヤは自分に言い聞かせるように号令をかける。
「行くぞ!」
4人は息を合わせ図書館の玄関を右足から踏み入った。常夜灯も切れ暗闇に包まれた館内が一斉に灯りをともす。館の主は律儀にも挨拶で迎えた。
(よく来てくれたね。僕の全力を持って君たちを迎えよう。さぁ本を取りにくるといい。ゲームはそれからだ)
これまでのやり取りからもわかるが魔法使いはとても紳士的な個性の持ち主だ。敵でありながら一定の信頼を持てる人物だろう。警戒心を解くことはないが安心して隠し部屋を目指す事ができる。
しかし仲間はこれで全員ではない。カエデと少年は胸が熱くなる感覚を思い出した。心を伝ってこの場に2体の悪魔が顕現する。久しぶりと言う感覚はない。悪魔は常に心の中にいた。けれど姿を持つことは特別な事でありこの館内でしか許されていないのだ。
再び肉体を得たガオウとニーナは赤ん坊の姿だ。可愛らしいフォルムとは裏腹に闘争心溢れる表情だ。2人はその意気込みを語る。
(もう出て来れないと思ったけどよ。俺はやっぱりこの方がいい。リクトと俺のしぶとさ見せつけてやるぜ)
(アタイもやるよ。あの親父を一発殴れる機会は中々ないからね)
ニーナの目的は少し違うがそれがカエデの本心だろう。当の本人を助け出すためだけにこの場には来ない。これを機に親子の確執に変化を起こしたい。そう言う思惑も絡んでいる。
それぞれの想いを持って試練に臨む。けれど見る方向は一つだ。必ず生き残って全員で帰る。それだけだ。
本棚のカラクリが作動し隠し部屋が現れる。そこはいつもと同じ。けれど大きな違いがあった。書見台の上にモップのような人物が座っている。置いてあったはずの大きな本を見開き手に持っている。長髪の隙間からは金色の瞳が覗いていた。それが彼らを見て行動を見せる。
(ようこそ封印の間へ。私はゲレル。5つ目の試練を任された魔法使いだ)
光の魔法使いゲレル。口を一つも動かす事なく言葉を告げる。それはかつてこの図書館に封印された試練の原動力にして全てを操る者。彼を打ち負かし認めさせる事が出来れば試練は一度に達成される。しかし力を解放され全力を取り戻した彼に勝てる者はいない。




