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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第三章 光の魔法使い編
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第二十六話 諦めと説得



アスファルトとプラスチックのタイヤが擦れる音は慣れていないとこんなにも不快なものなのか。思った以上にキャリーバックがうるさい。すれ違う人の目が気になった。


少年は三階建ての一軒家で足を止める。鉄骨構造の軽量コンクリート外壁で一般的なお家よりちょっと良いお家である。そこが我が家だ。


進んで帰りたくない場所をそう呼んで良いのかは予々(かねがね)疑問である。しかし一般的な子供は自立するまでそこに居るものだと世間が決めていて例外は異常なご家庭と思われる。少年は渋々と帰ってきたのだ。


玄関を開けるとテレビやゲームのBGMみたいな生活音が聞こえてくる。そして電話で誰かと談笑している声。一階に自分の生活空間はなかった。その住人に会うことすら(はばか)られる。出来ることなら3階に直接行ける玄関が欲しかった。


リビングの扉が開く。漏れ出る音が大きくなる。隙間から5歳ぐらいの男の子が覗いていた。確認を終えたその目はまた直ぐに扉を閉じた。


「アイツだった!」


それだけ聞くと少年は階段を上がって自分の部屋に入った。スマホの着信音が鳴る。カエデから電話が来ていた。消え入りそう気持ちが救われていく。少年は元気を作り電話に出た。


「リクトくん、ちょっと聞いてほしいの」


内容は父ナオスケの失踪を知らせるものだった。出鼻をくじかれた気分である。話し合った方針が根本から崩れてしまった。それは、また自分達だけで試練を乗り越えなければならない事を意味している。


後日、4人はマサヤのマンションに集まっていた。今後どうするかの話し合いもあるがその前にマサヤとカエデは試練どころではなくなっていた。余りにも突然のことで千手財閥はパニックを起こした。情報は直ぐに漏れて日本国を支える財閥企業のトップが行方不明で捜索中とあらばマスコミが黙っていない。


国民がヨダレを出すようなゴシップは瞬く間に世間の話題にすり替わりその話で持ちきりになった。聖ビヤンヴニュの学生寮にも千手図書館にもこのマンションの下にも記者が張り込んでいる。2人の自由は制限された状態だ。試練の中止。そんな想いがこの部屋に漂っていた。


その様子を水晶で観察する男がいた。髭と長髪の白髪で足元まで伸び散らかっている。手入れをせずに何十年も放置したらこうなると言った風貌だ。しかし時折見える顔はとても美形でこの世のものと思えないほどだ。それらの要素が相殺して台無しだという具合だろう。


しかし本当に長年引きこもりを余儀なくされ外に出ることが叶わない彼にとって容姿など必要のない要素になっていた。


白髪の男は眉間に皺を寄せ情報が拡散される速さに驚かされていた。宿敵に一矢報いたつもりになっていたがこれはやり過ぎだったらしい。もう一度招きたい客の足が遠退いてしまった。だが手はある。力を少し消耗してしまうが致し方ない。


水晶の向こう側に映る少年の映像に視点を寄せた。そして指で彼の額にタップして触れる。呪文が唱えられた。それは接続を意味している。


すると、ソファーに座っていた少年の様子に微かな変化が起きた。それは他の3人が気付かない程度だ。重たい空気が流れている。話は進み最終的な結論が出ていた。それをカエデが告げる。


「試練は中止します。私たちは一旦解散してお父様の件が落ち着くまで普段の生活に戻りましょう」


それは実質的に試練はもう行わない事を意味していた。一族が一子相伝で繋げてきたバトンはもう失われた可能性がある。死ぬかもしれない状況にあっては生き残るために必死になれるが事前情報がない中で無謀な体当たりが出来るほど愚か者にはなれないのだ。マサヤもそこに理解を示した。


「俺達は試練の危険性を見誤っていた。皆にも守りたい生活があるはずだ。ここで命を賭けるほどのものでも無い。ゲームは終了だ」


ごもっともである。誰も言い返す根拠を持っていない。カエデは悔しさで涙ぐんでいる。ミネコも思う事があるのだろう少女の肩を抱き寄せて一緒に涙を流した。


ただそこに無表情の可笑しな人間がいる。それは少年だ。皆が肩を落として悲しむ中1人だけ心ここに在らずだ。それが口を開いた。


「それは困るねぇ。えっと…僕は魔法使い。折角だから僕の試練も受けてほしいなぁ〜」


何を言うのかと視線が少年に集まる。そんな事はお構いなしだ。彼は和やかな雰囲気を崩さない。


「そんな目で見ないでくれよ。僕は君たちに謝罪がしたいんだ。アレはちょっと…驚かせたかっただけ。お父さんは僕が預かってるよ。迎えに来てあげてよ」


その言動の可笑しさに全員立ち上がり距離をとった。少年はまた身体を何者かに乗っ取られている。しかも図書館の外で。


父ナオスケが図書館に幽閉されているのか直接確かめる以外に方法はない。親子である以上。見捨てる選択肢は彼らには選べなかった。それが罠だと分かっていても。


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