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少年とJKと不思議な図書館  作者: 喜郎サ
第三章 光の魔法使い編
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第二十五話 若さと不安



常夏の太陽。降り注ぐ日差し。波の音。ここは海岸線だ。4人は英気を養うためにバカンスに来ていた。白くサラサラの砂は彼らの足跡だけを刻む。完全なプライベートビーチであった。


パラソルの下で日陰を浴びて眠りについた。ほんの5分程度の時間であったが随分長い夢を見る。少年は度々おかしくなる。体を誰かに乗っ取られていた感覚は2度目の時に明確なものになった。自分は「妖精の園」を手にした時も「迷宮の蔓」の時も別人を呼び出した。


外からの干渉があったのは間違いない。声が聴こえたのだ。「本当の自分を思い出せ」と誰かが端から言っていた。誰もそんなものは聞いていないと口を揃えるが少年は確かに心の内に潜む別人になり変わっていた。


「リクトくん。一緒に飲も?」


カエデさんが飲み物を持ってきてくれた。彼女は水着の上に白のラッシュガードを羽織りその中に黒のビキニを控えめに浮かび上がらせていた。その女性らしさに息を呑む。それで乾いた口の中に粘着質な唾が張り付いているのに気付いて飲み物が丁度欲しくなった。少年は起き上がって「ありがとうございます」とお礼を言う。


風で舞い上がるトロピカルフルーツの香りが南国の島を思わせた。実のところここは千手財閥が抱える南の島でマサヤが所有する別荘がある所だった。4人は揃ってそこに寝泊まりしている。


今夜も別荘でバーベキューをする事になっていた。進んでパリピを演じることはない。けれどこの休日の過ごし方は少年が連想する遊び人たちの十八番(おはこ)であって自分の得意とする分野ではなかった。


救いがあるとすれば一緒に過ごす仲間全員が秩序を重んじる常識人だということだ。普段からぶっ飛んだことはしないだろう。そう信頼している。


少年がカエデとトロピカルジュースを飲んでいると派手なタイサイドビキニを惜しみ無く披露するイケイケの美女が後ろに現れて脇から掻っ攫って行く。


「リクトくんは貰って行くからねぇ」


ミネコが水上バイクの鍵をチラつかせていた。少年はこの後、世の女性が20代で最もイケイケのピークを迎える事を身をもって知ったのである。


別荘のテラスで星空を観ながらの食事は格別に感じる。焼ける肉の匂いと炭のスモーキーな香りが食欲を増進させる。少年にとって全てが初めてのことであった。


「肉が焼けたぞ」


マサヤが子羊のチョップステーキが焼けた事を知らせてくる。


「リクト、お前も食え」


渡された肉はこんがりと焼けていてとても良い匂いを醸し出している。それを前にしてヨダレを止める事は出来ない。


「いただきます!」


喜んで齧り付いた。口の中に広がるジューシーな油。そして芳ばしい炭と豊かなハーブの香りが鼻を抜け感動が溢れてくる。心の底から幸せを満喫した。


食後のコーヒーは豆から挽いたモノで結構良いモノらしい。マサヤが自慢げに話していた。4人は焚き火を囲み試練の過酷さを思い出す。帰ったら明日にも再挑戦の日程を決めなくてはならない。それはとても億劫に感じた。


カエデは不安要素を皆と共有したい気持ちでいた。それは全員が感じていた事だった。


「やっぱりお父様に協力を仰いだ方が良いのかな…」


少女のトラウマが解消された影響なのか以前ならあり得ない提案をする。マサヤとミネコは一瞬驚くが反対することもない。


「俺もそれが良いと思う。試練の困難さが思ったより危険なものだ。父上が協力してくれるならこんなに苦労しないだろう」


祖父ゴウザブロウの指導を最後まで受けたであろう父ナオスケなら攻略法を全て知っているはずだ。この期に及んでいがみ合ってもしょうがないのである。


ちょうどその頃、例の男が堂々と真夜中の千手図書館に侵入していた。決して怪しいものではない。現所有者が何時に訪れても誰かに文句を言われる筋合いはないのだ。


もちろんそれは父ナオスケであり今回も良からぬ目的があった。それは地下水路に現れたであろう最後の扉を確認し細工を施すためだった。


巨大樹木の焼け跡には巨大な門が建っていた。もちろんマサヤとミネコが一番に確認した。それが最後に開かれる門であることは何となく推測している。


これがこのタイミングで現れたのは意味がある。しかし疲弊し切った4人にこれ以上の冒険は気が進まなかった。一旦仕切り直してから改めて調査する事になっている。


ナオスケはその前にやっておきたい事がある。ポケットから金剛石の鍵を取り出した。それで扉が開くか試したかったのだ。試練を突破しなくてもこの鍵さえあれば向こうの世界へのパイプが繋がる。それはゴウザブロウが遺した禁断のアーティファクトだった。


劣等感に苛まれる日々とはおさらばだ。苦痛から解放される喜びで心臓は高鳴り手は震える。そしてこれから得られる功績の数々が目に浮かび栄光への道筋が見えた。私の勝ちだ。そう思った時だった。


(そこまでだよ)


体が言う事を聞かなくなった。しかしこの声には聞き覚えがある。忘れもしないゴウザブロウにあの部屋で何度も闘わされた。魔法使いの声だ。しかし試練はまだ再開していないはず。ナオスケはカエデ達がバカンスに出かけて明日帰ってくるという情報を掴んでいる。ありえない!と憤慨した。


(まぁ怒らないでおくれよ。僕らは友達みたいなものじゃないか。本当に会えて嬉しいよ)


その後ナオスケは消息を絶った。


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