魔力が消滅!?
「魔法が使えない!?」
ハーカはノラスの話をきいて叫んだ。
「そうなんだ……」
「お前、魔力を全て出し切っただろ」
ハーカは呆れた顔をした。
「出し切る?」
イルレは訝しんだ。
「……本当に魔法を使ったことがないんだな、お前」
「は、はい」
「まあいいじゃないか、説明してあげよう」
ノラスはハーカを窘めた。
「フン、好きに知ろ」
「元々、俺たちは生まれた瞬間に魔力があるわけじゃないんだ」
「そうなんですか!?」
「え、イルレはあったの?」
「えっと、幼い頃から『お前にはとてつもない魔力が眠っている』とは言われてきましたが……。どうしても不器用で」
「そいつは特異体質だな」
イルレたちに背を向けて寝床に寝っ転がって話をきいていたハーカは、背中越しにそう言った。
「特異体質?」
「そうだ。人間、いやドラゴンもそうだが、ごくまれに生まれた瞬間から魔力を持つものがいる。他の者はその者から魔力を受け取るんだ。そして、基本的にそれを増やして魔法を使う」
「そういうこと」
ハーカの説明にノラスは同意した。
「だが、この間抜けはそれを全部出しやがったんだ。だから魔法が使えなくなった」
「ま、間抜けとはなんだ」
「えーっと、それは元に戻せるものなんですか?」
「その特異体質から魔力を受け取ればいい」
「じゃ、じゃあ私が」
「無理だろ。魔力の受け渡しは魔法の中でも特に難度が高い、普通の魔法すらまともにできない奴には不可能だ」
「で、ですよね……」
イルレは苦笑いした。
「……心当たりがある」
ノラスが呟いた。
「心当たりだと?」
「ああ。でも……。その……」
ノラスはすごーーく嫌そうな顔をした。
「何か問題でもあるんですか?」
「あー……。ないことは……、ない」
'あの人'に合わないといけないのか……。ま、またあの扱いを……。
'あの人'の実力なら多分ガルアスにも勝てるだろうから、生きているとは思うが……。
「問題がどうした、それしか方法がないなら今は進むしかないだろ」
ハーカが起き上がった。
「お前が何もできないと困る。魔力がないということは魔龍合体もできんからな」
「まあ、そうだよな……。行くか」
「どこに向かうのですか?」
「ニカアさ」
ニカアはノラスたちのいる場所から大体馬で5日くらいの場所にある。
「飛べばすぐだな。行くぞ」
ハーカは一旦人間体に戻り、外に出ようとした。
「ま、待ってください」
イルレはそれを止めた。
「私も、お供したいです」
少しでも、ノラスの力になりたい。イルレは強く思っていた。
「でも、この村の守りはどうするんだ」
「少しなら大丈夫です。多分。それに、私だけでは何もできませんから……」
イルレは笑ってごまかしたが、少なからずその表情には悲しさが見えた。
「お願いします!ノラス王子」
「……分かった」
「ありがとうございます!」
「おい、早く行くぞ」
ハーカはさっさと外に出て言った。
「う、うん……」
ノラスもそれに続いた。
イルレもそれに続いたが、ノラスがどうしてこれほど気が引けるのかがよく分からなかった。
「ニカアだ!」
ノラスの目線の先には、城壁で囲まれた街が見えた。
ハーカは物陰で降り、人間体になった。
3人は城門まで行き、2人警護兵に話しかけられた。
「おっと、この街に入るには通行手形が必要なんだ」
「あー……。そうだった」
あいにく、ハーカと会う前、敗走したときに落としてしまった。
「なければ荷物を……。って」
警護兵の一人はノラスの正体に気づいたようだった。
「どうした?」
もう一人の警備兵はまだ気づいていない。
「あなたは、もしかしてノラス王子では!」
「あー……。えっと、そうだ」
この街にいればすぐに気づかれるだろうし、これで街に入れるならよしとしよう。
「ノラス王子のご帰還だ!すぐにあの方を呼んで来い!」
「あー! 待ってくれ」
ノラスが言い終わるより前に、青の電流がノラスたち3人の前に降り立った。
電流は少女、というより女性の形になった。
髪はショートで、金髪。
手には指なしの革手袋を付け、少し黄色っぽい白色のサーコートを着ている。
ベルトと靴は茶色だ。
体の周りには電気がぱちぱち音を立てていた。
「誰だ?」
ハーカは知らないようだ。
女はクールな顔をしていたが…。
「ノラス!!!!」
ノラスを見つけるやいなや泣き顔になった。
「「え?」」
とハーカとイルレがいう間もなく。
女性はそのままノラスの方に走っていき……。
抱き着いた。