火炎と激流の激突
3人の手が光ると、ハーカとイルレ、2人が光の塊となった。
光はノラスに注ぎ込まれていった。
そして背中から翼が生え、尻尾が生え、頭には角が出た。
髪は赤のポニーテールになり、目もひし形の角がすぼまったような、アステロイド曲線と呼ばれる形になった。
「よし、成功だ」
ノラスは体の中からハーカの声が聞こえた。
「うわ、びっくりした」
「驚いている場合か。とにかく、これで魔力は高まった。翼は私が動かす。攻撃はお前がしろ」
「分かった!」
「私は魔力を高めることに集中します!」
「行くぞ!」
ハーカがそういうと翼が動き、ノラスたちを探していたドラゴンの目の前に一気に飛んだ。
「だああああっ!」
ドラゴンを殴りつけ、地面にたたきつけた。
人間の体から出るとは思えないパワーだ。
「ノラス王子……。いや、他の方も、のようですね」
それを見たドラスはまだ冷静だ。
「はあああっ!」
もう一体のドラゴンに口から火炎を放ち、空のかなたに飛ばした。
「ふーっ……」
口から煙が出ている。
「なるほど、久しぶりに楽しめそうですね」
ドラサは静かにノラスの前に浮いた。
「……ハーカ、あなたは知っているでしょう。人間体に変身するメリットを」
「……そんなもの、ない」
そう言いつつも、ハーカは心当たりがあるようだった。
「いいえ。人間体に変身すれば、魔力は変わらないまま、体を動かすために使う魔力を減らすことができる……」
そういうとドラサは力を込めた。
「つまり、実質的に使える魔力は大幅に増す……」
ドラサの体は青く光り、蒸気が放出される。
水蒸気の噴射音が辺りに響いたあと、そこには人間体のドラスがいた。
長髪の長い髪を後ろでまとめた、身長の高い男だ。
「さあ、続けましょう」
ドラサはそういうと右手を前に出し、水の球を作りだした。
「ふんっ!」
水流が放たれ、ノラスの方に向かって飛んできた。
「っ!」
ノラスは素早く横に動き、かわした。
そして今度はノラスが火球を放った。
「はああっ!」
ドラサは水流を放ち、火球を打ち消した。
辺りに火の消える音がした。
ドラサは構え、蹴りの体制でノラスに突っ込んできた。
「ふっ」
ノラスはかわし、横から拳を打ち込んだ。
「ぐはっ」
ドラサは少し間合いをとり、構えなおした。
「なるほど……。速さではそちらが上かもしれませんね」
「ドラサ。お前を倒す!」
「では、魔力でぶつかり、決着をつけるとしましょう」
ドラスは両手を前に出し、すさまじいスピードの水流を発射した。
「ぐっ!」
ノラスは避ける間もなく、すぐに火炎放射を放った。
2つの攻撃はぶつかり、水の蒸発する音が激しく聞こえた。
「もっと魔力を込めろ!!!」
ハーカは叫んだ。
「やってますっ……」
イルレの苦悶の声が聞こえた。
「ぐぐ…」
三人とも必死に魔力を放出し続けた。
「頑張りますね……」
ドラサも力を込め、水流の勢いを増した。
「何っ!」
このままだと押し切られる。
「イルレ……。限界まで魔力を込めてくれ……」
「でも、そうしたら王子の体が!」
「今は気にするな!今は、今はこいつを倒さないといけないんだ!!」
「……わかりました!」
イルレはさらに魔力を込める。
尊敬する人のために、自分のすべてを込める。
「ぐううっ」
ノラスの全身から痛みが襲った。
だが、耐えた。その痛みを全て攻撃に注いだ。
火炎放射はさらに大きくなり、水流を包み込んだ。
「なんだと!?」
火炎放射はドラサに直撃し、後には煙が残った。
「ぐ……ふっ」
ノラスはもう動けなかった。限界だ。
だが、煙の中には人影があった。
「ここまで……。力があるとは、想定外でした」
ドラサもかなり消耗している。
「クソっ!」
「……もう、魔力も残り少ないです」
ハーカとイルレももう限界だ。
「お互いに……、動けないようですね。いずれまた、決着を」
「何っ……?」
「今日はここまで、ということで」
ドラサはドラゴンに戻った。
「久しぶりに楽しい戦いができました。それでは」
ドラサは空の向こうへ飛んでいった。
「か、勝ったのか…」
ノラスが呟くと、合体が解けた。
ノラスは気を失い、落ちていく。
「え、ひゃあああ!!」
イルレも落ちていく。
「全く、世話のかかる奴らだっ!」
ハーカはドラゴンに戻り、2人を背中に乗せて降りた。
「……ん」
イルレは目を覚ました。どうやら自分の家らしい。
窓からは月あかりが注いでいる。
「勝手に入らせてもらったぞ」
人間体のハーカが寝ていた。
「ハーカさん」
「私も疲れた。しばらくここに居させてもらう」
「ノラス王子は?」
「まだ気絶してる。膨大な魔力をその身に受けたからだ」
「……」
「じゃ、しばらく休ませてもらうぞ」
ハーカは小さなドラゴンに戻り、寝始めた。
「は、はい」
イルレが寝床に目をやると、そこにはノラスが寝ていた。
体は傷だらけになっている。
「手当くらいは、できるかな」
イルレは包帯を取り出し、手当を始めた。
次の朝、ノラスは目を覚ました。
「良かった!元気になったんですね」
イルレが声をかけてきた。
「これは……」
ノラスは包帯に気づいた。
「えっと……。その……」
「イルレがやってくれたのか」
「は、はい」
「ありがとう」
「い、いえ……そんな。」
イルレは顔を赤くした。
「そ、それよりも朝ご飯にしますか?」
「うん。でも、俺がやるよ」
手に火を灯そうとした。
「あれ?」
何度も魔力を込めようとしたが、うまくいかない。
「どうしたんですか?」
「魔法が……使えない」
「えーーーーっ!?」