魔龍合体、発動
「あなたは、もしやノラス王子では!?」
俺の顔を見るやすぐに剣士はそう言った。
「……」
認めていいのだろうか。もしこの剣士が俺に敵意を抱いていたら、どうなるだろう。
敵意でなくとも、軽蔑されていたら。
戦いに負けた者など、軽蔑されても仕方がない。
だが、この村から追い出されたら野宿しなければならなくなる。それは避けたい。
「ルラ・イルレと言います!私はノラス王子を尊敬しているんです」
「そ、そうなんですか」
イルレの勢いに若干押されてしまう。
「あ、すみません。もしあなた人違いだったら迷惑ですね……。でも、誰でも構いません!ガルアスの奴らを倒してくれたんですから。どうぞこちらに」
とりあえず今の段階では敵意はなさそうだ。
とはいえ、ひとまず正体は隠すことに決めた。
単純に俺が名乗ると、流れでハーカが「私はドラゴンの~」とか言いかねない。
ともかく、今日はなんとか野宿にはならなそうだ。
「あまり良いものはないですが、ぜひ食べていってください」
イルレはかまどで料理を作ってくれ、パンやスープがテーブルに並んだ。
量は決して多くはなかったが、あまり食事できていなかった俺たちにとってはとてもありがたかった。
「そういえば、ここはどのあたりの村なんですか?」
俺は気になっていたことをイルレに尋ねた。ガルアスがいるということは、奴らの拠点とそれなりに近いのだろうか。
「えっとですね……。ここはニビザから大体馬で15日くらいのところです」
ニビザは元々、ロンツ王国の首都だった都市だ。今ではおそらくガルアスの物になっている。
「飛べば1日だな」
ハーカが口を滑らせた。
「え?」
イルレが訝しんだ。
「な、なんでもないです!」
手を振って否定しながら、ハーカに「おいっ」と目線を送った。
ハーカは不機嫌そうな目線を返してスープを飲み干した。
「ふーーっ……」
と大きな息を吐き、食器を降ろした。
「ありがとうございます。急に来たのにここまでしてくださって」
「いいんですよ。ガルアスを倒せるような方々を野垂れ死にさせるわけにはいきません」
その後、俺たちはイルレに泊めてもらうこととなった。
「おい、起きろ」
誰かの声が聞こえる。体が揺れていることにも気づいた。
これはハーカの声か?ドラゴンの時の声に聞こえる。
眠い目を開けると、小さくなったドラゴン姿のハーカが見えた。
「お、おい!イルレさんに気づかれるだろ!」
「今は早朝だ。起きていない。そんなことよりも、奴らだ」
「ガルアス?」
「そうだ。遠くから軍勢の足音が聞こえる」
一気に目が冴えた。
もしガルアスなら寝てはいられない。
俺は跳び起き、急いで着替えた。
村人を起こさないように慎重に扉を開き、家を出た。
まだ軍勢の足音は俺には聞こえなかったが、ハーカが示す方向に向かった。
「……ん」
イルレは物音で目を覚ました。
どうやら外からのようだ。
「あれは!?」
そこには空を飛んでいくドラゴンと、その手に乗っている人間だった。
「やっぱり……あれは」
イルレは馬に飛び乗り、ドラゴンを追いかけていった。
ノラスとハーカはまもなくガルアスがいるらしい場所に到着した。
「見えた!」
ハーカの手の上から、遠くに黒い鎧を着た軍勢が確認できた。かなりの数だ。
「行くぞ!」
ハーカは一気に加速した。
「うおっ!」
手から落ちそうになりつつも構え、魔法を放つ準備をした。
一気にガルアスの近くまで近づいた。
奴らもこちらを認識したようで、巨大なドラゴンに驚愕しているようであった。
「何者だ!」
ガルアスのうち一人が叫んできた。
「我はコル……」
名乗ろうとした瞬間、ハーカが口から業火を吐いた。
ガルアスの兵すべてが炎に包まれ、あっという間に消滅した。
「お、おい!」
「フン、やつらに何を躊躇する必要があろうか」
それはそうなのだが、何か複雑だ。
「む?」
ハーカが遠くの空を眺めた。
「どうした?」
「ちぃっ!ドラゴンだ」
「嘘だろ!?」
ドラゴンをこんな辺境の地まで連れてくるとは。
ハーカの向いている方に目をやると、青いドラゴンが3匹見えた。
「ちぃっ!」
ハーカはすぐに着陸し、俺を降ろした。
「ま、待てよ!なんで俺を置いていくんだ!」
「無理に決まってるだろう!ドラゴンに人間が抗えるはずがない!」
ハーカはそういうとドラゴンの方に向かって飛んでいった。
「……」
また、何もできないのか。
俺はうなだれた。このまま、見ているだけなのか……。
「ノラス王子!」
と、後ろから声がした。イルレだ。
「な、なぜこんな場所に!」
「あなた方を追いかけてきたんです。やっぱりあなたはノラス王子なんですよね!」
「……」
「私が1年前に見た雄姿と、さっきのドラゴンに乗っている姿。同じでした」
「……俺は確かにノラスだ。せっかく尊敬してくれたのに悪かった。俺は見ていることしかできない」
今の自分はもうそんな姿を見せることもできない。
遠くに目をやると、ドラゴンが戦っているのが見えた。
「あれは……ノラス王子が乗っていた」
「ハーカだ。さっき俺と一緒にいた」
「あの女の人が!?」
ハーカはまず右側のドラゴンに火炎を放ち、吹き飛ばした。
次に左のドラゴンに左腕を振りかざして地面にたたきつけ、そのまま前のドラゴンに火炎放射を放った。
しかし、前のドラゴンはそれを右手に青いバリアを生成して軽く防いだ。
そしてそのままハーカにつっこみ、吹っ飛ばした。
「こっちに来る!」
ハーカは俺の方向に飛んできた。
急いでイルレを抱え、跳んで避けた。
「イルレ、大丈夫か!?」
「はいっ……。それよりも」
「ちいっ……」
「ハーカさん!」
そこに、さっきの青いドラゴンが来た。
「おや、これはノラス王子ではありませんか」
「お前は!?」
ノラスはそのドラゴンを知らなかった。
「ドラサ!」
だが、イルレは知っているようだった。
「知ってるのか、イルレ」
「はい……。奴は最近ガルアスの幹部になったドラゴンです。反抗する者には容赦しません」
「初めまして、ノラス王子。改めまして、ドラサと申します」
「俺の名を知っているのか」
「ええ、当然ですとも。あなたを消してしまえば、我々の脅威が完全になくなるということもね」
ドラサは平然と言い放った。
「くっ」
ここまでなのか……。
まだ、何もできていないのに。
「それでは、さようなら」
ドラサは魔力を溜め始めた。
が、ドラサを炎が包み、体が引っ張られた。岩陰から引っ張られたようだ。
「何だ!?」
「誰!?」
ノラスとイルレが岩の後ろに引っ張られると、そこにはハーカがいた。
「ハーカ!」
振り返ると、ハーカは人間の姿になっていた。弱っているようだ。
「一つだけ……。方法がある」
ハーカは立ち上がり、2人の方に近づいてきた。
「方法?」
「魔龍合体……。ドラゴンの中ではそう呼ばれる方法だ」
「魔龍合体?」
「人間と龍が一時的に一つとなり、大きな力を得ることができる……」
「そんなことが!」
「人間と合体するのはしゃくだが……。あいつらに殺されるよりかははるかにマシだ。」
「……どうやるんだ」
「簡単だ。私の手を握れ。それで合体できる。お前に私の魔力を注ぐんだ」
「……でも、俺が合体したところで力になるのか」
いくら人間のちっぽけな力を足しても通用するとは思えない。
「なりますよ」
イルレが言った。
「え?」
「ノラス王子の力があれば……。いえ、私も一緒に合体します!少しでも力になりたいです」
「イルレ……」
「私、魔力だけはあるんですよ!うまく魔法を使えるわけではないんですけど」
イルレは冗談っぽく笑った。
「だから、私の力を活かしてほしいんです」
「良いことを言うじゃないか、人間」
「イルレです!私が合体できるなら、ですけど……」
「可能だ。私がうまくお前の魔力を取り出してやろう」
「分かりました。やりましょう!ノラス王子!」
ハーカは立ち、手を差し出した。
イルレはそれに手を置く。
ここまで、自分を慕ってくれる者がいるとは。
ノラスはさっきまで怖気づいていたのが恥ずかしくなった。
ノラスは立ち上がり、ハーカの方を向いた。
「やろう」
「フン。それでいい」
ノラスも手を置いた。
「行こう!奴を倒す!」
「はいっ!」
「……よし、行くぞ」
3人が力を込めると、手が光り始めた。